【取り持つふたり】後編:密かなこだわりを込めて、一着ずつ。道具としての洋服を作っていきたいです(高松 × 東郷)

ライター 長谷川賢人

ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。

でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。

今回は、BRAND NOTEなどで企業とのタイアップ企画をプロデュースする「ブランドソリューショングループ」の高松と、オリジナル商品をつくる「PB開発グループ」でもアパレルアイテムを手掛けるスタッフ東郷が登場。

それぞれに「北欧、暮らしの道具店」という場所を解釈しながら、コンテンツや商品を届ける仕事をしているふたり。話してみると、ともに「好きだった仕事を見直す」という時期もあり、クラシコムに入社していました。いま、ふたりはどんなことを「届けたい」と思って、日々の仕事をしているのでしょうか。
前編をよむ

「もっとおしゃれを楽しみたい!」と上京しました

高松:
昔から、ファッションやおしゃれは好きでしたか?

東郷:
そうですね。生まれは静岡なんですけど、帽子をかぶるだけでも浮いて見えちゃうような町で育って。「もっとおしゃれを楽しみたいし、勉強してみたい」という気持ちが強くて、大学進学を機に上京しました。美術大学のファッション科で、将来はぼんやりとですが「服作りをしたいな」と勉強を始めたんです。

卒業後に入社が決まったのは、40年近く活躍しているモード系のコレクションブランドでした。大看板のブランドが一つあり、それに付随して手に取りやすい価格のラインやコラボラインを複数持っているようなところです。そういったラインの一つで、10年近く仕事をしましたね。

高松:
パタンナーやデザイナーになれたら、と思っていたのは、結局どちらで?

東郷:
パタンナーの肩書きで入社しましたが、実際はパタンナーがデザインも担っていて、与えられたシーズンごとのテーマを基に、デザインとパターンを一緒に考えていく作り方をしていたんです。それを新人にも機会をもたせてくれるところで、今思えば、本当に運が良かったですね。クラシコムでの仕事にもつながっていく経験になりましたから。

高松:
でも、いきなり両方を、となるのは難しかったんじゃないですか。

東郷:
私としては、そのブランドとしての「良し悪しの判断基準」が無かったことのほうが難しかったです。それは「文化」と呼んでもいいかもしれません。文化が染み込むまで、何回も何回も「これは良いもの」「これはだめなもの」と体感するしかないんです。

しかも、それに加えて個性も問われるんですよね。自分に無理をして作ったものだと、やっぱり見透かされるんですよ(笑)。ジャッジしてくれる上司たちにアイデアが全然通らなくなります。逆に、あまり時間がない中で、半ば無心で手を動かしたものが採用されたり。期限に向けて一点集中しながら、全員がすごいエネルギーで回っている環境だったと思います。

 

お客さまのことを見ながら、もっと身近な日常着を作りたくて

高松:
そこから転職を考えるようになったのは、なぜですか?

東郷:
憧れる先輩もいましたし、だんだんと思ったものが作れるようになってきたのですが、10年も続けると慣れを感じることはあったんです。それに、年に2回あるシーズンの期限に向けて張り詰める働き方を変えてみたい、という気持ちも。

あと、大きかったのはコロナ禍があったんですよね。シーズンのサイクルから一度立ち止まる機会ができたら、「もう少し自分の生活を大切にしたいな」と考えるようになりました。

高松:
そんな時にクラシコムの求人に出会ったんですね。以前からお客さまではあったんですか?

東郷:
お買い物は何度かありましたが、読みものをよく楽しんでいましたね。通勤電車でスタッフコラムを読んで、「こういう思いで仕事をする人もいるんだ」とか、同じような悩みを持っていることに勝手に励まされたりとか。「北欧、暮らしの道具店」をFacebookの広告で目にして、クリックしたのが最初だったのをなぜかよく覚えていて。

高松:
私も前職でよくFacebook広告を扱っていたので、こうして出会いが作れているとわかると、なんだか嬉しいですね…! でも、これまでモード系の服作りをしてきたなら、だいぶテイストが変わりませんか?

東郷:
そうですね。何より大きいのは、洋服を手に取ってくれる方のイメージが大きく変わるところにありました。

正直なところ、それまでは「私たちが作った商品は、どういう人に届いているんだろう?」と内心感じたまま、その洋服のかっこよさに惹かれて仕事を続けていたように思います。

それが「北欧、暮らしの道具店」であれば、一人ひとりのお客さまはインターネットの先にいるとしても、日々の読みものやコラムから、スタッフがお客さまを大切にしていることが伝わりましたし、もっと手にとってくださるお客さまのこともイメージできるはず、と思ったんです。

もっと身近な日常着を私自身も作ってみたかったですし、もともとは好きなテイストでもあったので、クラシコムは次に働く場所としてぴったりじゃないかなって。

 

「こんなふうに思う人もいるかも」と裏の裏まで考えます

高松:
私はドキドキで初出社を迎えたんですけど、東郷さんはどうでしたか?

