
今の家に暮らし始めて、あっという間に約10年。当初は真っ白だった壁紙には子どもの落書きがちらほら、フローリングには数え切れないほどの傷がついてしまいました。
つい以前のきれいだった頃と比べて、残念な気持ちになってしまうのが正直なところ。味わいのひとつだと思って受け入れたいけれど、どうしても「直さなくちゃいけない場所」として捉えてしまいます。

当店の番組『Room Tour あそびに行きたい家』で訪れた、イラストレーターの谷山彩子(たにやまあやこ)さんは、新築で購入したマンションに暮らして30年。家具や雑貨も長い付き合いのものばかりです。
谷山さんのご自宅には、長年一緒に暮らしてきたからこそ醸し出される居心地のよさがつまっているよう。
「古さも楽しみのひとつ」話す谷山さんに、おおらかな部屋づくりについてお話を聞いてみました。
一番落ち着く場所は、キッチン

部屋全体を囲むように配置された窓から、やさしい日差しがたっぷり入る谷山さんのご自宅。一番落ち着く場所だというキッチンも、明るく風通しのよい空間です。
谷山さん:
「新居に引っ越してきたその日の夜に、まず餃子を焼いたんです。
まだ誰も使っていないピカピカのキッチンだったけれど、これからちゃんと料理していくからよろしくねという気持ちを込めて」
夫婦ともに美味しいものを食べること、お酒をゆっくり呑むことが大好き。だからこそ日々のご飯づくりが億劫にならないように小さな習慣を続けています。

谷山さん:
「食材を買ってきたらそのまま冷蔵庫にしまわずに、ひとつ手を動かしておく。野菜をざっくりと切って小分けにするとか、ぬか床に漬けておくとか。
次の自分が楽をするための貯金のようなイメージです。それに千切りなんかをしていると無心になれるでしょう、そんな時間も好きですね。
重宝している道具といえば、せいろや土鍋。
せいろは中華街で買ったものを20年ほど使っています。蒸し野菜はすぐに出せるからよく作っていますね。
このヤギの土鍋は煮えると鼻から湯気が出るの。ぐつぐつ煮ているとだいぶ鼻息が荒くなって、かわいいんです」


片付けが苦手でも、きれいが続く収納術

キッチンをはじめ、リビングやダイニングなどどの部屋もある程度の物量がありつつも、所定の場所にスッキリおさまっている谷山さんのご自宅。意外にも片付けや掃除はそれほど得意ではないと話します。
谷山さん:
「片付けは好きではないけれど、きれいな空間は好きだからやろうと思って。
心がけているのは、こまめにやること。『出したらしまう』を気をつけていたらそれが当たり前になりました」

奇をてらった片付け法や収納術ではなく、基本をしっかり続けること。それが谷山さんの『きれいが続くコツ』でした。
他にも意識している習慣がいくつかあるようです。
谷山さん:
「あんまり細かく分けない方がざっと入れるだけで済むからラクだなと思いますね。
あとはそもそもあまり物を増やさないようにしていて。引き出しや棚のなかにもりもり詰め込んじゃうと、それだけで雑多な感じがするし、何がどこにあるか分かりにくいですよね。
なので収納場所は余白があるようにしています。とにかく大体でいい、おおらか収納です」

冷蔵庫を開けると、下ごしらえを済ませた食材や漬物がほどよい空間を空けて並んでいました。段ごとに決めたマイルールのおかげで出しやすく、また食べ忘れ防止にも。
谷山さん:
「一番上は普段あまり使わないものを、二段目は漬物類、三、四段目はすぐに食べられるものというようにすみ分けています」

谷山さん:
「野菜室には新聞紙や紙袋を再利用して、根菜の泥や皮が落ちても庫内が汚れない工夫をしています。
小さめの手提げ袋の持ち手を切って、くるくると折り返せばちょうどいい高さにできますし、強度が増します。柔らかいから形が変わって物の量によって融通が効くんです。
汚れたら捨てればいい、くらいの気楽さが続けられる理由になっているかも」

