【エッセイラジオ】第19夜:馬場わかなさんのエッセイ「一人で食べる」(読み手 スタッフ寿山)
編集スタッフ 岡本
今日も1日おつかれさまでした。
皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか?
週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。
そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。
思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。
今夜のエッセイの書き手は、フォトグラファー・馬場 わかなさん。読み手は、当店スタッフの寿山です。
ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。
一人で食べる
馬場 わかな
その人は、歳の頃は
40代半ばくらいだったろうか。
年老いた母親と、
ふわふわの毛の猫と暮らしていて、
大学生の甥っ子と、彼に図々しく
くっついて上がり込んだ
その恋人(だった当時の私)を
コタツに招き入れ、
手際よくささっと作ったおかずを
気に入りの器に1つ1つ盛って
御膳に載せ、ふるまってくれた。
その一連の動きがとても楽しそうで、
自分が美味しいと思うものを
作って食べる、ということを
日々喜んで、楽しんでいるのだな、
素敵だなあ!と感じたものだ。
それは実家暮らしの大学生だった私が、
生活を楽しむ、ということを、
家族以外の人にくっきりと見せてもらった
初めての体験だったかもしれない。
社会人になり、
自分だけの台所を持ちたい
という願望とともに、
自分たちで暮らしを組み立てたい
という気持ちが膨らみ、
結婚願望がマックスになった頃、
その彼とは別れた。
その割とすぐ後、
26歳でようやく一人暮らしを始めた私は、
失恋で心にぽっかり穴が空いた
孤独を抱えながらも、
やっと自分の台所を持てた喜びを
日々味わっていた。
別に特別なものを作るわけではない。
ただその日の気分にあったものを作って、
自分が好きと思って買った器に載せて食べる。
自分なりに美味しいと思えたら嬉しく、
良い組み合わせだったと思うと
ノートに記録として
書き込んでみたりしていた。
お腹がいっぱいになるというのは
幸せなことである。
あのとんでもなく
しょんぼりしていた時期だって、
ひどく落ち込み過ぎた時以外は基本的に
ごはんを食べる時間は幸せだった。
料理の、集中して作る→
出来上がる達成感→食べて満腹、
の流れがまた満足感があるのだと思う。
そして血となり肉となり、
体を心を動かすエネルギーをくれるのだから
素晴らしいじゃないか。
ありがたいじゃないか。
あの頃、一人の食卓を味わっていた私は、
心の中で、あのおばさんが見せてくれた
生活の喜びを、彼女の美しく生きる姿を、
何度も思い浮かべることがあった。
彼女は一人暮らしではなかったけれど、
事情はわからないが結婚はせず、
たくさんの日々の喜びを慈しみながら
生きるその姿を思い出すと、
愛おしいような、背筋が伸びるような、
心細い気持ちが温まるような思いが
したのだった。
ごはんはエネルギーだし、ごはんは愛だ。
自分自身にかける愛の毛布だ。
おっと、格好よさげなことを言ってしまった。
(いや、そうでもないか……)
まあ普段食べているときに、
毎回そんな暑苦しいことは考えないが、
食べる、ということのポジティブな面が
私は好きだし、とても感謝している。
美味しく食べられたら、大丈夫。
あとはお風呂であったまって寝ればいい。
今日もおつかれさまでした。
どうぞ良い眠りを。
いかがでしたか?
ほんの数分ではありますが、心の緊張がほどけたり、すうっと眠りに入るきっかけとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。
次回の配信も、どうぞ楽しみにしていてくださいね。
エッセイラジオを通して、このささやかなエールが届きますように。それでは、おやすみなさい。
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