【あのひとの子育て】木村文平さん〈後編〉ありがとうが3倍になって返ってくる。だから3倍の気持ちでやろうと思っています

ライター 片田理恵

フリーランスのカメラマンであり、小学校二年生の三つ子のお父さんでもある木村文平さんにお話を伺っています。前編では「お父さんになった自分」への戸惑いや、「お父さんの役割ってなんだろう」という疑問について、率直な気持ちを話してくださった木村さん。

続く後編では、三つ子ならではの子育ての日々にフォーカス。お子さんたちの誕生からこれまでの日々をお聞きします。

前編はこちら

 

三つ子だとわかった時、嬉しかったです

木村家には、白い産着を着た小さな赤ちゃんたちの写真が飾られています。寄り添うように並んだ3人はそれぞれが互いの方を向いて、なんだかおしゃべりしているみたい。赤ん坊のふわふわとやわらかな感触、力強い命の鼓動がなんだかそのままそこにあるようで、思わず見入ってしまいました。

木村さん:
「妊娠がわかった時、妻から携帯に電話がありました。その第一声が『帰り道に事故らないで欲しいんだけど……』だったんです。瞬間的に、何か悪いことが起きたのかもしれないと身構えました。だから次に『三つ子だった』といわれた時、ああそういうことか。ならよかったって安心して。妻はこれから先の大変さを考えてすごく不安になっていたみたいなんですが、僕はまず、嬉しかった。

その時は写真の現像所にいたんです。ところが電話を切ってからだんだん我にかえってみると、確かに妻の言う通りだ、これからどうしようと頭が混乱してきた。

顔見知りだったその店のご夫婦に『子どもができたんです。今、三つ子だって連絡があって』と話しました。そうしたらそこのご主人がすごく自然に『おめでとう』と受け止めてくれて。それですごく気持ちが落ち着いたんです」

 

「父親らしいことをしたい」という焦り

出産は、妻・有子さんの地元である広島で。そのまま産後も実家にとどまり、子どもたちが2歳になるまでは有子さんの両親と姉、お母さんの友人らのサポートを受けながら育児をしていたといいます。木村さんは東京で仕事をしながら、月に10日ほどは妻子に会うために広島に通っていたのだとか。

木村さん:
「子どもの日用品は、妻が夜な夜な僕のアマゾンアカウントから購入していました。だから毎晩のように購入確認のメールが来るんですよ。この間頼んだばかりなのにまたオムツ注文してる!今度はミルクも!と、驚いたり突っ込んだりしながら、向こうの生活に思いを巡らせていました。

妻の毎日が相当大変なのはわかっていたので、東京にいる間は、こちらから連絡はできなかったですね。たまに来るメールやテレビ電話がたまらなくうれしかったのを覚えています。ついに東京に戻って来ることになった時は、心配や不安なんか二の次で、とにかく一緒に暮らせるのが楽しみでした。2年もその日を待ち望んでいましたから……。

離れている間も、何か父親らしいことをしたいという思いは常にある。でも何をどうしたらいいのか。気持ちが空回りして、妻とぶつかったことも何度もありました。でも焦らなくても父親の役目はいずれ来るもんですね。今、少しずつそれを実感している感じがします」

 

お父さんだけでも大丈夫な時間が増えました

と、そこへ子どもたちが学校から帰ってきました。いつもなら撮影に出かけているか、立入禁止の仕事部屋で作業をしているお父さんが、リビングにいる! テーブルについておやつを食べながら、3人とも、いえ4人とも、なんだかうれしそうです。

木村さん:
「小学生になって、育児のめまぐるしい日々はある程度終わったのかなという気がします。でもその分、ひとりひとりに向き合う時間が必要になってきたように感じていて。とはいえ3人同時にかかってくるので、正直受け止めきれないこともありますね……。

子どもたちはみんな見事に性格がバラバラ。それぞれのやり方やペースにまかせて見守ってやりたい気持ちはあるけど、それだと物事が前に進まないし、予定や時間に間に合わない。結局親が手をかけて、あれこれ世話を焼いているのが現状です」

つい甘やかしてしまってと苦笑いする木村さんと、その背中にかじりつきながらてんでに話しかける子どもたち。

親としての自分にはなかなか及第点を出せない。そんな木村さんの気持ちも本当によくわかります。でもお父さんと過ごす木村家の子どもたちの表情や仕草を見ていれば、どれだけ安心して、くつろいでここにいるかは一目瞭然。心も、体も、丸ごと預けて甘えられるお父さん(しかも3人同時に!)って、すごく素敵です。

木村さん:
「子どもたち3人が遊んでいるところに入っていって、一緒にボードゲームをしたりするのが楽しいんです。最近は子どもたちを寝かしつけるのもできるようになりました。少し前まではお母さんがいないとダメだったんですけど、今は僕ひとりでも大丈夫。それはちょっと嬉しいです」

 

ありがとうが3倍になって返ってくる

食器も、ランドセルも、学校で作った工作も、神社のお札も、すべてが3つずつ並ぶ木村家のリビング。子どもたちひとりひとりの個性は、3つ並んでいるからこそ際立ってくる側面もあるのかもしれないと感じました。

木村さん:
「普段から『3人いる』ってことを意識しているわけじゃないんです。無意識で、ただ父親として子どもと向き合っている。だから自分でもたまにハッとする時があるんですよ。『あ、3人いるんだ』って、なんだか嬉しくなるというか。

例えば僕が子どもたちに何かした時に、ありがとうが3倍になって返ってくるんです。「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」って。だからやるのは1回だけど、そこに3倍の気持ちを込めてやろうっていつも思っています」

木村文平さんの子育てインタビュー、いかがでしたか。不安や戸惑い、焦り、そして何にも代えがたい喜び。率直な気持ちを語ってくれた言葉は、子どもたちと真摯に向き合おうと試行錯誤するお父さんの愛情そのものでした。

子育てに「誰かと同じ」はありません。それぞれが自分の悩みを悩みながら、前に進んでいく。とすれば木村さんの誠実さと覚悟は、自身の悩みとしっかり向き合っているからこそ生まれるものなのではないでしょうか。

(おわり)

【写真】神ノ川智早

 

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木村文平

山形県鶴岡市の100年続く老舗写真館に生まれる。大阪芸術大学写真学科卒。カメラアシスタントを経て、2007年よりフリーランスフォトグラファーに。著書に『雰囲気写真の撮り方 ナチュラルな光を活かすデジカメ撮影術』(エヌディエヌコーポレーション)などがある。

 

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ライター 片田理恵

編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「天然生活」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。

 


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