【すこやかに過ごそう】前編:小さなことほどたいせつに。振り返りは「今の自分」を知る手がかりです

編集スタッフ 津田

2023年も残すところ、あとわずか。

クリスマス、大掃除、忘年会と慌ただしいけれど、新しい年に向けて、願わくば「今年もよく頑張ったな」と気持ちよく締めくくりたいものです。

そんなヒントをもらいたいとお会いしてきたのが、クラシコムで産業医をしてくださる杉山葉子(すぎやまようこ)先生。今年5月に公開した読みもの『これからの生きかた』にも登場いただきました。

今回はその続編として、Well-being(ウェルビーイング)の視点から「今年の自分を振り返る」というテーマで、おしゃべりしてきました。前後編でお届けします。

『これからの生きかた』を読む

 

そういえば、年始に立てた目標って……

まずはウェルビーイングのおさらいから。

ウェルビーイングは、『ウェル=良い』と『ビーイング=〜である・存在する』で、ざっくり訳すと『自分が良いと思える状態でいること』です。

世界保健機構(WHO)の憲章前文に『健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることを言う』とあり、これが一般的な定義だとされています。

でも、それってどういうことでしょうか。「幸せ」とも重なる部分が多いけれど、ちょっとニュアンスが違いますし、人によって、時代によって、社会や文化や価値観によっても違うもの。もっと一人ひとりが自分軸で考えられるといいのでは?と、杉山先生が投げかけてくれたのが前回でした。

杉山先生:
「私自身はこれまで “振り返り” ってしたことがなかったんです。それで今回色々と調べてみると、これは一人ひとりのウェルビーイングを考える材料になりそうだなと感じました。

どういうことかと言いますと、自分というのは、常に変わっていくもので、今は時代の流れも早いですし、『自分が良いと思える状態』も、どんどん変わるのが当然です。

だからこそ、直近やったことや考えたことに意味づけをすることに価値があります。

年始の目標を達成できていなかったとしても大丈夫。『今の自分ってどんなムードかな、ここはよかったところだね、次はこうしていくのはどう?』と、今の自分を知るようなスタンスだといいのではないでしょうか。一年だと長い場合、この半年や3ヶ月に区切って振り返るのもアリです」

 

思い出すきっかけは手帳でも、スマホの写真でも

年始に立てた目標がなんだったのかすら忘れてしまった私は、杉山先生の言葉にホッとしました。

となると、次に知りたいのは『どんなふうに振り返りをするか』です。何を頼りに振り返ったらいいかのヒントはありますか?

杉山先生:
「皆さんが手軽にできそうなのだと、スマホに残っている写真を見返すのはどうでしょう。

日記や手帳でもOKですし、もし、1日1個の小さないいこと探しを書き留めていたら、それもすごくいい材料になります。

眺めていると、今年あった出来事が思い出されるはず。あわせて『そのときの気持ち』も思い出すように、ちょっと意識を向けてもらえるといいんじゃかなと思います」

▲私がスマホに残した「小さないいこと」を見てみました。毎日はできなかったけれど今年の振り返りに使えそうです。

杉山先生:
「ポイントは自分軸で振り返ること。比べるとしたら、他人ではなく過去の自分とにしましょう。数値化できなくていいし、主観でOK。ポジティブな気持ちばかりじゃなくてもいいのです。

そうやって見直すと、できることが増えていたり、挑戦していたことに気づけたり、経験や興味の点と点がつながったり、『来年は “いいこと” を見つけたら残しておこう』と思うかもしれないですよね。それらはすべて、振り返りのたいせつな成果です」

 

「やってみよう」と思えたことが一つでもあれば

試しに私もスマホの写真やメモを見返してみました。

そこにあるのは、あまりにあたりまえすぎる、たわいもない日々。「湯豆腐がおいしくできた」「5年ぶりのフジロック」「仕事のことで、こんなふうに声をかけてもらえた」。

……しばらく見ていると、今年1年色んなことがあったんだなあと、感慨深いものが込み上げてきました。振り返りって、ちょっと大変そうと身構えていたけれど、こんな感じで良いのでしょうか。

杉山先生:
「とてもいいと思います。ぜひ日常の小さなことほど、たいせつにしてください。

幸福学を研究している前野先生は、『幸せの4つの因子*1』で、『やってみよう、ありがとう、なんとかなる、ありのまま』の4つが、主体的に生きるうえで重要なことだと言っています。

