【がんばらない片付け&収納】第1話:引田かおりさん「大好きな家事ではないけれど、滞っているのが苦手だから」

ライター 片田理恵

慌ただしい年の瀬に掃除をしたのもつかの間、年始を過ぎたあたりでもう一度、家の中を片付けたくなることがあります。人が集まって料理や食事を楽しんだ台所、いろいろな場所に出かけた後のクローゼット。どこか雑然として、心なしかモノも増えているような……。

ならば少し視点を変えて、春先に片付けと収納を見直してみるのはどうでしょうか。いつもの日常に戻ってひと息つく、そんな2月の頭に迎えるのが「立春」です。暦の上ではこの日から春。新しい季節に向けてゆったりと部屋を整えていくって、ちょっとすてきだと思いませんか?

2022年末の特集「がんばらない大掃除」で取材した3人の先輩たちを再び訪ね、がんばらない片付けと収納について、おしゃべりしました。

 

「見せつつしまう」はハードルが高い

一人目は「ギャラリーフェブ」「ダンディゾン」のオーナー、引田(ひきた)かおりさん

数年前から年末の大掃除は意識的にやめ、毎日少しずつ、気になるところを整えるというスタイルで暮らしています。

美しい木製の家具とやわらかな間接照明、差し色の雑貨が映えるリビングは、さまざまなモノが並んでいながらもすっきりと片付いた印象。実は、家具でバランスを取っているのだそう。

引田さん:
「収納棚は引き出しか扉がついたものが好き。中にしまって見えなくすれば、片付いているように見えるでしょう? 『見せつつしまう』ってすごくセンスがいるし、難しいと思うんです。

掃除するのだって、モノをどかして棚を拭いて、雑貨もひとつひとつ拭いて……と大変だしね」

飾るものは飾る。ほかはしまう。シンプルながらそれを徹底しているからこそ、この心地よさは生まれるのだと納得です。

さらにもうひとつ、引田さんが日々実践しているのが「気になると感じたら後回しにしない」こと。

引田さん:
「『あっ』と思ったらすぐやります。そのまま放置して、結局ずっと気にしている方がかえってストレスになるから。

私にとって大事なのは『気持ちよく暮らす』ことなので、そのために片付けや収納を工夫するという感覚ですね」

 

引き出しごとに “収納率” を変える

その考え方は、多くのアイテムでついごちゃつきがちな台所でも発揮されていました。

黒で統一されたシステムキッチンは、多くが引き出しか扉つき。ステンレスの作業台の上にはほとんど何も乗っていません。うーん確かに、気持ちいい!

では、引き出しに何をどのように入れるかということは、どうやって決めているのでしょうか。

引田さん:
「よく使うモノは取り出しやすい一番上の引き出しに入れています。

ケースで仕切って、詰め込みすぎないように。普段の料理はこの一段に入っている道具だけで十分。油はねがイヤだから、キッチンタイマーもここが定位置なんです。引き出しを閉めていても、音はちゃんと聞こえますよ(笑)」

▲一番上の引き出し。毎日使う道具は、すぐ取り出せるよう収納率を70%に抑えるつもりで整とん

引田さん:
「一番下の引き出しには、時々しか使わないけれどないと困るモノが入っています。オリーブの種取りとか、そういう道具。

ここは深さを生かして収納率は高めですね。『これはこの引き出しにある』とわかっていればいいので、私の中では、ごちゃっとしていてもいい場所。仕切りもほどほどにしています」

▲一番下の引き出し。使用頻度が低い道具なので、収納率は120%ほどでも構わない

引田さん:
「日に何度も視界に入る場所は整然としておきたいけど、どこもかしこも完璧に片付いている必要はないんです。

暮らしの中には、 “しわ寄せがくる場所” もあって当然だと思うから」

 

台所と寝室に、春を迎える準備を

そんな「毎日コツコツ少しずつ」派の引田さんに、これからの季節にやりたい片付け&収納を聞いてみました。

迷うことなく答えてくださったのが「毛布をしまう」ことと、「ガラスの器を出す」こと。

引田さん:
「もう少し暖かくなったら寝室の毛布を片付けようと思っています。

収納場所は、クローゼットに置いてある大きいサイズのトランクの中。旅行に出かける時以外は使わないから、季節外のモノを入れておくのに便利なんです。立てて置いておけば場所は取らないし、ホコリの心配もなし」

引田さん:
「それから、冬はあまり使わなかったガラスの器をそろそろ前に出したいですね。

食器棚の中を四季に合わせて並べ替えるのは、季節の変わり目に必ずやる楽しみなんです。

まずは全部を外に出して、棚板を拭く。それから使いたい器が手に取りやすい手前側にくるように、使用頻度や重さも考えながら全体の位置を決めていきます。

今持っているものが一通り見渡せるから、手放すものの見極めもしやすくておすすめですよ」

 

苦手なことは得意な人に相談すればいい

ひとつひとつの方法にちゃんと理由があり、これが心地よいという具体的なやり方を持っている引田さん。

苦手なことなんてないように見えるのは、やっぱり片付けと収納が「好き」だからなのでしょうか。

引田さん:
「いえいえ、どちらも好きというわけではないんです。停滞している感じ、詰まっている感じがとにかく苦手なので、それを解消するためにやりやすい方法を探しているだけ。自分でどうにもできない時は、夫に相談しています。

私は見た目全体を整える片付けが得意で、彼は引き出し一段ごとの中身を精査するといった整理整頓が得意。だからお互いに得意分野を生かして協力し合えば、私の苦手な写真整理も、パソコンの周辺機器の収納も、スムーズに解決できる。

一人で気負って無理をするのではなく、一緒に考えていくことで、楽しみながら気持ちいい暮らしをキープすることができているんだと思います」

「気持ちいい暮らし」という目的のために、「片付け・収納」という手段を活かす。引田さんの自然で軽やかなライフスタイルは、家だけでなく、そこで暮らす人の思いまで循環させてくれるようです。

先輩たちが教えてくれるのは、ノウハウにとどまらない、ワクワクするような気持ち。どんな暮らしがしたいだろうと自分自身に問いかけながら、この春、動き出してみませんか。

明日は二人目の先輩、イラストレーターの谷山彩子さんとのおしゃべりをお届けします。

(つづく)

 

【写真】神ノ川智早


もくじ

 

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引田かおり

2003年、夫のターセンさんとともに「ギャラリーフェブ」、パン屋「ダンディゾン」をオープン。2016年にギャラリー近くの一戸建てをリノベーションし、娘家族と二世帯で暮らす。『日々更新。風通しよく年を重ねていくこと』(ポプラ社)『たぶん だいじょうぶ』(大和書房)など著書多数。

 

「がんばらない大掃除」
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