【セルフケア、はじめの一歩】前編:「不調=ダメ」ではない?こころとからだを整える、ポケットサイズのアイデア
ライター 藤沢あかり
からだの軽さと心地いい空腹感を感じながらすっきり目覚め、日中はポジティブな気持ちで元気に活動し、おいしくごはんを食べて、夜はぐっすり眠る。毎日をそんなふうに過ごせたら、どんなに気持ちがいいでしょう。
そう思う一方で、誰しも睡眠不足や頭痛、肩こり、冷えなどの小さな不調はつきものです。猛暑の疲れが見えはじめるこの時季は、うまく眠れず、それが翌日のモヤモヤの原因になって……というスパイラルも起こりがち。
「不調はつらいけれど、けっして悪いことではないんですよ」
そう教えてくれたのは、「チムグスイ」を主宰する植物療法士の鈴木七重(すずき ななえ)さんです。七重さんは、ハーブやアロマオイルなどを使った自然療法を通じて、こころとからだを根っこから整えていくための提案をしています。
そこで今回は、夏の疲れや小さな不調と上手に付き合っていくためのセルフケアをお聞きしました。揺らぎは誰にでもあるもの。だからこそ「これがあるから大丈夫」と、そっとポケットに入れておきたくなる、おまもりのようなお話です。
不調は、からだの状態を知るサインです
「今日も暑いですね。まずは一息ついてくださいね」
そう言って、おじゃましてすぐに七重さんが出してくれたドリンクの涼やかなこと!
グラスを傾けると、添えられたローズマリーがふうわり香り、ほどよい酸味とはじける炭酸が、汗だくのからだをすーっと通り抜けます。ほんのりとしたミントの余韻もさわやかで、思わず「ふわぁ〜」と声が出ました。
七重さん:
「ハイビスカスとルイボス、ジンジャー、スペアミントのブレンドハーブティーです。今日は暑いので冷たくして、さっぱりと飲めるように炭酸で割りました。目覚めのタイミングや、日中、シャキッとさせたいときにぴったりのブレンドなんです。いい香りだなぁ、って感じる瞬間って気持ちがいいですよね」
七重さんが植物療法と出会ったきっかけは、自身のアレルギー症状や冷え、疲れといった長引く慢性不調でした。そこから、生活習慣を根本的に見直すことで体質を改善。その経験が、いまの活動につながっています。
七重さん:
「女性は周期や年齢によってホルモンの揺らぎがあり、さらに現代社会はストレスや刺激と無縁というわけにもいきませんよね。わたしも不調はありますし、そもそも不調があればダメだというわけではないんです」
自分のからだとこころはどんな状態か、よく観察し、じっくり感じることを七重さんは「からだの声を聞く」と呼んでいます。
七重さん:
「からだの声をしっかり聞けば、不調も小さいうちに気づくことができます。いつもより肩が張っている、ちょっと頭が重い、胃がすっきりしない、気持ちがイライラ、モヤモヤする……というような、ささやかな違和感が不調です。まずはそれを自分で感じ取ることが大切。小さな不調は『いま、そういう状態ですよ』という、からだからのサインなんです。
傾きは小さければ小さいほど、立て直すのが簡単ですよね。それと同じで、不調もサイン程度の小さなうちに自分でケアができれば、心地いい状態を保ちやすくなれますよ。
人のからだは、変化や揺らぎがあって当然です。大切なのは、それとうまく付き合いながら、自分で立て直す方法を身につけていくこと。そして、揺らぎにくいからだになるよう、根本から整えていくことです」
健やかなからだを目指して「頑張りすぎないで」
日々の不調を整えるには、どんなことをすればいいのでしょう。
ヨガやランニング、ストレッチ、マッサージといったからだケアから、ハーブやスパイス、玄米菜食といった食養生まで、あらゆることが思い浮かびます。
七重さん:
「みなさん、健やかな体になるために『がんばる』って、つい思っていませんか? もうすでに、いろいろなことにがんばっているじゃないですか。だから、セルフケアはがんばるという気持ちを一旦置いて、素直に気持ちいいなと思うことを積み重ねてみるのはどうでしょう」
たとえば、デスクワークで凝り固まったからだを、うーんと伸ばしてストレッチ。からだがぐーっと伸びる動作は、たしかに気持ちがいいものです。公園で木陰を散歩しながら深呼吸する気持ちよさも、多くの人が感じたことがあるかもしれません。
