【育ち合うために】第3話:根拠がなくたっていい。不安なときほど「私も子どもも大丈夫」と唱えて

編集スタッフ 岡本

朝、保育園に送って迎えに行くまでの数時間のあいだにも、ぐんと成長している子どもたち。それに比べていつまで経っても親としての振る舞いに自信を持てない自分がいます。

母になって5年。子どもが笑顔でいるからきっと大丈夫。そう思いつつも、これからもっと複雑になっていく心との付き合い方や健やかな親子関係の築き方に、明るい方へ導いてくれる道標があったならと思わずにはいられません。

そんなときに手に取った本に書いてあった「私が知りたいのは、子どもをどう育てるかではなくて、子ども自身がどう育とうとしているか」という言葉。もしかしたら子どものことを自分軸で考えすぎていたのかも、とハッとしました。

その本の著者である保育者歴50年の柴田愛子さんに、子どもがすくすく育つこと、そしてその周りにいる大人たちについてお話を伺うこの特集。第3話では、私自身が日頃感じている子育ての悩みについて話を聞いていただきました。
第1話から読む

 

体験して考えるからこそ、真に分かることがある

ここ最近、5歳の息子と2歳の娘の関係性に変化が訪れたように感じています。娘のおしゃべりが達者になってきたからか、お兄ちゃんの方もムキになって気付けば本気の兄妹げんかに発展。感情が高ぶった二人は、いよいよ手を出してしまいます。

そうなるとどうしても叱ってしまうのは息子の方。小さい子に手を挙げちゃだめという理由からなのですが、その場をやり過ごした後、「これで良かったのかな」と私の心にも靄がかかってしまいます。

柴田さん:
「子どもが集まれば、けんかは日常茶飯事よね。

でも明らかに自分より小さい子相手に手が出てしまうのはどうしてだと思う? それはきっと、力でしか勝てないと思っているからじゃないかしら。妹が泣いて甘えたら親は無条件で下の子につくでしょう。

普段は気にしていないけれど、子どもは何かのきっかけで親の愛情を比べてしまうものです。

お母さんが仲裁に入った途端、けんかの理由なんて忘れてる場合もあるくらい、子どもの頭のなかは『さあ、どっちにつくんだろう』ってことでいっぱい。『お兄ちゃんなんだからそんなことしたら』って言われようものなら、自然と妹はいいよなあって思うわよね」

柴田さん:
「けんかの中で育まれるものもあるはずだから、両方がやる気で危険性がないようだったら止めません。

でもそろそろやめどきだなと思ったら、そのまま伝えればいいんです。『もうやめなさい』とか『やりすぎよ』と声をかけるだけで、年齢のことやお兄ちゃんだとかは含めないでね。

自分より小さい子に手を挙げちゃいけないっていう感覚は、体験してコントロールできるようになることじゃないかと思うんです。

『ちょっと押しただけなのに尻もちついちゃって、小さいのって弱いんだな』って、自分で分かっていくことが『もうやめよう』に繋がるはず。たとえ、小さい子には優しくねと言い続けてやらなくなったとしても、その子にとってはお母さんに怒られないためのルールでしかありません。

どうして手をあげてはいけないのか、優しく接しなくちゃいけないのか、真に理解をしているわけじゃない。ルールでは気持ちを想像することはできないわよね」

 

子どもにも意思がある。
でも、尊重までしなくたっていいんじゃない?

よく壁にぶつかるのが子ども対親の思いがぶつかる場面。子どもの意思を尊重したい気持ちはあれど、どの程度汲み取ればいいのか分からなくなってしまうのです。

例えば週末の予定について話しているとき。児童館に行きたいという息子の意見を聞いても、すぐに飽きて公園をはしごした日のことを思い出すと、つい『はじめから公園に行こうよ』と言いたくなってしまいます。

柴田さん:
「意思を持っていることは事実だけれど、尊重まではしなくていいと私は思いますよ。

子どもには意思がある、でも親にだってあるんだもの。お互いにとって大事な時間なのだから、子どもばっかり尊重しなくちゃいけないわけじゃありませんよね。

例えば、あなたのやりたいことに付き合えるのは16時までだよと伝えて予定を相談したり、『この間は飽きちゃったけど、どうして児童館に行きたいの?』と聞いてみればいい。

子どもの気持ちを無視するのはよくないと思います。でも尊重ばかりしていたら1日が回らないし、人の気持ちを想像しにくくなっちゃうんじゃないかしら」

柴田さん:
「最近よく『主体性のある子どもに育つには』って聞かれるけれど、それはその子だけが主体的に生きて、周りが多少の無理をして合わせていこうって話じゃないですから。それぞれみんなが主体的でいられたらいいわよね。

