【ケの日のこと】崩れたケーキに火を灯す、誕生日の風景
「家族と一年誌『家族』」編集長 中村暁野
第3話:崩れたケーキ
もうすぐ33歳になります。ここ数年誕生日プレゼントとしてリクエストしてること。それは美容院に行くことです。毎年「欲しいものある?」と夫は聞いてくれますが、物欲は年々下降気味。そんななか、7歳と0歳の小さい子供がいるとなかなか行けないのが美容院。時間をつくれないわけじゃないけれど、他に優先したいことがたくさんあって、ついつい後回しにしてしまう美容院に、誕生日前のどこかで堂々行かせてもらうのです。
1人でぶらぶら街を歩くのも、今はなかなか貴重な時間。そうして目にかかっていた前髪をバシっと短く、眉毛よりもうんと上に揃えてもらいます。「前髪は短く、後ろ髪は長く」という一番しっくりくる、自分らしいと思える髪型に整えてもらうと、歳を重ねる覚悟というと大げさですが、ちょっとシャンとした気持ちになることができます。
そういえば、去年の誕生日はちょうど家族みんな予定があいていたので出掛ける計画をたてました。現在10ヶ月の息子を妊娠中だったので、夫と娘と3人で過ごすのは最後。木立の中でのんびりできるような、広い公園に行きたいとリクエストし、夫が計画を練ってくれ、楽しみに迎えた当日。
ちょっとだけお洒落をして、まずは美味しいモーニングを食べようと、お店に到着すると本日休業の看板。もうひとつ行きたいお店があるから大丈夫!と言う夫についていくと、なんとそこにも本日休業の看板が……。引きつる夫、文句を言う娘、無言のわたし。場所を変えてなんとかモーニングにありついて、さあ気を取り直し今度はリクエストの公園へ。車を2時間近く走らせ、着いた先は、なぜか子供も大人も泥んこになって遊ぶためのアスレチックパークでした……。Tシャツ姿でどろだらけになって遊んでいる人々の中、街歩きスタイルのわたしたち。振り返ると、気まずそうに笑っている夫。やっちゃったなあってな表情を見て、彼が計画性という言葉から真逆の性質だったことを思い出しました。その後名誉挽回をはかろうと、夫が用意したケーキの箱を開けると、ハッピーバースデーとかかれたプレートはひっくりかえり、側面が潰れていたのでした。いやはや、思い返すたびに笑ってしまう、誕生日の思い出です。
いつもは行かないようなお店で食事をしたり、欲しいものを買ってもらったり、まさに「ハレの日」と呼べるくらい特別な日だった誕生日。でも結婚して子供も生まれ、最近は特別を望まなくなってきました。少しだけ自分を整えて、崩れたケーキを家族で食べる(夫の用意してくれるケーキは去年に限らず大抵崩れています。彼はケーキを崩さずに運べない性質ももっているのです)。そして、おめでとうを伝えてくれる周りの人に感謝したり、ちいさな決意を持ったり、地続きの「ケの日」の中で、少しだけ立ち止まれる日。そんな誕生日も心地よいのです。
そんなわけで、前髪も切って、今年も崩れたケーキを食べる準備が整いました。さあ、新しい一年です。
【写真】馬場わかな(1枚目)、中村暁野(2枚目)
中村暁野(なかむら あきの)
家族と一年誌『家族』編集長。Popoyansのnon名義で音楽活動も行う。7歳の長女、0歳の長男を育てる二児の母。現在は『家族』2号の取材を進めている。2017年3月に一家で神奈川県と山梨県の山間の町へ移住した。http://kazoku-magazine.com
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