
本屋さんなどで、いわゆる出版社から出版されたのではない冊子を見かけたことがあるでしょうか。
テーマも、色もサイズも、全てが自由。個人が発行している冊子、ZINEです。
手に取るうち、自分だったらどんなものを作るだろう?と想像を膨らませていることに気がつきました。
知りたい気持ちと、作ってみたい気持ち。両方をたずさえて、ZINEの制作やワークショップをされている、つちや りささんにお話を伺いました。
前編ではつちやさんのインタビューを、後編ではワークショップを開いていただき、当店のスタッフ3名が実際にZINEを作ってみた様子をお届けします。
休職中も、手紙だけは書いていました

「つちや温水プール」という屋号で、ZINEの制作やワークショップ、東京・駒沢の書店SNOW SHOVELINGで毎週火曜に「火曜日のリサ」という雑談の場を開くなどの活動をされているつちやさん。
ZINEを作り始めたきっかけをたずねると、当時勤めていた会社を体調不良で休職したことが大きな転機になったと話してくれました。
つちやさん:
「新卒で入った会社では、日本とフランスを行ったり来たりしながら、部署の損益を管理する仕事をしていました。売上によって人の評価や仕事の優先度が決まることに疑問を抱きながらも、仕事はどんどん降ってくるので、毎日売上・コスト・利益のことばかり考えて働いていました。そうして3年くらい経った頃、とうとう体調を崩して休職することになってしまったんです。
最初の3ヶ月はベッドから動けず、一日中寝ていました。周りのみんなは毎日頑張っているのに、私は何もできない。それが申し訳なくて、休んでいる自分を受け入れることもできませんでした。
ただ、日常生活もままならない中で手紙だけはよく書いていたんです。昔から文章を書くのは好きで、会社員として忙しく働いていたときも休職中も、家族や友人宛てて手紙をたくさん書いていました」
考えていることを外に出してみたら

休職して半年ほどが経ち、体調も少しずつ戻ってきた頃。つちやさんは、学生時代に働いていたカフェの先輩と再会します。
つちやさん:
「カフェには小さな木箱が置いてあって、中に古本を並べて売っていました。先輩はそのときも同じカフェで働いていて、本が全部はけたタイミングで『このスペースで何か好きなことをしていいよ』と言ってくれたんです。
当時、仕事の反動でお金で物事の価値をはかることに疲弊していた私は、悩みに悩んで『お金のやり取りが発生しない、物々交換がしたい』と考えました。なぜしたいのかを、先輩にプレゼンしたんです。
そこで返ってきたのは『りさちゃんはそんなふうに考えていたんだね。そういうのは、どんどん表現したほうがいいよ』という返事でした」
それは「物々交換がしたい」という提案以上に、その奥にあるつちやさんの想いが先輩に "伝わった" 瞬間だったのかもしれません。

つちやさん:
「そうか、自分が心の中で思っていることを外に出すのが "表現" なんだ。今、私の中には表現したいことが溢れている。そう思って、帰宅後すぐ、適当なノートにイラストだけの物語を一気に描きました。
翌日カフェへ持って行くと、先輩がレジの下にノートを置いてくれカフェに来たお客さんが読んでくれるようになりました。しばらくするとボロボロになってしまったので、近所のプリントショップで簡単に製本してもらいました。いま思えば、それが最初に作ったZINEかもしれません」
個人的なことほど、実はおもしろい
▲つちやさんがこれまで作ってきたZINE
つちやさんは休職後も会社には戻らず、つちや温水プールとしての活動を始めます。
つちやさん:
「休職期間を経て、私は今まで周りの期待を勝手に作り上げて頑張っていたんだなと気がつきました。だんだんと、休むことは悪いことじゃない。生きているだけで十分なのだから、誰かの期待に応えられなくても自分にがっかりしなくていい。私は私のしたいことをしていいんだ、と心から思えるようになったんです。
こうした経験がきっかけになって作ったZINEのひとつが、『Swimmers #1 休職』です。インスタグラムで、仕事や学校、部活を休んだ経験について寄稿してくれる人を募り、集まった8人と自分の経験を1冊にまとめました」

つちやさん:
「よく題材はどうやって決めるか聞かれるのですが、ごく個人的なことでいいと思っています。
例えば去年作った『わたしはおかねではかれない』というZINEは、お金が嫌いになってしまった私が、とにかくお金をもらわない活動をしていた頃に書いた文章をまとめた一冊です。
お金をもらっていないと "仕事" とは言えないの?
売上を伸ばすことが本当に「善」なのだろうか?
こんな内容のZINEを発表したら、甘いとか恵まれてるとか言われて怒られるのではと怖かったのですが、いざ出してみたら思ってもみない嬉しい反響がたくさん届いて、このZINEで読書会を開こうと言ってくれた人もたくさんいたんです。
個人的で、誰にも共感してもらえないのではと思うことほど、誰かには深く刺さることがあるから不思議ですよね」
ZINEは、手紙のようなもの?

つちやさん:
「ZINEの好きなところは、誰でも今すぐに、思ったことを思ったままに表現できるところ。自分の気持ちを素直に表現することは、心を健やかにしてくれると思うんです。
だから、自分が好きなものを作れたら100点。もちろん他の人に気に入ってもらえたら嬉しいですし、"誰かに届くかもしれない" と思いながら作っているけれど、出発点はいつでも『私のやってみたいこと、表現してみたいという気持ち』。ZINEは、誰かに面白いと言ってもらわなくていいんです」
▲「私はフリーペーパー推しなんです。作り方は、紙に手書きで近況や気になっていることを書くだけ。これも立派なZINEです」
つちやさん:
「私にとっては、ZINEも手紙のようなもの。
好きで書いているけれど、時々誰かに伝わって、その人が感想をくれたりして、コミュニケーションが始まったらとても嬉しいんです」
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ZINE作りは気になるけれど、自分の思っていることを形にするって少し勇気がいるなぁと思っていました。でも「自分の気持ちを素直に表現することは、心を健やかにしてくれる」「誰かに面白いと言ってもらわなくていい」というつちやさんの言葉で、あまり考えすぎずに、まずは作ってみればいいのかもしれないと思えました。
後編では、つちやさんにワークショップを開いていただき、当店のスタッフ3名が実際にZINEを作ってみる様子をお届けします。
【写真】上原朋也
目次
第1話(7月13日)
自分の気持ちを素直に表現することは、心を健やかにしてくれる。ZINE作りの魅力を教わりました
第2話(7月14日)
文房具を使って手軽にできる。スタッフがZINEを作ってみました


つちやりさ
「熱くないけどぬるくあたたかく。特別じゃないけどちいさくほっと。そんな時間をみんなといっしょに過ごしたくて、『つちや温水プール』というなまえであそぶように飛びまわっています」
「もぐる会」と題したおしゃべりの会や読書会、SNOW SHOVELINGでの「火曜日のリサ」、「出張温水プール」の開催、zine『まじめ通信』『Swimmers 』『温水日和』『もうほかのひとと約束しないという約束』『わたしはおかねではかれない』『swim to wherever you want』の制作、Podcast「ぷかぷかぷかぷかうきうきうきわラヂオ」「onmywayhome」の配信、演劇・映画への出演などを行っている。
Instagram:@tsuchiya.onsui.pool、Website:https://tsuchiya-onsui-pool.studio.site/