優先したいのは、子どもの意思を聞くこと。そして自分の意思も伝えてみて、お互いのいい塩梅を見つけていく時間が大事なのだと思います。

それにね、そうやって自分の気持ちに耳を傾けてくれた経験のある子は、きっと外でも人の気持ちを聞ける子になるはず。人にはみんな意思があるから折り合って暮らしていきましょうっていうコミュニケーションを家庭でも積み重ねていけたらいいですよね」

 

少し離れて待つ。
子ども自身が広げていく世界を見守って

意思の尊重にも繋がる悩みからもうひとつ気になっていたことを聞いてみました。それは、人生に苦しい経験は必要ですか?ということ。

継続している何かを「辞めたい」と言われたとき、それも本人の意思だと思うと、受け入れるべきか、もう少し続けてみようと声をかけるべきか迷うのです。忍耐力を持って乗り越えることって大事でしょうか。

柴田さん:
「きっとそういう経験があった人はあの苦しい時期があったから今の自分があると思うのかもしれませんね。

でも個人的にはそこにこだわりすぎなくてもいいと思います。私はそういう辞めたくても辞められなかった時期ってなかったから。

親は子どもに願いを託して、早いうちから何かさせたいと思いますよね。

でも小学校高学年くらいまでのうちは、親の安心に付き合ってもらっているくらいに思っていた方がいいと思うの。かけた時間やお金に対して、どんなものを受け取るかについて、親が責任を持つことはできないですから。その子が何を身につけてどう育つかは、その子自身の問題です」

柴田さん:
「私が何かをしたいと初めて言ったのは、小学校4年生のとき。『ピアノがやりたい』と母に言って、週に4回も通っていました。そのうち母が『あなたにはピアノがあるから大丈夫ね』と言ってくれたときは、なんだか嬉しかったのを覚えています。

親はあれこれやらせたくなっちゃうけど、子どもが勝手に興味を広げていくのを見守るので十分だと思います。うちの子はやりたいことがないって不安に思うかもしれないけど、子どもは日々膨大な情報のなかから色々と敏感にキャッチしています。

その子にとって期が熟した頃に発信される『好き』とか『やりたい』に気付ける勘を養っていきたいですよね」

 

根拠のない「大丈夫」が必要な時がある

取材の最後にお聞きしたのは「子どもがのびのび育っているサイン」について。迷ったり悩んだりな子育ての日々にポジティブなサインを見つけられたら、必要以上に不安を抱えずにいられそうです。

柴田さん:
「一番は顔の表情かなあ。怒ったり泣いたり笑ったり、心が動いている様子が表情から伝わってくること。あとは、言いたいことを言えているか。それくらいじゃないかしら。

子どもだってね、どこでもわがままが通用するとは思っていないんです。保育園では保育園の顔があって、好きな先生の前で見せる笑顔も、苦手な先生の前での流し方も、子どもは持っています。

子ども自身がその場の空気を読み取って、家では言いたいことを言ってもいいんだって判断しているとしたら、のびのび育ってると自信を持っていいはず」

柴田さん:
「きっと子育てしているあいだ、心配は尽きないと思います。でもその気持ちを常に漂わせていると、いつからか子ども自身が『僕って大丈夫かな』って自信がなくなってきちゃう。

だから根拠はなくていいから『この子は大丈夫』『私も大丈夫』って思っていていいんですよ。

つい好奇心旺盛でコミュニケーションが取れて集中力もあって……って願いが大きくなってしまうけれど、元気で機嫌よく生きていればそれでいいじゃない?

せっかく生まれてきた人生よ。100年もある時代、せかせか歩きなさんな。子ども時代を、お母さんお父さんも一緒に謳歌しましょ」

どんなに幼くても手のかかる子でも、目の前の子どもが過ごしている毎日はこの子自身が歩んでいく人生の1ページ。一緒に暮らす我が子だからこそ、その前提を置き去りにしてしまいがちだったと気付かされました。

柴田さんとのおしゃべりを経た今、私らしく子どもと向き合うための姿勢を教えてもらった気がします。

きっとこれからも、なかなか自転車に乗りたがらない公園の帰り道や度重なる兄妹げんかに、私の心は乱れて苛立つのでしょう。

でもめいいっぱい泣いたり笑ったりする子どもたちの姿を目にするたび、私たちは大丈夫だと心の中で唱えたいと思います。その言葉がきっと、たくましく明るい方へ導いてくれるはずだから。

(おわり)

【写真】馬場わかな

 

もくじ

 

柴田愛子

1948年東京都生まれ。自主幼稚園「りんごの木」代表の保育者。保育者歴50年。21歳から保育の世界に入り、12もの子どもにまつわる研究会に属するも、多種多様な教育方針に戸惑いを覚えて一度は退職する。1982年「子どもの心に添う」を基本姿勢としたりんごの木を設立する。

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