【あのひとの子育て】瀬戸山雅彦さん・小澤真弓さん〈後編〉思い通りにはいかなくても、家族で、笑顔で

ライター 片田理恵

6歳と3歳の姉妹を育てる、グラフィックデザイナーの瀬戸山雅彦(せとやま・まさひこ)さんと画家の小澤真弓(おざわ・まゆみ)さん。子育ての難しさを時に嘆きつつも、夫婦で協力し合って暮らす日々のお話を伺っています。

何よりいいなと感じたのは、お二人がずっと笑顔だったこと。こんなに大変だったというエピソードをお聞きしているはずなのに、ユーモアを交えてにこにこと話される姿が印象的でした。

後編では、子どもたちとの暮らしがもたらしてくれたもの、夫婦で話し合って決めた娘たちの呼び方について、お聞きします。

前編から読む

 

日常の中にある「絵を描くこと」

家族が暮らす家のまんなかにある大きな本棚に、丸い3つの飾りを見つけました。

これは6歳の長女・小葉(こは)ちゃんがパパにくれた、手描きのレコード。

どの盤面もすべて違う色とデザインで、文字は英語。一部デザインされた筆記体があったり、イラストがあったり、曲順が記されていたりと、凝ったつくりで驚きました。

小澤さん:
「何かを作ったり絵を描いたりするのは好きですね。それを誰かにあげるのも好きで、お友達と遊んで帰ってくるとその子にお手紙を書いたりしています。

このレコードもそんな感じで、誕生日だからとかではなく、普通の日に『パパ、あげる』って。

今朝保育園に行く時にも『ママは今、何が欲しい?』と聞かれたので、『指輪』と答えました。帰ってきて、覚えていたら作ってくれるんじゃないかな」

パパがグラフィックデザイナー、ママが絵描きさんという環境で暮らす子どもたちにとって、絵やアートはいつもそばにある身近な存在。鑑賞することも、創作することも、日常の中に自然と溶け込んでいるようです。

 

子どもが新しい私を引き出してくれる

▲夫婦のスマホの待受になっている長女の絵。舞台『ライオンキング』を観たあと保育園の自由帳に描いていたのを見つけた

瀬戸山さん:
「僕がパソコンの画面上でデザインの仕事をしていると、そばに来て眺めていることがあるんです。そして『パパ、なんでここはこの色に塗ったの?』と突然聞いてくる。

それが結構的を射ていて、びっくりすることがありますね。とっさに答えられなくてしどろもどろになっちゃったり」

小澤さん:
「私も、娘たちの問いに答えることで、自分の中から新しい言葉が引き出されているような感覚があります。

子ども向けのアニメーションの中で、象が七色に変わる演出を一緒に見たことがあったんですよ。どうしてこの象はこんな色をしてるの?って聞かれたので、その時は『これは現実の象じゃなくて、夢の中で見ている象だってことを伝えようとしているんだと思うよ』と答えました。

何かを子どもにわかるように説明しようとすると、言い回しも言葉の選び方も、大人相手とは違う基準でやらなきゃいけない。それは大変でもあるけど、同時におもしろさもあるんですよね。これまでにないアウトプットをしているなと思います」

本質を突くような子どもの言葉で、自分でも意識していなかった考えや感情に気づく。確かにそうかもしれません。そうして得た新しい視点を、小澤さんはスマホにメモして残しているといいます。

小澤さん:
「娘の言葉の中におもしろいな、覚えておきたいなと思うものがあって始めました。月ごとにファイルを分けて、もう3年間くらい続けているんですけど、たまに見返すと楽しいですね。

たとえばこれは小葉と一緒に空を見ていて、あれは羊雲っていうんだよって教えた時。そうしたらちょっと考えて『じゃあ、雨が降ったら羊雨になるの?』って聞かれたんですよ。その発想がいいなと思って」

 

役割の呼び方はしないと決めて

一方、次女・楚乃(その)ちゃんは、同じ姉妹でも小葉ちゃんとは全く違うタイプ。

好きな食べ物はお肉といちごで、食べることへの関心が高いといいます。大人が食べているものは「見せて!」とのぞき込み、パパがコーヒーを淹れると「におい嗅がせて!」と走ってくるのだとか。

そんなふたりは今、同じ保育園に通っています。縦割り保育のため今年度は同じクラスで過ごしていますが、最初は小葉ちゃんが妹と一緒なのをイヤがっていました。

瀬戸山さん:
「でも、楚乃は小葉にそう言われても全然気にしないんです。

おおらかというか、切り替え上手というか、ケンカをしても全く引きずらない。それどころか『大好きだよ』と言って仲直りしようとする。うまいんですよね(笑)。

小葉はやっぱり多少は引きずっちゃうんですけど、最近はちょっと変わってきました。

クラスでも楚乃をイヤだということはなくなってきたし、家でも保育園の続きというか、楚乃の面倒を自分から見るようになって。成長を感じます」

姉妹それぞれに違う、けれど確かな歩み。瀬戸山さんと小澤さんには、子どもを持つ以前から決めていたことがありました。それは姉妹を「役割では呼ばない、名前で呼び合う」ということ。

小澤さん:
「私の実家がそうだったんです。兄弟同士、名前で呼び合うのが普通でした。でも夫はそれが新鮮だったみたいで、いいねと言ってくれて。

だからうちも『お姉ちゃん』じゃなくて『小葉ちゃん』なんです。『お姉ちゃんだからこうでなきゃいけない』『妹だからこうしちゃいけない』なんてないと思うから。

うちはそういうふうに呼びたいから協力してくださいって、双方の親戚にもお願いしました」

瀬戸山さん:
「実は娘たちの名付けも妻の実家を参考にしたんです。

兄弟の名前がみんな植物に関係があって、なんかいいなとずっと思っていて。妻の『真弓』が落葉樹なので、娘たちには葉っぱの『葉』と、枝を表す『楚』を入れて、小葉と楚乃にしました」

 

悩みは尽きない、それでも

思い通りにならない子育てにもがきながら、それでも家族の暮らしを、自身の表現を、子どもたちの未来を、紡いでいこうとする瀬戸山さんと小澤さん夫妻。

お二人よりも年長の子どもを育てている取材スタッフから小中学生の育児の悩みを聞いた瀬戸山さんが「まだこの先にもそんな悩みがあると聞くと、『正直、もう終わってほしい〜!』と思っちゃいますね(笑)」というのを聞いて、思わずみんなで笑ってしまいました。

悩みが消えることはなくても、それを誰かと話し合うことができる。解決に至らなくても、それを誰かにわかってもらうことができる。

お父さんとお母さんであり、夫と妻であり、「私」と「私」であるおふたりの子育てチームが、今日もきっと頑張っている。そう思うと、私たちまで元気づけられるような気がしてきます。

(おわり)

【写真】木村文平

 

瀬戸山雅彦・小澤真弓

夫はグラフィックデザイナー/アートディレクター。大阪府出身。趣味はコーヒーとレコード。妻は絵描き。東京都出身。ひとりになりたい時は美術館に行く。夫婦共同での仕事も多数。6歳の小葉ちゃん、3歳の楚乃ちゃんと4人暮らし。

インスタグラム: @setoyama_masahiko 、 @ozawa_mayumi

 

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