
このネームタグのデザインがあがってきた日、私はしばらく、じっと見つめてしまいました。
「MARGARET HOWELL for KURASHI&Trips」
胸の奥がじんわりと熱くなるような感覚がありました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、この小さなネームタグには、20年分の感慨も一緒に織り込まれることとなりました。
今日は、その話を少しだけ書いてみようと思います。
遡ること20代の終わり、2006年秋のことです。
『マーガレット・ハウエル』というブランドにもともとリスペクトと憧れを持っていたものの、『マーガレット・ハウエルの「家」』(集英社)という本が発売されたことを知り、私は本屋まで買いに走りました。
だって、家、暮らしを垣間見させてもらえる、しかもずっと持っていられる「本」というかたちなのですから。
もしかしたらこのコラムを読んでくださっている方の中にも、同じ本を大事に持っているという人が少なくないかもしれないと思います。
マーガレットさんが当時、ロンドンから少し離れた場所にセカンドハウスを手に入れられ、そのセカンドハウスのライムグリーンを随所に効かせたインテリア、そして彼女の住まいの変遷、海辺での時間の過ごし方、暮らしからつながっていくものづくりの哲学までがふんだんに語られた一冊。
それはそれは夢中でページをめくりました。
アルヴァ・アアルトの自宅に憧れたように、マーガレット・ハウエルの家にも心からの憧れの気持ちを抱き、少しでも真似できるポイントを探す日々がこの本をきっかけに始まりました。
私自身も幾度もの引越しを経た今も、この本は手に取りやすい場所に変わらず置いてあります。自分の好きの源泉を確認したいモードになった日は、今でもよく開いています。
そして今思えばこの本は、マーガレットさんが60歳を迎えられたタイミングでつくられた本でもありました。
今回のコラボレーションは、ご縁あって繋がることができた『マーガレット・ハウエル』チームに私たちからお声がけをして始まりました。
前向きなお返事をいただくことができましたが、とはいえ、先方と正式に「この企画でいきましょう」と合意に至るまではなかなかに時間を要することになりました。
話し合いは幾度か続き、『暮らしを愛するひとのためのシャツ』という一枚の企画書を出させてもらったところから、このプロジェクトの帆が張られ企画がぐんぐん進み出した感覚がありました。
私たちも「暮らし」を心から愛してきたことについては自負があります。
そして「暮らし」を緻密に想像しながら、その中にいる”ひと”をできる限り見つめながら、ものづくりやコンテンツづくりをしたいと願ってきました。
私たちがもしも『マーガレット・ハウエル』と服をつくることができるなら。
どんな企画が「らしい」ものになるだろうか。
考えに考えて辿り着いたのが「暮らしを愛するひとのためのシャツ」という当たり前にも思えるようなとてもシンプルな言葉でした。
そこから本格的に、シャツづくりが始まりました。
印象深いのがデザイナーの池田さんの存在です。
20年以上にわたりマーガレットさんや本国のデザインチームと直接コミュニケーションをとりながら、服づくりを担ってこられた方。
正直に言うと、最初に池田さんにお会いしたとき「ああ、この方に私はオーダーができるだろうか」と、少し強張る気持ちがあったんです。そういう気持ちになるほどの経験値を強く感じました。
けれど、打ち合わせでお会いするたびに少しずつ打ち解けていき、次第に、私のことを、私たちチームのことを信頼してくださるようになりました。(と感じていました)
▲『マーガレット・ハウエル』で長年デザインを担当する池田さん(写真中央)
いま振り返ると、あの時間の積み重ねこそが、このシャツの土台だったと思います。
池田さんは、私のインスタグラムを読み込み、暮らしの様子、普段どんな格好をしている人か、そして骨格の特徴などを熟視したうえで「佐藤さんにもちゃんと似合わなければ意味がない」と、肩の縫い位置、着丈、襟まわり——微細な部分までとことん描き込んでは、修正を重ねてくださいました。
このデザイナーとしての姿勢こそ、マーガレット・ハウエルとの長年のやりとりを通じてブランドのフィロソフィーを体現されてきたお仕事のされ方なのだと感じ入るものがありました。
ある打ち合わせの日のこと。池田さんが、ご自身のスケッチブックを見せてくださいました。
社内の方も、あまり見たことがないというものだそうです。
そこには『暮らしを愛するひとのためのシャツ』を着た私の姿が、スケッチで描かれていました。デザインを最終的に整えていかれるプロセスでのスケッチでした。
どこにも公開しない約束で、写真を一枚だけ撮らせてもらいました。
このスケッチの写真は、私にとって、一生の宝物です。
マーガレットさんは、つい先日、9月5日に80歳の誕生日を迎えられました。
そして60歳の時に出版された本につづき、80歳を迎えられたタイミングで『マーガレット・ハウエルの暮らしと仕事』という本を出されました。20年分の重みを感じます。
こんな記念すべきタイミングで、コラボレーションをさせていただけたこと。
ブランドの長年の歩みに心からの敬意を持つと共に、このご縁の不思議と感謝を噛み締めざるを得ません。
20代の終わりにあの本を買い、夢中でめくっていた私にそっと教えてみたいです。
「いつか、お客さまと一緒に、このネームタグを見ることになるよ」と。
そうして生まれた『暮らしを愛するひとのためのロングシャツ』が『北欧、暮らしの道具店』で発売になりました。
お客さまのなかにも、たくさんの「暮らしを愛するひと」がいらっしゃるはず。
そんなお客さまのもとにこのシャツが届いて、アイロンをかけてピシッと着る日も、洗いざらしのままラフに羽織る日も一緒に過ごしながら、願わくば10年、20年と、くたくたになるまで着続けてもらえたら。
いま、そう願ってやみません。
北欧、暮らしの道具店
店長 佐藤友子
2026年9月11日
書籍「マーガレット・ハウエルの暮らしと仕事」刊行と刊行記念展が開催中です

書籍刊行にあわせて、現在代官山 T-SITE GARDEN GALLERYを中心にエキシビションを開催中。書籍で紹介する写真やアーカイヴ、マーガレットが撮影した写真などを展示します。また、神南店、MHL.代官山店とも連動した3拠点回遊型の企画を展開します。
DAIKANYAMA T-SITE GARDEN GALLERY
2026年9月5日(土)-13日(日)
[入場無料]10:00-19:00
初日12:00開場/最終日18:00閉場
MARGARET HOWELL JINNAN
「THE SHIRT」シャツづくりの背景を紹介するエキシビションを開催
2026年9月5日(土)-9月末
MHL. DAIKANYAMA
「MARGARET HOWELL LONDON.」MHL.のはじまりを紐解くエキシビションを開催
2026年9月5日(土)-9月末

“よいデザインとは、よく考え抜かれていて、暮らしの中で機能すること"
― マーガレット・ハウエル
50年以上変わらないこの哲学が息づく一冊が、書籍「マーガレット・ハウエルの暮らしと仕事 Margaret Howell Life and Work」(集英社刊)です。
2006年刊行の「マーガレット・ハウエルの家」から20年。ロンドンの住まいとサフォークのセカンドハウス、シャツやリネンなどの定番、自社工場でのものづくりを丁寧にたどり、マーガレット本人のロングインタビューも収録されています。