何かしようと思ったときに片付けから始めなくていいように、目に見えた物はそのときにしまう。料理と同じく、ちょっと先の未来の自分のために今できることを済ませてしまうその姿勢が、淀みがなく、巡りのよいムードに繋がっているのだと感じました。
室内でもバルコニーでも。植物がすぐそばに

ダイニングテーブルの端に、仕事部屋の窓際に。居心地のよさの大きなポイントとなっている、あちこちに置かれた瑞々しい緑の設えについても聞いてみました。
谷山さん:
「食事をするダイニングテーブルには、緑の置き場と猫の水飲み場を兼ねて『すいれん鉢』に花瓶を入れて置いています。
飾っているのはエバーフレッシュの枝や、ベランダで花が咲いていればそれを飾ったり、身近にあるものが中心です」

広々としたルーフバルコニーで、さまざまな種類の植物を育てている谷山さん。その日の風の吹く様子や季節の移ろいを感じられる大切な場所です。
谷山さん:
「一度全面をウッドデッキにしてみたんですけど、それが腐ってダメになってしまって結局撤去しました。そのときに植物も全部なくしたら、風が吹いているか分からなくなってね。
外を見ても何も動くものがない。緑がないとやっぱり寂しいと思って、もう一度少しずつ増やしていきました」

谷山さん:
「今度は自分の手の範囲に収まる分でやろうと、ハーブとか野菜とか、食事でも楽しめる植物を育てています。
気候のいい日はバルコニーで朝ご飯を食べたり、コーヒーを飲んだり、夜はビールを飲んだりね。お水を撒きながらそんな時間を過ごしていると気持ちがいいですよ」

季節の風を感じる、懐の深い家に

落ち着いた色味の家具が多いせいか、静かでどっしりと、包み込んでくれるような安心感が漂う谷山さんのご自宅。外でどんなことがあってもここに帰ってくれば大丈夫、そんな気持ちにさせてくれる場所です。
谷山さん:
「考えてみれば我が家の部屋づくりの中心は、食かもしれません。美味しく飲んだり食べたりできる空間にしていたい。
そんな思いを軸に家具や植物を選んだり、収納場所や片付け方法を考えたりしている気がします。
こういうテイストでなくちゃとか、こだわりを持ちすぎるのは性に合っていないなと。なにがあっても許容できるおおらかさを持っていたい。家も自分も懐を深くしておくことが、くつろげる空間をつくるのかなと思います」

谷山さん:
「30年経っているので改めて見ると古くなってきたなと思う場所もあります。
でも暮らしていてあまり気になりません。人や猫、植物などと、家も同じで一緒に歳をとったなと、嫌なこととしてではなく楽しく見守っている感じです。
この先どんな家でどんなふうに暮らそうという考えるより、今ある空間のなかでどう最大限心地よく暮らせるか。その方が興味がありますね」

§
谷山さんの言葉がすっと胸に届いて、真から腑に落ちたような感覚になりました。壁の落書きもフローリングの傷も、一緒に歳をとった証拠だったなんて。
今、私が暮らしている家と出合ったときは、まだ夫婦二人暮らしでした。そのうち子どもが生まれ、寝ているばかりだった赤ちゃんから走り回るのが大好きな少年とお絵描きが好きな少女に育ちました。
それなのに家だけが出合ったときの、真新しいままでいられるはずがありません。
人も家も、これから育っていく中で痛んだり弱ったりすることがあるだろうけれど。そんなときは休んだり直したりしながら、味わい深くしなやかな存在になれるように、一緒に時を重ねていけたらと思います。
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※この記事は2025年6月に公開した動画を元に制作しております。現在の暮らしとは一部異なる場合がございます。
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谷山彩子
イラストレーター。東京都出身。セツ・モードセミナー卒業。HBギャラリー勤務を経て、フリーのイラストレーターに。雑誌・書籍の挿画や広告の分野で幅広く活躍。著書に『漢字なりたち絵本』(あすなろ書房)『ごちそうごよみ』(小学館)などがある。
HP:https://www.taniyama3.com/
Instagram:https://www.instagram.com/a.taniyama3/