【余白のある家】01:ゼロからはじめたDIYと家庭菜園。築50年の賃貸一軒家に住むふたりを訪ねました

編集スタッフ 藤波

街と自然。どちらも満遍なく楽しめる場所に住めたらどんなに心地いいだろうと思います。

もっと緑の多い地域に住んでみたいな、だけど今の利便性も捨てられない……どっちつかずで行ったり来たり。なかなか自分に合う選択肢を見つけられずにいました。

今回訪れた金子朋子(かねこ ともこ)さん、哲也(てつや)さんの暮らす住まいは、そんな理想の暮らしを肩肘はらずちょうどよく叶えた家だったんです。

ふたりが住むのは、築50年の賃貸の一軒家。間取りさえ変えなければ改装自由という珍しい物件です。

暑さは残るけれど、秋の風が通りはじめた夏の終わり。家との出合いや空間づくりのモットー、ゼロからはじめたDIYや家庭菜園のことなど、たっぷりお話を伺ってきました。

 

平屋に憧れていたけれど。決め手は「森の中の家」

東京・八王子駅から車で10分ほど。大通りから一本脇道に入った川沿いに金子家はあります。

デザイナーの朋子さんと医療従事者の哲也さんご夫婦が暮らすのは、築50年 5LDKの日本家屋。広々とした庭には緑が生い茂り、見事に実ったナスや紫蘇が収穫時期を迎えていました。

朋子さん:
「結婚を機に5年前からこの家に住んでいます。私はその当時は都心の方でしたがその前は八王子に住んでいて、夫はこの辺りに住んでいました。ふたりとも職場が近かったので、八王子に住むことは自然と決まりましたね。

最初は平屋に住みたかったのですが、なかなか見つからず。庭付きの一軒家という条件で探していったらどんどん駅から離れてしまって(笑)。

最終的には友人の紹介で、賃貸だけれど間取りさえ変えなければなんでもOK!という珍しい物件に出合えました」

哲也さん:
「川沿いから小さな坂を登ってはじめてこの家の敷地内に入ったとき、『森の中の家』っていう感じがすごくしたんです。それで、直感的にここに住みたいなと。

僕たちが住むまでは7年くらい空き家だったようで、当時は庭というよりは雑木林のようにボーボーに木や草が生えていました。

だけど家屋の建て付けはしっかりしていて隙間風もないし、築50年のわりには十分手入れされている。古い家で住む不安よりも、この庭をどう開墾しようか?という楽しみの方が勝りました」

 

家具から板張りまで。初心者からはじめたDIY

雑木林時代を感じさせないほど、今ではすっかり家庭菜園が広がる素敵な庭。

そんな庭を大きなガラス戸を隔てて一望できるのが、家の中で一番広い部屋である客間です。元は全面畳張りだった床を哲也さんが板に張り替えたというので驚きました。

哲也さん:
「山登りが好きなので、ここは山小屋のような部屋にしようと思ったんです。

DIYの経験があったわけではなかったけど、祖父が大工で、父も実家の離れを自分で一から作ってしまうような人で。子どもの頃からそんな姿を見てはたまに手伝っていたので、なんとなくの肌感はありました。

調べてやってみると、意外とできちゃうものですよ」

哲也さん:
「雨でも洗濯物を干せるよう、縁側に物干し竿をかけられるスペースを作ったのが最初でした。次は庭のバーベキューコンロ、その次が床の板張りだったかな。休みの日を使って、順番に施工していきました。

市販の色でしっくりくるものがなく、元々の部屋の木目に合う色を自分で調合して塗ったのが板張りのこだわりポイントです」

▲共通の趣味というレコードにぴったりサイズの棚も哲也さんお手製

朋子さん:
DIYは基本的に夫が主導なので、この板張りも、ある朝ホームセンターから2tトラックで角材を運んできて急に始まったんです。

私はこの部屋で洗濯物を干す時間が特に好きです。庭が見えるのも嬉しいし、光の入り方も季節で変わります。冬は日が低いから、部屋の奥までやわらかな光がバーっと入ってきて。

都心に住んでいたときはそんな変化に気が付けなかったので、室内にいながら季節の移ろいを感じられるのが幸せです」

 

20品目の野菜づくりに奮闘中

窓の外に目を向けると広がる、家庭菜園の域を越えているのではと思うほど立派な畑。

こちらもゼロからでしたがどんどんのめり込み、今では自宅から車で25分ほどのところに追加で広い畑を借りているのだそうです。

哲也さん:
「以前は休みの日に山へ行くことが生き甲斐だったけど、この家に住んで畑を本格的にやるようになってからは家でも自然を十分感じられるから、すっかり行かなくなってしまいました。

家庭菜園をはじめた年は地域の有名な農家さんに半年ほど研修に行き土づくりの基礎などを習い、5年目になった今ではだいぶ幅が広がってきましたよ。

こうやって衣食住を通して自然を感じながらも、街や職場へのアクセスが良いこのバランスが僕たち家族にとってはちょうどいい気がします」

朋子さん:
「一時期は年間で30品目くらい作っていましたが、だんだん自分たちがよく食べるものや保存がきくものが分かってきて、今は20品目くらいですかね。

その中でも、にんにく、生姜、みょうが、紫蘇、山椒など薬味になる野菜がお気に入り。毎日使うし、美味しいし、たくさん収穫しても冷凍保存できます。

買ったら意外と高くつくような野菜を庭から必要な分だけ採ってこられるのはすごく贅沢ですよね。今では野菜はほとんどスーパーで買わなくなりました」

 

夫婦の「好き」は、意外と違います

▲玄関の一角に集められた朋子さんのお気に入り

自由に暮らしを楽しんでいるおふたりですが、部屋づくりにおいては意外な線引きがありました。

朋子さん:
「私たち、好きなものや消費のタイプがけっこう違うんです。私はテキスタイルだったり、用途のないかわいい形のオブジェを集めるのがとにかく好きで」

哲也さん:
「僕は目的のないものは基本買いません。畑や山登りのための道具は買うけど、どちらかというと部屋には何も置かない方が好きなくらいです」

▲床の間があったスペースにこしらえた道具用の棚。こちらも哲也さん作

朋子さん:
「だから、この家に引っ越してきたときにざっくりと役割分担しました。それぞれの専門部屋を決めて、なるべく口出しをしないようにしようと。

この客間は夫の担当部屋で、私の『好き』はキッチンや仕事部屋で存分に発揮させてもらっています。だけど自然や木目が好きなのは同じだから、全体で見るとけっこうトーンは合っているのかもしれませんね」

DIYや野菜づくりについて生き生きと話されるおふたりから伝わってくるのは、とびきりの「楽しさ」。

新しいことに挑戦するときはついハードルの高さに目を向けてしまうけれど、まずはワクワクに身をゆだねてみるのも一つかもしれません。

続く第2話では、朋子さんの「担当部屋」というキッチンやリビングを中心にお話を伺います。

 

【写真】メグミ


もくじ

 

金子朋子・金子哲也

東京都八王子市在住。朋子さんはグラフィックやWebデザイン、地域ブランディングなどを手がけるデザイナー、哲也さんは医療従事者。築50年の賃貸の一軒家で家庭菜園やDIYを楽しみながら暮らしている。Instagramは@cnc_ieから。


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