【わたしの腕時計】31歳の自分へ贈った、一緒に歳をとりたい相棒時計(スタイリスト 荻野玲子さん)

商品プランナー 斉木


無我夢中の時間を思い出す
自分に贈ったご褒美時計


 

雰囲気や立ち姿が凛としていて美しい人の手元を見ると、存在感のある腕時計がさりげなく細い手首に添えられているように思います。

わたしがそう感じるようになったのは、アシスタントを経てスタイリストとして独立し、お仕事で関わる人が増えて行った頃。ファッション業界だから、ということもあるかもしれません。毎日のように身なりがきちんとした方たちに会うなかで、素敵だなあと感じる人の手元には、その人に馴染んだ時計がそっとはめられていました。

一番に思い出すのは、お仕事でご一緒したヘアメイクさんの腕にはめられていた時計を見たときのこと。飾らず、シンプルなファッションの彼女が、美しい所作でメイクをするその手首に、しっかりとはめられた時計を見て、格好良いなあ、と見惚れてしまったのです。メンズライクなお洋服とは対照的に、腕時計はシルバーの品のある女性的なもので。わたしもこんなふうに時計を装いたいと思いました。おばあちゃんになっても連れそえる、ずっと一緒に時を刻む相棒のような時計。歳をとっても、若い頃のことを思い出せるような時計。もし自分に子供がいたとしたら、その子供にも大事に使ってもらえるような時計。そう思い、独立して3年、無我夢中で仕事と向き合ったご褒美にと、31歳の誕生日に時計を買うと決めたのです。

それからというもの、素敵な時計を身につけている方を見ると、どちらの時計ですか?なんて質問をして、自分にあった時計はどんなものだろう、と考えるようになりました。いろいろな時計を見ていくうちに自分の好みもはっきりとしてきて。古いものが好きなわたしは、ヴィンテージの時計を扱うお店にも足を運ぶようになりました。いちばんに気にしたのは時計が浮いてしまわないかどうか。身の丈に合わない時計はなんだか身に付けるのが恐れ多く、わたしにはまだ似合わないと感じてしまったのです。

わたしが一生連れ添うのはこの時計かも、と出合った時計は1955年代のオメガの時計。シャンパンゴールドの派手すぎないケース、自分好みの可愛げのあるフォントの数字、丸い文字盤の大きさも自分の腕の太さに丁度良い。つけてみると、今までのどの時計よりも自分の腕に馴染みました。オメガの時計は1960年代以降、わたしの持っているもののような数字表記ではなくなったので、こちらはそれ以前に作られた貴重なものなのだそう。大人っぽすぎず、いまの自分に合った時計に出合えました。手巻き式で、毎朝きちんと手で巻く感覚も、さあ今日も1日よろしくね、と一緒に時を過ごしているような気持ちになります。

身につけることで背筋もしゃんと伸び、自分に自信も与えてくれてる。これからも自分の相棒として、歳をとっても大切に使っていきたいと思います。

 

【写真】荻野玲子

荻野 玲子(おぎの れいこ)

東京都生まれ。スタイリスト。岡尾美代子氏に師事し、2013年にフリーランスとして独立。ファッション、雑貨、インテリアと幅広く活動中。好きなものは猫と蚤の市。当店の多くのファッションアイテムのスタイリングを手がける。

▼今回腕時計との物語を綴る、3名の詳しいご紹介は、こちらから。

 


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