
そろそろ夏本番。昨年着ていたワンピースにひさしぶりに袖を通すと、なんだかしっくりきません。季節の変わり目、「去年なに着てたっけ?」と首をかしげるのも毎年のこと。
大人と言われる年齢を過ぎても、おしゃれの悩みは尽きません。いえ、大人になったからこそ感じる迷いもあるのかも。体型や顔立ちの変化、周囲からの印象。自分らしい好きなものと、変わりゆく今にフィットするもの。そのまんなかで、すっかりファッション迷子です。
同世代でおしゃれを楽しむひとたちは、どんなふうに服を選んでいるのでしょう?
訪ねたのは、イラストレーターのよしいちひろさんです。
変わったこと、目指したいスタイル、新しく買ったもの。47歳、リアルなおしゃれの現在地。ざっくばらんにお聞きしました。
目指したいのは、「かっこいいおばさん」

唯一無二の個性と大人の遊び心を楽しむファッションがすてきなよしいさん。いつもわたしたちの一歩先で新しい扉を開いてくれる存在です。
40代も半ばを過ぎ、ファッションの迷いや変化はありませんか? そう投げかけると、開口一番に出たキーワードがありました。それは、「かっこいいおばさん」。

よしいさん:
「『かっこいいおばさん』を目指したいと思っているんです。
同世代の友だちとの雑談のなかで、『おばさんのロールモデルって見つからないね』という話になったんです。『かわいいおばあさん』はよく出てくるのに、その前段階の『おばさん』は、あまり話題に上がらないし、そういえば40歳を過ぎたあたりから、周囲でもこれまでの服が似合わないとか、なにを着たらいいのか分からないという話をちらほら聞きます。
そんなときに聞いたのが、ファッションブランド〈6(ROKU)〉のディレクター、吉田恵理子さんの『ROKU(ロク)の使命は、かっこいいおばさんを増やすこと』というお話でした」

よしいさん:
「これだ!って思いました。おばさんであることを否定せず、でもかっこよく。なんとなく定まらずにいた、自分の目指したいものが明確になった瞬間です。
タレントのみうらじゅんさんも、『"若づくり"の風潮に逆らった”老けづくり”』っておっしゃっていて、こういうマインドっていいなあと思います。
年齢で変化していくことは当たり前なのだから、せっかくならもっとポジティブに歳を重ねていきたい。そこから身の回りの素敵な大人を探すようになりました」
さて、「かっこいい」ってなんだろう?

「かっこいいおばさん」と聞いて、どんなスタイルを想像しますか? もちろん、単にマニッシュという話でもありません。そこには、どんな気持ちが込められているのでしょうか。
憧れの存在として挙げてくれたのは、先述の〈ロク〉の吉田さんや、〈サニーヴィンテージ〉のオーナー馬渕陽子さん、障害者支援員として働きながらモデルとしても活動するAkiraさんなど、いずれも同世代〜年上の女性たち。
よしいさん:
「成熟して、自分の考えをしっかり持っているひと。
歳をとるって、もちろん肌や体型などに変化が出てくるわけですが、一方で、歳を重ねるからこその経験や深みもあると思います。こんなわたしでも、20代からたくさん散財しお買い物をしてきたけれど、そのおかげで生地の手触りで質の違いがわかるようになってきたし、ものを見る目もすこしは養われてきたと思うんです。
だから、歳をとるって悪いことばかりじゃありません。たるみや渋さのような、まだまだマイナスに捉えられがちな部分も、むしろかっこよく見せていけたらと思っています」

よしいさん:
「そのために心がけているのは、清潔感です。服にきちんとアイロンをあてる、ほつれをそのままにしない、髪もちゃんとブラッシングをする、とか。お恥ずかしながら、そういう当たり前のような細部をきちんとしていることも、最近になってようやく大切に思うようになりました」
渋さを得たからこそ、新しく出会えるものがある

