【フィットするしごと】テレビ業界に、女性チームで柔らかく挑む(後編)
ライター 小野民
不定期連載「フィットするしごと」。女性の放送作家を束ねる「株式会社ベイビー*プラネット」の代表、たむらようこさんにお話をうかがっています。
フリーランスが多いという放送作家業界において、どうして会社を作ろうと思ったのかをお聞きした前編に続き、後編ではチームで働くことや、ご自身のはたらき方について聞きました。
女性はみんな「個人事業主」
──20年前にたむらさんは会社を設立していますが、その後女性中心の放送作家の会社はほかにもできましたか?
たむらさん:
「あまり聞かないです。女性の放送作家のチームが立ち上がった話を聞いたこともあるけれど、長くは続かなかったみたいで。女性を束ねるって一筋縄じゃいかないとよく言われます。
──一筋縄じゃいかないことだけれど、たむらさんはできている理由は何だと思いますか?
たむらさん:
「女性は全員が個人事業主だと捉えてやっています。だから、あまり管理しすぎない方がいいと思うんです。私がこの会社をやっていくにあたって唯一やっていることは……お菓子をたくさん置いておくこと(笑)」
──意外な答えです。
たむらさん:
「放送作家は1人でもできる仕事なので、私たちはいわば、集まる必要がないのに集まっている。でも『雑談』ができるんです。雑談しながら情報交換しているから、外に出て『女性の意見は?』って聞かれたときに、実感として『みんなの意見』を言うことができる。男性が多い職場の中で自信を持って『女性の意見』を述べるために、これはとても大切なことです。
雑談がすごく大事なんだと考えると、お菓子を置いておいて、みんながおしゃべりできる環境を作っておくといい。それは会社をやりながら気がついたことです」
──最終的なアウトプットは「みんなに届けたい」のだから、「みんなとのおしゃべり」は大事ですよね。
たむらさん:
「はい。テレビに向いている人って、ものすごく才能があったり、切れ者だったりすると思われがちなんですが、本当に向いているのはすごく普通な人。普通の感覚が分かる人じゃないとテレビ番組は作れないと思います」
「トラブル上等」の心意気で成長していく
──たむらさん自身も一人ではなく、組織でやっていてよかったですか?
たむらさん:
「はい。みんなの経験は私の経験になり、私の経験もみんなの経験になるので、総じてたくさん経験ができるのがチームでやっていることの良さだと思います。
毎日違うことが起こるし、事件もたくさん起こるから、成長せざるをえませんしね」
──たむらさんは、「成長すること」「育てること」を大事にしてらっしゃるんですね。
たむらさん:
「口では、『ここは部活じゃないんだから何でも聞かないで』なんて言ったりもしますが、実際は『育てる』ことはとても大切だと思っています。
上級生が下級生に教えてあげるようなことが、テレビ業界に限らず少なくなっていると思います。テレビ番組の予算も減ってしまっているし、昔はディレクターが編集室で編集してたものも、家に持ち帰ってできてしまうから、やり方を後輩に見せる機会がない。
取材先に失敗を詫びる電話を入れるとしても、それを後ろで聞いていたら勉強になるんですよね。だけど今は携帯電話もあるし、先輩の電話の仕方に耳をそばだてる経験もしにくくなっています。
最近、テレビ番組の捏造が話題になることが多いですが、教えられることなく、何が捏造かも分からないままやっている人もいると思う。私1人でどうこうできる問題ではないですが、自分の足元くらいはちゃんとできたらいいな、と。
だから、スタッフの原稿も隅々まで見ます。赤字だらけになるから、嫌がられていると思いますが(笑)。赤字いっぱいの原稿をプリントアウトして貼っている話を聞いたことがあって、ありがたいなぁと思います。
便利な世の中で1人でできることも増えているからこそ、チームで働くことの尊さもきっとあるんです」
たむらさん:
「そして成長するためには、本音で仕事することがとても大事だと思っています。うそで仕事していたら成長ってしない。本音でやっているとぶつかるし、トラブルがすごく起こるんです。でも、そのトラブル以外に自分を成長させることってあるのかな? と。
社員も、本気のケンカを仕掛けてくるから、それにも本気でぶつかっています。そうすると問題も解決していくし。トラブル上等ですよ(笑)。
スタッフが仲よくいられるのは、率直なコミュニケーションをとっているからですね。言葉のやりとりもそうですが、たとえば、会社には子連れ出勤もできるから、赤ちゃんがお母さんの机の上をハイハイしている、なんてことがあるんですが、目の前の席の人は乗り越えて来られないように、壁を作ってガードしていました。
そのほうが、赤ちゃんにとって安全ですし、何より働きやすい環境は人によって違うけど、それぞれ遠慮するんじゃなくて、一緒に解決策を見つけていく感じがいいな、と思いました」
他人ではワークライフバランスを決められない。
──たむらさんも、子育てをしながら第一線で走り続けて来たと思うのですが、ご自身や社員のワークライフバランスを、どうやってとっていますか?