鈴木さん:
「そんなふうに、自然とからだとこころが気持ちよく感じることが、セルフケアの一歩です。からだは、自分が意識した方へ向かっていくんです。だから、ちっちゃなことでいいので『気持ちいいな〜』と思うことを積み重ねると、それだけで『なんだか調子いいな』と思える毎日に変わりますし、結果的に小さな不調を改善することにもつながります」
これは、逆もしかりです。夜ふかしや運動不足、食べ過ぎ、悪い姿勢……ひとつひとつは些細なことで、たまにはそんな日が誰だってあります。でも、それがいくつも重なり長引くことで、からだが悪いほうへ傾いてしまうのは想像できる気がしませんか。
七重さん:
「からだは、小さな積み重ねで変わっていきます。いまのからだをつくっているのは、日常の生活習慣。誰だって、いまよりちょっと元気に、健やかになれたらうれしいですよね。そうすれば、こころも元気になれるはず。
頭痛を治したい、生理痛を和らげたい、と不調にピンポイントにフォーカスしたくなる気持ちもわかります。でも、少しおおらかに、からだ全体を通じて『よりよく生きる』と考えてみましょう」
子どもの頃からのあたりまえに「きほん」が詰まっている
七重さん:
「健康のために、ジムに通ったりヨガ、ランニングやウォーキングなどの運動を意識している人も多いと思います。すでにハーブティーやアロマオイルなどの植物ケアを取り入れている人もいるかもしれませんね。どれも心強い助けになりますが、その力をもっとアップさせ、効果的にする方法があるんですよ」
いまよりもっと、効果的に。それは気になります……!
七重さん:
「まずは、朝は起きたらしっかり朝日を浴びること。一日一回はからだを軽く動かして、お風呂では湯船に浸かります。夜はスマホやテレビはほどほどに、早めにベッドに入って睡眠をしっかりとる。食事は、旬の食材をバランスよく。こんな感じです」
どんな秘訣が聞けるのかと思っていたら、なんだか拍子抜けしてしまいました。「いまさら、そんなこと言われなくても知っているしあたりまえじゃない?」と感じたのも本音です。
七重さん:
「そうなんです、どれも子どもの頃から言われてきたようなこと。でも、シンプルで簡単だけど、実はできていないことが多いと思いませんか?」
うーん、確かに。そうしたらいいというのは知っていても、実際にすべてできているかと言われると……。
七重さん:
「特別なことをプラスして結果を出したい気持ちもすごくわかります。そのほうが、『からだにいいことをしている!』と思えるし、モチベーションも上がりますよね。もちろん、運動もハーブティーやアロマオイルも、どれもからだにはとてもいいものです。
でも、規則正しい生活が大前提。ベースが乱れていると、どんなにいいことをしても結果はなかなか出ません。言い換えれば、基本的なことがきちんと整っていれば、プラスアルファのケアの良さを何倍も実感できると思います」
日常のなかの、小さな小さな心がけ。わたしもこの文章を書きながら、いつもよりも意識的に、何度もストレッチを取り入れました。それだけで、シャキンと目が覚めるような気がするし、肩こりもぐんと楽に感じます。
こころとからだを整える、基本のき。
これを踏まえて後編では、ハーブやアロマを取り入れたセルフケアを教えてもらいます。
ハーブティーって飲みづらい? アロマってちょっと難しい? そんなふうに感じたことがある人にこそ、ぜひ試してほしい、身近で気軽なはじめ方です。
【写真】濱津和貴
もくじ
鈴木七重(すずき ななえ)
植物療法士。心身の不調を植物の力で改善した実体験から植物療法を学ぶ。『∴chimugusui(チムグスイ)』を主宰し、植物療法のオンライン講座やオリジナルハーブティーをはじめとしたアイテムの企画・販売などを通じて、セルフケアの大切さを広く伝えている。著書に『ゆるめる・温める・巡らせる』『私を整える。』(ともにエクスナレッジ)
https://chimugusui.com Instagram:@chimugusui
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