【スタッフコラム】現役の高校3年生に、進路相談されて。

編集スタッフ 田中

そんなに人生経験が豊富じゃないうえ、私の周りにはフリーランスの方も多く、自由な考えを貫いている方々もいる。常に尊敬はしてもアドバイスなんてする方じゃない。いつもは、人生の悩みを吐露してフムフムと聞く側である。

それなのに、いきなり高校3年生の子から進路相談を受けることになってしまった。

 

卒業したのはウン十年前…。果たして相談にのれるのか?!

ある日のこと。私の故郷・名古屋在住の知り合いから連絡があった。

その内容は、

「娘が高校3年で、あなたの出た大学の学部を検討しているみたいです。できたら卒業生の声を聞かせてあげてほしい」というもの。

ええっ!! と驚いたのは、言うまでもない。大学を卒業したのはウン十年前のことで、学部の状況も変わっていることだろう。不真面目な学生で、授業の出席率も成績もよくなかった私が相談にのれるのだろうか……という不安ばかりが増した。

慌てて現在の学部のことを知っておこうと、大学のHPで予習してから当日を迎えた。当然名古屋と東京では直に会えるはずもなく、約束の時間には画面のむこうに可愛らしい笑顔の女の子が待っていた。

 

「逆算」で動こうとして、動けなかった自分を思い出した

ひと通り彼女の話を聞いてみると、すでに目指す職業が決まっていて、その職業に活かすには何学部で何を学ぶのがいいか?と悩んでいる。(なんて優秀な!と驚いた)

頭をふ〜っと数十年前に戻してみると、私はそれ以前に学力が悩みのタネだった。入りたい学部がある、だけども成績が届かず、希望の学部ではないところへ入学が決まった。

その後どうなったかというと、燃え尽きた状態になって目指すものがなくなった。大学生が高校までと違うのは自分の意思で日常を動かしていく力が必要なところだ。授業は選べるし、1日のタイムスケジュールはバラつきがある。友人と楽しめるサークルや部活、お小遣い稼ぎのバイトもしたいし、留学に興味があるなら1年生から何をするかも調べておきたい。

なのに、なりたい職業も思いつかないし、直近のワクワクも探せない、未来が描けなかった。

日常を動かす源泉みたいなものがなくて「こうなりたいから、今これをやっておこうかな」と、たった一歩が進めなかった。

逆算で動こうとして、動けなかった自分の暗黒時代を思い出した。学生生活はそれなりに楽しかったし、友人も多くできたから大学に通わせてくれた両親には感謝している。けれど、この日はしんどさの記憶が頭に舞い戻ってきた。

 

何に興味がわいて、どんなことに夢中になれるのか

▲オンライン飲み会ではワインを用意してちびちびと。

とはいえ、画面のむこう側には、悩みの表情をたたえつつ、私の言葉を待っている高校3年生がいる。は、はやく何か言わなければ……!と焦るけれど、伝えられた事はほんの少し。

授業の内容、どんな科目が年次ごとにどう変わるか、自分はどう思ったか、感想も交えながら話してみた。

ただ、一番伝えたかったのは「逆算で動くのも大事だけれど、何に興味があって、どんなことに夢中になれる自分がいるのか知る時間にあてたら?」ということである。

彼女はもうだいぶ自分の分析をはじめている様子だったけれど、新しい環境は思いもかけない一面を見せてくれるものだから。

もう一つは、なりたい職業のために大学生活を送るのは、少々もったいない気がするよってこと。社会人のみなさんにお聞きしたいが、今自分がついている職業、果たして想像できていただろうか? 転職されたり、思い切って道を変えたりと予想通りではない今を歩む方もいらっしゃると思う。

一つの職業に照準をあてて大学生活を送れる人は数少ない。日本で大学生活を送るなら、自分の意思で動く力を養うのが大切な気がしたのだ。

 

いい匂いのする方へ、歩いていたら

この身も蓋もない話を聞きながらも、彼女はニコニコとして「お話が聞けてよかったです」と言ってくれた。本当によかったのかどうか判断に迷うところではあるが相談はこれにて終了。今頃、高3の夏休みという二度と訪れない、キラキラだけど勉強漬けの日々を過ごしているのかしら。

後になって、もし同じ年頃の自分へ送る言葉があるなら何だろう?と考えてみた。

「何に興味があって、どんなことに夢中になれるのか? 何個か言える?」

こう声をかけたい。当時、自分のことを知らなすぎて動けなかったんだと分かる。今の自分は、逆算をやめてみた結果だ。興味がわいて好みだと思える、何となくいい匂いのする方向へ歩いてみた先に思いもよらない暮らしがあった。

就活をもっと頑張れば大企業に勤める経験ができたのかもと思うし、編集という仕事を早くはじめてれば今よりスキルが上がったのではとも思い、悔いは尽きることはない。

でもまあ、逆算しなくていいよ、スムーズにいくことなんて少ないから、真面目じゃなくていいよと言ってあげたい。

話は戻って、2020年の今、高校3年生の彼女のこと。数年後でもいいから直接会いたいな。どんな表情をして、何を楽しいと感じているだろう。成長とか考えなくたっていい。そのとき、いい匂いのする方へ歩いていさえすれば。

 


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