【店長コラム】真夏の沖縄で。19歳だった頃の自分と、42歳で再会しました。

店長 佐藤

よくも悪くも忘れられない旅の思い出がある。

わたしが19歳で、兄が22歳だった頃。そこに父と母、家族4人で初めて出かけた海外旅行でのこと。

マウイ島とオアフ島をめぐる計7日間の旅程だったと記憶している。

初めてのパスポート。初めての海外。もうそれはそれはワクワクして出発の日を迎えた。

成田空港までの道のり、父は銀行に車を停め、現金をトラベラーズチェックに換金したりもしていた。そのとき「いよいよだ」という気持ちにわたしもなったのを覚えている。

飛行機が離陸し、しばらくすると食事が運ばれてくる。

「これこれ、これを楽しみにしていたのよ」

心は踊っているのに「beef or chicken?」とキャビンアテンダントに聞かれ、すっかり動揺したわたしは隣の兄に「お兄ちゃん、ビーフってなんだっけ?」と聞いた。(このとき、もちろんわたしは既に立派な19歳、笑)

もちろん兄からは「牛だよ、牛肉だよ、お前は馬鹿かっ」と笑われた。一瞬「beef」も分からなくなるくらい、舞い上がっていたのだ。

さて、問題はマウイ島に着いてから。

宿泊したホテルは楽園のように素晴らしく、ここに数日滞在できるなんてとうっとりしたのも束の間……。

どこへ行ってもパワフルでアクティブな父が決めた予定に、家族全員が連れまわされることに。

「もっと、ゆっくりのんびりしたかったのに」わたしは真っ先にブーブーと文句を言った。兄もきっと、心のなかではそう思っていたに違いない。

すでに父によって申し込まれていたオプショナルツアーで、サンセットクルーズもしたし、とある小さな島まで船に揺られスポットに到着したらシュノーケリングを楽しむというツアーにも参加した。

その日の海は荒れに荒れていて、シュノーケリングスポットに着いた頃には、ツアーに参加していた9割の人が船酔いという地獄絵図に……。

海に飛び込めば、酔いもおさまるかと思いきや、より一層症状は悪化するという最悪な状況。美しい魚の動きを目で追えば追うほどに、目はまわり、気分は悪くなっていく一方だった。

母も兄もわたしも、床にへばりついて「一秒でも早く陸地に戻してくれ、たのむ」という状況だったのだが、なぜか父はひとりだけすこぶる元気だった。

船のうえで振舞われたバーベキューを豪快に食べ、ビールをぐびぐび飲んでいた。

実のところ、マウイ島での災難はそれだけではなかった。

もちろん楽しいこと、心地よいこともあったのだが、あまりに楽しみにし過ぎていた旅行だったからかマウイ島の後半は兄もわたしもどんどん不機嫌になっていったように思う。

最後の2日間はオアフ島で過ごした。

わたしと兄は、オアフ島に着いた途端、水を得た魚のようになった。

アラモアナショッピングセンターで買い物を楽しみ、韓国料理店で焼肉を平らげたりもした。

「オアフ島は楽しい!買い物もできるし、ご飯もおいしいところ多いし!」

父はそんなふうにミーハーに喜ぶ私たち兄妹を見ながら「お前たちは、本当に分かってないなあ」と、どこか寂しそうな表情をしていた。

父は確実に、旅のハイライトをマウイ島でと計画していたわけだから、そりゃそうだろう。

そして、あれから23年の月日が経った。

あの頃19歳だったわたしはその後社会に出て、なかなか職が定まらず20代の終わりまで自分探しに奔走し、結婚をし、不思議なきっかけから兄とクラシコムという会社を起業し、子供が生まれ、起業した当初は夢にも思わなかったが今も会社と店を続けることができている。

つい先日、家族で沖縄に旅行に出かける機会があった。

今年はとりわけ東京が暑いこともあり、沖縄のほうが湿度が低く日陰に入るとなんとも心地よい風を感じることができた。

午前中は海やプールで子供と泳ぎ、いったん部屋にかえって着替えたあと、本でも読もうかとひとりでラウンジでお茶を飲むことに。

そのとき。

ラウンジになんとも気持ちよい風がスーッと入ってきた。

ラウンジの窓の向こう側にはエメラルドグリーンの海と、真っ青な空、低い位置にたなびく白い雲。

「なぁんて気持ちいいんだろ。あのときのマウイ島みたいだな」。心のなかでそう思った。

ほんとうに、沖縄で、マウイ島を思い出したのだった。

23年後に、あの時はいい旅行をさせてもらったんだなと心から感じることができたように思う。

「マウイ島みたい」と感じるほどに、わたしの心のなかで心地よさをはかるひとつのモノサシになっていたのかも。

こうして当時の父が計画していたハイライトは、23年後に真価を発揮することとなった。

「今」この瞬間には評価できないことが、もしかしたら暮らしや人生にはたくさんあるのかもしれないと思う。

自分らしい、自分にフィットするモノサシを持つことも大事にしたいけれど、どうせならそのモノサシは「長い」モノサシのほうがいいのかもしれないとも。

なが〜い時間軸でとらえたほうが、ラクになれること、楽しくなること、豊かに感じられることがたくさんあるのかもしれない。

マウイ島を旅した19歳の自分と沖縄を旅した42歳の自分が再会した瞬間に、あらためて大切なことを教えてもらったような気がしている。

 

▼この旅の思い出話を先日放送のラジオでもしています。
ゆるーいお喋りで聞く同じ話はまたちょっと違うかもです。

 

▼個人アカウントでもInstagramやってます。
雑貨やインテリアのこと、仕事や子育てのボヤきなど。

 

 


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