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【エッセイラジオ】第4夜：一田憲子さんのエッセイ「おしゃれな部屋がいいわけじゃない」（読み手スタッフ青木）

編集スタッフ　岡本

今日も1日おつかれさまでした。

皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか？

週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。

そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。

思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。

今夜のエッセイの書き手は、編集者・ライターの一田憲子さん。読み手は、当店スタッフの青木です。

ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。

おしゃれな部屋がいいわけじゃない

一田憲子

インテリアの記事を書くことが多い私は、
絶えず素敵な部屋の持ち主を探しています。
「あの人、今度引っ越したらしいよ」
「あの人の部屋が素敵らしいよ」と聞くと、
「ちょっと遊びに行かせて～」
とチェックへ。
そして、かっこいい家具が並び、
センスのいい雑貨が飾られていたりすると
「わあ～」と大喜びしたもの。
でも……。

ある時トークイベントを開催した後、
読者の方からお手紙をいただきました。
そこには
「一田さんが紹介する
素敵なお宅を見るのが大好きです。
でも、片付けが下手で
素敵な部屋は作れないとわかっているから
時々、自分はどうしたらいいのか途方に暮れます」
と綴られていました。

そうか。誰もが素敵な部屋を
作りたいわけじゃないんだ……。
この事実は、私にとって衝撃でした。
みんなが素敵な部屋、おしゃれな部屋で
暮らしたいと思っているはず。
現実には忙しくてなかなか無理でも、
目指すのは「そっち」だと信じていました。
でも、彼女は「自分は違う」と
線を引いていたのです。

旅行に出かけて田舎を車で走りながら、
そこで暮らす人の風景を見るのが大好きです。
時折窓が全開になっていて、
おばあちゃんがこたつでお茶を飲んでいたり、
キッチンの様子が丸見えだったり。
そんなとき、大抵が部屋の中は雑然としています。

こたつの上には新聞やらみかんやら
急須やらが並んでいて
キッチンには、調味料が林立し、
何かが中に入った鍋が
無造作に置かれている……。
でも、そこには確かな生活感があって
「ああ、なんて幸せな風景なんだろう」と
毎回感動してしまいます。

そんな経験を経て、どんな部屋にも、
必ずそこで生きる人がいて、
いろんな幸せの形がある、
ということがわかってきました。
みんな違うからこそ、
インテリアにはその人の生き様が現れて面白い！

30歳で離婚をした時、
インテリアの取材に行くのが
とても辛かった時期があります。
ある時、取材を終えるともう夕方近くなり
「ぜひご飯を食べていって」と
ご馳走になりました。
古い一軒家の台所で、
子供たちとおじいちゃん、おばあちゃんも
一緒にホットプレートで
餃子を焼いていただきました。
ワイワイ楽しくおいしい時間を
過ごしたあとの帰り道、
ツ～ッと涙が流れました。

そして、私はこれから
インテリアの取材を通して
こんな普通の暮らしの温かさ、
家族の幸せを綴っていこう、
と思ったのでした。

誰もが雑誌の世界のような
素敵な暮らしができるわけではありません。
でも、おしゃれでなくても
毎日そこでご飯を食べ、家族と話したり、
一人で勉強したり、映画を見たり。
そんな積み重ねでしか作れない
「かたち」があります。
どこかに売っているものを買ってくるのではない
確かな「かたち」は、
私にしかつくれないもの。
そう考えると、
なんだか自分の1日1日が
とても尊く感じられるのです。