ご自身のスマホのカメラロールや手帳を見返して、そういう出来事はあったかなと辿るのも、面白いかもしれませんよね。

たとえば、私は今年LINEマンガを始めました。機械は苦手なんだけど、周りのみんなが使っていて面白そうだなあと。このくらいのことでも『やってみよう』と『なんとかなる』にカウントしてOKです」

*1…慶應義塾大学大学院で幸福学を研究する前野隆司先生が、現代日本人1500人にアンケートを行い、データを解析して、その構造をあきらかにしたところ、主体性や人とのつながりといった特定の特質や傾向=『4つの因子』を持つ人は、持たない人よりも、幸せに生きられることなどがわかった。
https://lab.sdm.keio.ac.jp/maeno/papers/JPA2012_saeki.pdf

 

ネガティブなこともあるのがいい、と思います

杉山先生:
「でも長い人生、いいことがあったと思えない時もあるかもしれませんよね。そんなときは、必死にいいことを探そう、探そうとしなくてもいいのです。無理は、かえって辛くなってしまいますから。

ウェルビーイングの話をしましょうと言うと、ポジティブな面ばかりが注目されがちですけど、本来はネガティブなこともあって、それも含めてのバランスなんだ、と私は思っています。つまり、ネガティブな自分も受け入れられたほうがいい。

『え?』と思うような出来事が、人生にはあるもの。たとえば病気になることや、頑張っていたのに結果が出ないことは、誰にとっても喜ばしいことではありません。でも、それによって気づけることも、きっとあるんじゃないでしょうか」

 

幸せは、人と共有すると3倍になる?

「ところで、誰と振り返るかというのもありますよね」と杉山先生。

私は、自分一人でするものとばかり思い込んでいたので、誰かと一緒に、という発想がありませんでした。

杉山先生:
「一人でももちろんいいんです。けど、人と話すというのも、とても効果的です。

幸せは人と共有することで3倍になる、という海外の研究があります。追体験と言われるもので、嬉しかった出来事を誰かに伝えると、自身がもう一度それを経験したように感じ、さらに聞き手からのポジティブな反応をもらうと、より幸福度が高まることと関係があるようです*2

年末年始は、家族や大切なひとと集まる時間も多いですよね。『今年やってみたことは?』と話題にしたり、『あなたのこういうところを尊敬しているよ、いつもありがとう』と感謝を伝えたりするのも、いいのではないかなぁと。

向こうからも、何かフィードバックをもらえるかもしれません。その気づきを、どう受け入れるかは、自分で決めていいのです。そういうやりとりは、他者を通して、自分をよりよく知ることにもつながります」

*2…https://www.prevention.com/life/a20441370/journaling-and-sharing-can-enhance-happiness/

 

「小さなこと」に気づけるように

先生が繰り返し言っていたのが「ハードルを下げましょう」「小さなことほどいいんです」ということ。

私も、虫眼鏡で覗くように、今年の出来事を振り返ってみました。すると見えてきたのは、ずっとしたかった猫との暮らしが叶ったり、そのおかげで人とのつながりが生まれたり、あとは好きな小説を読めたり、家族や友人とおいしいものとお酒を楽しめたり……。

年始に立てた目標は思い出せないけれど、少しだけ立ち止まって、自分の今いる場所を眺めてみたら、感謝の気持ちが湧いてきました。すると不思議なもので、このままじゃダメだ、もっとあれこれやらなくちゃ、という自信のなさからも、いつの間にか解き放たれていたのです。

杉山先生とのおしゃべりは後編に続きます。たくさんの人と会ったり、ごちそうを食べたり、非日常な時間が増える年末年始をどう過ごすか。心身ともに、すこやかでいるためのヒントをもらいました。

(つづく)

 

【写真】鍵岡龍門


もくじ

 

杉山 葉子

精神科医、産業医、労働衛生コンサルタント、ヘルスシード合同会社代表。保健師として働いたのちに大学で教育心理学を学び、その後、学士編入学制度で医学部(3年次)に進学。産業医としては「健康経営」さらに「Well-being経営」につながるようにサポートすることをモットーとしている。健康安全管理指導にくわえて、メンタルヘルス、セルフケアに関する健康相談など、Well-beingを目指した「健康を通して人と組織を活性化していく活動」に取り組んでいる。

 


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