たむらさん:
「ワークライフバランスを、会社が決めないのが一番大切です。一人ひとり性格が違う彼女たちのバランスをこちらが決めたら間違うから、絶対私は決められないと思っています。
会社には11時から19時までデスクさんがいて、それ以外の人の出退勤は自由で、時間管理もしていません。オフィスに仕事用の机は9つしかないんですけど、スタッフのなかには仙台や香港在住の人もいて、月に1回とか年に1回東京に来る人もいます。今はオンラインでつないで打ち合わせもできるので、遠くにいても一緒に働くことは可能です。
私自身は、『息子と喋れる時間は全部息子との時間』とだけ決めています。息子も塾に行く年齢になってなかなか家にいられないので、家族が一緒にいられる時間は一緒に過ごすと決めていて、それ以外は自分の自由時間と考えています。そのくらいの決まりがちょうどいいんですよね。
あとは、家と職場を近くして時間を確保しているのは、工夫しているところかもしれません。とはいいつつ、実際は毎日ぐちゃぐちゃで、自分もどうすればいいか模索し続けています」
──スタッフのみなさんはどのように仕事を分担しているのですか?
たむらさん:
「会社で受けた仕事を割り振っていますが、これが難しい。私自身、やりたくないことはやらないと公言して、人にも『やりたくないことはやらなくていい』と言っているので、せっかく話が来た仕事でも、誰もやりたがらなかった、みたいなこともあります(笑)。
私は、クオリティの管理をする役目だから、みんなの原稿に目を通す。そこで、コミュニケーションをとっている部分もありますね。100しゃべるより1原稿を見る方が分かることもある。
性格にまで立ち入る必要はないけれど、どうしても原稿が上から目線になっちゃう子には、そういう癖があるよって伝えたり、どうしてそうなるかを一緒に考えたりもします」
「テレビが得意なこと」で、もっと、きっとできること。
たむらさん:
「放送作家を続けてきたのは、『楽しいから』ということに尽きます。
昔、印象的なことがあって。秋田で朝の単線電車に乗っていた時に、女子高生が「おっはー」って言いながら乗ってくるんです。それは、私が書いていた慎吾ママの決め台詞。楽しそうにみんなが「おっはー」と言っているのを見て、すごく嬉しかった。あのときの女の子たちの笑顔は、原動力ですね。
自分がやっていることで、どこかのだれかがすごく楽しんでくれているかもしれないと思うから、やっていられます。テレビって、選んで見に行くというより、何気なく目にするもの。だからこそ、その人の一部になったり、人生の選択に影響するみたいな偶発性が、おもしろいんです」
たむらさん:
「これから先は、自分がやってきた番組作りのノウハウを少し違う分野でも生かしていきたくて、具体的にいうと、医療動画を作りたいです。自分が癌を患ったことで多少詳しくなったんですが、お医者さんが足りてないんです。
そんな状況もあって、お医者さんがしっかり時間をかけて患者さんに説明できていないことも多いと感じます。
お医者さん一人ひとりに『もっと説明して!』と詰め寄っても自分の周辺しか解決しないので、仕組みから変えたいと思うようになりました。だから、待合の時間にiPadなどで見られる動画を作りたい。病気や手術の説明をする映像って、健康番組を作ってきたテレビの得意なところ。前例がないからなかなかプロジェクトとして始まらないんですけど、ぜひ実現させたいです。
私がたまたま大きな病気をしてしまったのは、ギフトだと思っています。自分が経験したことで、人の役に立つことをシェアするのが仕事の本質です。経験シェアリングで、1人が身近な1人か2人を幸せにできたら、それが広がれば世界中はきっとよくなると信じています」
(おわり)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
後編
テレビ業界に、女性チームで柔らかく挑む
たむらようこ
1970年、福岡県生まれ。早稲田大学卒業後、内定先と間違えて電話してしまったのがきっかけで、テレビ番組制作会社に入社。ADを経て放送作家に。2001年、子連れ出勤もできる女性だけの放送作家オフィス「ベイビー*プラネット」を設立。これまでに手がけた番組は『サザエさん』、『めざましテレビ』、『クイズ$ミリオネア』(フジテレビ系)、『サラメシ』、『おじゃる丸』、『祝女』、『NHKスペシャル 人類誕生』(NHK)、『情熱大陸』『世界の日本人妻は見た!』『教えてもらう前と後』、『世界遺産』(TBS系)など多数。ブームを巻き起こした「慎吾ママ」の生みの親でもある。
ライター 小野民
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫4匹と山梨県在住。
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