大人になったからこそ似合うものもある、とよしいさん。
たとえば、と教えてくれたのは手元に光る腕時計です。
よしいさん:
「友だちがエルメスの時計をつけていて、それがとても素敵だったんです。20、30代の自分にはきっと似合わなかったと思います。
でも試しにつけてみたら、しわしわで日に焼けた自分の肌にも想像以上にしっくりくるのを感じました。貫禄が出てきたからこそ選べるものもあるのだなあと気づき、こういうアイテムも取り入れていこうと思うようになりました。
ラフなコーディネートのときも、時計の存在が全体をぐっと締めてくれます。ジュエリーが大人の女性らしさだとしたら、時計は知性を添えてくれるようなイメージです」
サングラスも同様に、最近になり似合うようになったと感じるひとつだそう。若い頃は気恥ずかしかったり、なんだか距離を感じていたアイテムやブランドも、あらためて試してみたら思わぬ発見がありそうです。
気に入るもの、似合うものを見つけるには

自分の着たいものを着ればいい。そう思いつつも、周囲から見た自分もやっぱり気になってしまいます。着たいものと似合うもの、そのさじ加減をどんなふうに見つめているのかお聞きしてみました。
よしいさん:
「お店に実際に足を運んで、自分の目で見ること大切にしています。とにかくたくさん見て、着てみるのがいちばん! それから、このひとのセンスが好き、という信頼できる店員さんをひとり見つけることもいいと思います。
試着は緊張するひともいると聞きますが、せっかく試着をする機会があるときには、ちょっと気になったものも一緒に着てみるのをおすすめしたいです」

よしいさん:
「買うつもりのない日でも着てみるだけでもいいし、試着後かならずしも店員さんに見せなくたって大丈夫だと思います。
いろいろ着るうちに、こっちのほうがスッキリ見えるとか、着心地が好きだとか、きっとわかってくるし、店員さんはプロなのでしっかりアドバイスをしてくれるはずです。買わないときは『今、いろいろ見て考えているところなので』と、わたしは伝えています。
以前、伊達メガネを探していた時期があったんです。メガネのことはさっぱりわからなくて、一年ぐらいかけてたくさん試着し、質問して、そのたびに写真を撮らせてもらいました。
そのうちに、メガネの顔を見慣れてきたのかもしれません。だんだん自分にとってのメガネのハードルが下がってきて、これは結構いいな、こっちは違うな、というのがわかるようになってきました。
写真を家族や友達に見てもらうのもいいし、店員さんと友達、両方の意見を聞くのもいいですよね」
揺れる自分も楽しみながら、年齢を重ねていきたい

メガネひとつを選ぶのにも、よしいさんはたっぷり時間をかけていることが、ちょっと意外でした。おしゃれなひとは、もうすでに自分に似合うものをしっかりわかっている。そんなふうに思っていたからです。
よしいさん:
「自分に似合うものをわかっているって、かっこいいですよね。
モノを減らし、少数精鋭のミニマリズムへシフトしつつある友だちを見ていると、わたしってモノが多すぎ? そっちを目指すべきかな……? って影響される部分もあります。でも、やっぱりわたしはお買い物が好きだし、まだもう少しこっちを楽しみたい気持ちもあったりして。
どちらも本当の自分です。無理に否定しすぎず柔軟に、揺れる過程も楽しみながら年を重ねていきたいです」
続く後編では、よしいさんに日常のコーディネートを見せてもらいながら、見つけ方や選んだポイントをお聞きしました。
【写真】ニシウラエイコ
もくじ


よしいちひろ
イラストレーター。1979年兵庫県生まれ、東京都在住。女性の憧れや日常を、やわらかくみずみずしいタッチで描く作風が人気を呼び、雑誌や書籍、広告などで幅広く活躍。リラックス感がありながら、エッジのきいたファッションやもの選びにも注目が集まる。
HP:https://chihiroyoshii.com
Instagram:@chocochop2