【がんばらない片付け&収納】第3話:井手しのぶさん「片付けは大の苦手。できるだけしたくないから収納を工夫しています」

ライター 片田理恵

年末年始の忙しなさを過ぎたあと、いつもの日常に戻ってひと息つく。そんな2月の頭に迎えるのが「立春」です。暦の上ではこの日から春。新しい季節の始まりに、ゆっくりと部屋の片付けや収納の見直しをしてみるのはどうでしょうか。

片付けと収納は、その人が持っているものの量によって難易度が変わります。当然多いほど大変で、少ないほど楽ちん。ですが、その「少なくすること」が難しいから厄介ですよね。

何をどのくらい減らせばいいか、適正量がどれだけかがわからないから、結局は自分で枠を決めるしかない。それが家であれ、棚であれ、自分で決めた枠に収まるだけのもので暮らしている人って、とても潔くて格好いいと思います。

年齢やライフステージに応じて、時にサイズダウンしながら、自分らしい住まい方をしている先輩たちは、いつから、どうやって、それができるようになったのでしょうか。「がんばらない片付け&収納」、最終話です。

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持ちものは、作りつけの収納棚に入る分だけ

三人目に登場いただくのは、空間デザイナーの井手(いで)しのぶさん

犬と猫とともに暮らす平家の一戸建ては、井手さんご自身が設計した人生で7つ目の自宅です。引っ越しの際、それまで使っていた大型の家具はほとんど手放してきたそう。当時は52歳目前で、家とともに暮らしもコンパクトにしようと考えていたといいます。

今、片付け・収納はどのようにされていますか?

井手さん:
「掃除と片付けが、とにかく好きじゃないんですよ(笑)。

表に出ているものは、ホコリがつくから拭かなくちゃいけないと思うんだけど、掃除が本当に苦手で。だから、できるだけものを出さないように、出す場合はなるべく小さくなるようにしています」

井手さん:
「たとえばキッチンの作業台の上にはよく使う最低限のものだけ出して、それ以外は引き出しへ。調味料や洗剤は小さなボトルに詰め替えて、パッケージは扉つきの棚の中へ。

散らかっているのを片付けるのもイヤだから、散らからないように、ものの場所はしっかり決めています」

井手さんの家には、キャビネットやチェストといった収納家具はほとんどありません。キッチン、寝室、クローゼット、洗面所に、作りつけの壁面収納と引き出しがあり、収納はそれでほぼ全て。

ここに収まるだけのもので暮らそうと決め、不要なものはこの数年で少しずつ手放してきました。

井手さん:
「家に友達が来てみんなで食事をするのも好きだったんですけど、今は『外に食べに行こう』に変わりました。だから気に入っているものを少しだけ残して、大皿や来客用の器はかなり減らしましたね。

子どもの頃からの写真も、見返すことはほぼないなと思ったので、私のアルバムと息子のアルバムをそれぞれ1冊ずつ作ってあとは処分。

本も収まりきらなくなったら少しずつ棚から抜いて『古本屋行き』の箱に移しています」

 

メガネと薬は絶対忘れない場所に

井手さんにとって、ものの場所を決めるのは部屋が散らからないようにするためですが、実はもうひとつ理由があります。それは「しまった場所を忘れないようにする」ため。

井手さん:
「私、メガネが好きなんです。たくさん持っていて、服装や場面によってかけかえたり、出張や旅には数本持って行ったりするんですが、一度外すとメガネの場所がわからなくなってしまうことがあるんですよね。それであとからさんざん探す羽目になる。

だからもうメガネは絶対ここに置く、という場所を決めました。寝室の本棚の下から2番目の棚にある、蓋つきの藤のケースの中。ここでかけ変えて、外したものは必ず戻すようにしています。

ちなみに隣の同じケースは薬入れ。薬も日々の生活に欠かせない必需品ですし、しまった場所がわからなくなると困るから」

 

しまう場所は使う場所の近くに

しまった場所を忘れないためには、家のどこにしまうかを考えるのも重要です。やはり使う場所の近くが取り出しやすく、便利がいいそう。

たとえば玄関を入ってすぐのスペースに置かれたダイニングテーブルの引き出し。ここにはガーデニングやDIY、ペット関係のアイテムがしまわれています。

井手さん:
「犬の散歩のためのリードや足拭きマットなどのペットグッズ、工具のバッテリーや電池といった庭仕事のためのこまごました道具が入っています。パッと手に取ってすぐに外に出られるから便利ですよ」

 

ルーティンはなし、ひらめいたら即スタート

さて、ここまでは「ものの場所を決める」という言葉を使って書いてきましたが、それってつまり「収納」のことなんです。

置く場所に工夫をしたり、持つ量を見直したりして、決めた枠に収めるのが、井手さん流の収納のコツ。

収納の作業にはいつ、どんなタイミングで取りかかりますか?

井手さん:
「全然決めてませんよ。何かひらめいた時ですね。

日々のルーティンとしてはやらないけど、『これをこうしたい』と思ったら一極集中、ほかのことはそっちのけで一気に終わらせるタイプです。若い頃はそれこそ、寝ないで一晩中作業していたことも(笑)。

さすがにそれはなくなったけど、仕事をしている時はそれだけに集中したいから、家のことはやらないようにしています。普段から『次はここだな』と見定めておいて、大きな仕事がひと段落したときにやる感じですね」

 

物欲はもうあんまりないんです

リビングにひとつだけ置かれた棚の中身を聞くと「空っぽ」の答え。驚きました。

最近は物欲がなく、大好きだった蚤の市に行っても買い物をする気になれないそう。でもそう話してくれる井手さんの表情は、どこか清々しく楽しげです。

井手さん:
「気に入っているものは、壊れていようが穴が空いていようが捨てないと思うんです。

でももうそれ以上は必要じゃないのかも。家に気持ちよく置けるものだけで十分だし、余白がある良さも感じているから。増えるとしたら植物くらいかな」

ものを持つって、なんて楽しく、奥が深いのでしょうか。

3人の先輩たちそれぞれの「片付け」と「収納」は、その人がこれまで何を大切に歩んできたかを物語っているようです。

やらねばならない家事としてこなすのではなく、まっさらなノートを広げるような気持ちで、自分の持ち物と向き合えたら。そしてみんなそれぞれに違う「片付けと収納の春」のいい過ごし方が見つけられたら。

立春は、二十四節気の一番目。もう一つの年のはじまりです。梅よりも桜よりも早い春が、今年はやけに楽しみです。

(おわり)

 

【写真】神ノ川智早


もくじ

 

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井手しのぶ

空間デザイナー。専業主婦から独学で一般建築、店舗開発、リノベーション、造園を手がける(株)パパスホームを1996年に設立。2013年12月に代表を退き、現在はatelier23.を主宰。施主とのコミュニケーションを大切に活動している。

 

「がんばらない大掃除」
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