【店長コラム】人生初、思いつきで特急に飛び乗る。
店長 佐藤
ひとり旅。
40代になった自分にとって、このワードは「自由」の象徴みたいで、この上なく魅力的に感じられます。
沢木耕太郎・著の『深夜特急』を20代の頃、なんどもなんども貪るように読んでいたことを思い出すたび、特に目的地も決めずにただひらすらに列車で旅をすることに今もどこかで憧れているのかもしれないと思わせられたりも。
目的地を決めずに、特急に飛び乗ってみた。
ある土曜日のこと。気分転換に隣町まで洋服でも買いに行くかと、数時間のひとり時間をもらいました。
目的地の駅に降り立つと、ちょうど数分後に特急かいじが来るというアナウンスが流れました。
「んん?甲府行きの特急があと数分後に?乗りたいなぁ。乗っちゃいたいなぁ」
「とりわけ今日はショッピングがしたいわけでもなく、気分転換がしたかっただけだったんだよなぁ」
ちょうど少し前に、知人から山梨が気軽に足を伸ばせる上に、いかに良いところかを熱弁されたばかりのタイミングでもあったのです。
あと数分しかない。決断は早く!
我ながらその日の決断は早かった。速攻で特急券を買って、駅のホームにやって来た甲府行きの特急かいじに乗り込んでいる自分がいました。
自由席車両をぐるぐるとして、窓際の空いている席にもぐりこむように座り、いったん「フーッ」と息を吐き出します。
いけないことをしてしまったようなドキドキ感、だけれど、かなりの高揚感。
これは一体なんでしょう。こういう感覚、一体何年ぶりでしょう。
与えられた時間は数時間しかないので、どこまで行って帰ってくるか。それが問題だ。母さん、勝負です。
走り出して15分も経つと、窓の外はこんな景色。自然の緑に目が癒されます。
とりあえず片道一時間ほどの「勝沼ぶどう郷駅」まで行ってみようと決めました。
今日したかったのは、良い景色を見ながらボケーっとすること。静かに本を読むこと。
車内販売でコーヒーとお菓子を買い、チョコレート菓子をぽりぽり、熱々のコーヒーをすすりながら、高山なおみさんの文庫本『高山ふとんシネマ』を読みふけることに。
本のなかで涙がじんわりと溢れてくる文章に出会ってしまい、たまらない気持ちになって、いったん窓の外を眺めると、すんばらしい景色。
あぁ、いいところだなぁ。
なにかを読んで、ぐっと来て、そのタイミングで目をあげたらこんな景色だなんて、サイコーすぎるじゃないかと、今日出した自分の勇気を褒めてあげたい気分でした。
読書をしたり、車窓から流れる景色を見てボケーっとしていたら、あっという間に「勝沼ぶどう郷駅」に到着!
高台に駅があるので、見晴らしが良く、あたり一面にぶどう園が広がります。
スー、ハー。深呼吸。
さて、降りたはいいが、どうしよう。ワインは大好きだけれども、おすすめスポットなど、なんの知識もない。
駅のベンチに座って、慌ててスマートフォンで情報を調べてみると、一軒、ぜひ行ってみたいなと思うカフェがありました。
タクシーの運転手さんにカフェの名前を伝えると、車で10分ほどでササッと行けるよとのこと。
では、お願いします!連れて行ってください!
とあるぶどう園に併設されたカフェは、もちろん地元のワインもいただけます。
冷えた白ワインとハンバーグランチを注文して、このお店で静かに再び読書(持参した文庫本、2冊目)。
すごくすごく遠くまで来てしまったような。サイコーの気分だけれど、やっぱりなんだか悪いことをしているような。そんなこそばゆさがありました。
カフェで少しばかりゆっくりしたあとは、ご近所のぶどう園を散歩。
たわわに実るぶどうの向こうには、真っ青な空。
「なんて、のどかなんだ」
「これは気持ちよすぎるじゃないか」。
ブツブツと独り言を発しながら歩いていると、身体の奥のほうからプシューっと音を立ててモヤモヤ色の何かが出ていくような感覚でした。
「さて、帰ろう!」。
再び特急かいじに乗り込み、帰りの一時間は爆睡です……(やっぱり、ちょっと疲れてたのかな!?)
往復2時間。滞在時間約1時間半。帰りにスーパーに寄って、夕飯の買い出しもして自宅に戻ったので「この数時間の間に、そ、そんなところまで行っていたの?」と夫はびっくり、というか半ば引いていました(笑)
普段は全然アクティブではない。
▲『高山ふとんシネマ』に出てきた2本の映画がどうしても観たくなって、その日の夜、息子を連れてTSUTAYAに。『マイライフアズアドッグ』と『エイプリルの七面鳥』。どちらも素晴らしい映画でした。
普段のコラムにもよく書いているような気がしますが、わたしはアクティブなタイプではありません。
どちらかというとイレギュラーが苦手で、予期せぬことを楽しむくらいなら、レギュラーな日常のなかで平穏にリフレッシュしたいと願うタイプです。
でも今回、思い切って決行してみた「ショートショートひとり旅」はなかなかよかったです。
本来ならこの日洋服を一着買っていたかもしれないことを考えると、「ショートショートひとり旅」のコストパフォーマンスは納得のものでした。
普段ならあまりしないことを、あえてやってみる。
日々の暮らしも大切だけれど「大切にしなきゃ」と疲れてしまったときには、いたらない冒険だって、きっとありです。
いつかまたその時を見計らって決行したいと思っている「ひとり旅」は、新幹線のぞみに乗り込んで、高校時代を過ごした広島でいったん降りて、終点の博多まで行くこと。
広島に行ったら、宮島に立ち寄りたい。
そして博多は両親の生まれ故郷でもあり、わたしにとっては幼い頃毎年のように遊びに行った祖父母の家の思い出がある場所です。
思い出を辿る「ひとり旅」。いつかがいつかは分からないけれど、きっと決行できる日が来るように、とりあえずはレギュラーな日々に奮闘します。
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