東郷:
「本当に真逆のところに来ちゃったかも……」と最初は思いました(笑)。

カルチャーギャップも当然ありました。入社時は今のような生産管理担当がいなかったので、プランナーが企画から納品・発売まで、一連の流れを行っていたんですね。クラシコムはアパレル企業ではないので、ある程度覚悟して入社しましたが、やっぱり働いてみると、品質表示の確認や倉庫への検品依頼、編集チームとの連携をはじめ各部署とのやりとりが想像以上に多くて驚きました。

1年経って、生産管理の担当者が増えたこともあって、だんだんと企画に使える時間も増えていきましたが、以前とは服作りでも気にする観点がまた違うんです。

クラシコムでは「お客さまが着たらどんな感想を持つか」「長時間着たり、洗濯したらどうなるか」「お手入れ方法は簡単か」みたいに気にするポイントがたくさんありました。しかも、それを考える時間が、今までよりずっと長かったんです。

高松:
前職とは、良し悪しの判断基準も、それにかける時間も、全然違ったわけですね。

東郷:
たとえば、あるパジャマをつくったとき、最初は小さくて可愛いボタンをつけたんです。見た目はすてきだったのですが、日常着としてはボタンが小さすぎて留めにくい、という声を聞いて。「あっ、生活のなかで使うものは、そこに違和感があるんだ」と気付かされました。再販するときにはボタンのサイズを大きくするように改善しました。

高松:
見た目がすてきなほうが一見は良さそうに思えるのに、難しいですね。それこそモード系の洋服なら「おしゃれは我慢」なんて言葉が似合うものもあるけれど、それと対極にあるような気持ちを想像したり、そういった細かな仕様が大切になったり。

東郷:
そうなんです。デザイナーの想いを表すような洋服から、常にお客さまのことを思いながら作る服になったというか。「こんなふうに思う人もいるかもしれない」とお客さまの考えの奥の奥まで想像して、不安要素を全部洗い出していくように心がけるようになりました。

 

道具としての洋服を、もっと作っていきたい

高松:
クラシコムで洋服作りを続けてみて、考え方が変わったことは他にもありますか?

東郷:
多くのお客さまに喜んでほしいと思う一方、企画担当者として「作りたい服の軸」をぶらさないように心がけるようになりました。

これだけお客さまが増えてくださり、かといってどんな方にも受け入れてもらうようなものだけを目指すと、洋服としての個性がなくなってしまいます。商品を企画したときの動機が弱くなったり、個人的に良いと思ったポイントがどんどん削がれたりして……言い方は難しいのですが、商品が「ぼんやりしたもの」になってしまうと感じています。

日常で心地よく使えることは絶対に大事にしつつ、なるべく色んな方々に手に取ってもらえるようにしつつ、でもどこかに「自分の譲れないポイント」を込めていく。そうやってバランスを取らないといけないな、と今は思っています。一つひとつ模索しながら、ですね。

高松:
そういうふうに考えるきっかけがあったんですか?

東郷:
実は、グループ内で製作中のラインナップを見たときに、無難なところに落ち着きがちだなと感じる時期があったんです。後で振り返れば、アパレルの企画としての土台を作っていく時期だったんだろうとも思うのですが、色味もアイテムもベーシックなものが増えていた、というか……。

「ワクワクが足りない!」と、チーム内で一度、まずは「自分の好きなものを出し合ってみようよ」と楽しさを重視してみたんです。そうしたら、企画の採用率も上がって、使いやすさなどを調節していくように作り方が変わったことがありました。

高松:
それが「自分の譲れないポイント」を込めていく、という考えにもつながったんですね。「ここの密かなスリットが可愛い」みたいな。

東郷:
そうなんです。「私はここが可愛いと思う!」「このこだわりが実現できたら嬉しい!」というポイントが実はあります。だから、お店に並ぶときに「開発の裏側」として商品紹介の読みものを通してお伝えできるのが、実はすごく嬉しいんです(笑)。

高松:
あぁ、わかります。私もプランナーとして、クライアントの「ここがポイントなんです!」という個人的な思いに触れたくて、よくお話を聞くんです。

私たちプランナーが取り扱う商品は、店頭にずらりと並ぶ、いわゆる「マス商品」であることが多いです。でも、マス商品であってもその裏には企画した人、作った人、届けたい人がちゃんといて、それぞれに思いがあるんですよね。そういうことがわかるだけで、手に取る時の気持ちが変わったり、嬉しくなったりすることを、私自身も知ってきましたから。

きっとお客さまも、それを知りたいはず。BRAND NOTEだけでなく、タイアップ企画もいろんなカタチが生まれていますけど、その考え方は今も変わっていないですね。東郷さんの考えとも共通するところがあったようで嬉しくなりました。

東郷:
本当ですね! あとは、クラシコムで仕事をしていて、「自分に合う服を選ぶことは、本当に難しいんだ」とも感じました。でも、それが生活者としての視点なんだと思うんです。

迷う観点は色々あっても、それこそ「北欧、暮らしの道具店」で出会える雑貨と、同じようなテンションで洋服も手にとってもらいたい。「道具としての洋服」として、長くお気に入りになれる一着を、これからも作っていきたいです。

(おわり)

【写真】川村恵理

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