【もっと雑貨のはなしをしよう】一生分を持っているのに、欲しくなった。日用品愛好家が選んだキッチンクロス

渡辺平日

 

「本棚を見れば、その人の性格が分かる」

むかし読んだエッセーにこう書いてありました。たしかに、どんな作品を読んでいるかで、その人の好みや考えってけっこう分かりますよね。これは本だけではなく、「ものえらび」にも同じことが言えそうです。

申し遅れました。日用品愛好家の渡辺平日といいます。僕はライターになる前は、インテリアショップに勤めていました。さまざまなお客様と接してきましたが、「なにを買ったらいいか分からない」と悩む方が多かったです。

雑貨やインテリアを選ぶときって、ちょっと大げさに言うと、「人生観」のようなものが出てくるように思います。だからみんな、真剣に迷ったり考え込んだりするんでしょうね。

「愛用品の紹介を通じて、ものえらびのヒントを提案したい」。そういう想いではじめたのが〈雑貨のはなしをしよう〉です。けっこう楽しく書いてきましたが、あるときふと、こう思いました。「これから愛用品になりそうなものを紹介するってどうだろう。それも、ものえらびのヒントになりそうだし」と。

そこで今回、〈もっと雑貨のはなしをしよう〉と改題して、お話を続けることにしました。月に1回更新とスローペースですが、どうぞよろしくお願いします。それでは時間をすこし巻き戻して……。連載スタートです。


7月2日(木)
あれからずっと気になっていた


 

「いくつあっても困らないもの」を、ほんとうにいくつも買ってしまう習性を持っている。たとえばキッチンクロス。「かさばるものでもないし」「いろいろと使えるし」など、あれこれと言い訳をしながら買い集めてきた。

ただ、近頃はさすがに自重しようと思っていて。僕はキッチンクロスを掃除には使わず、プレースマットや収納の目隠しとして使っているから、何年経ってもストックが減らないのだ。たぶん、すでに一生分は所有しているはずである。

▲北欧、暮らしの道具店のオリジナルブランド〈KURASHI&Trips PUBLISHING〉。「暮らしのなかのひとさじの非日常。」をコンセプトに、服やバッグ、食器など100種類以上のアイテムを展開している。

この〈KURASHI&Trips PUBLISHING〉のキッチンクロスと出会ったのは、2019年の6月のことだった。

好みのグラフチェック柄で、素材も長持ちするリネン製。サイズ感もおもしろいし、なにより、アクセントカラーのオレンジがいい。見つけたとき、ついつい「いいなあ」とつぶやいてしまった。

それからしばらくして「あれ?」と思った。僕は寒色系が好きで、服はその系統色ばかり。明るい色のファブリックは、買おうと思ったことすらないのに、その鮮やかなオレンジに強く惹かれたのだ。いったいなぜだろう?

うーん、気になる。でも気の迷いかもしれないし、もうたくさん持っているからな……。そう考えなおし、そのときは購入を見送ることにした(説得力がないかもだけど、普段の僕はかなりの保守派で、新しいものに対しては慎重な姿勢を取るようにしている)。

「あれからずっと気になっていた」というか、どこか心に引っかかるところがあって。そのあたりの心境の機微が、連載のテーマにもぴったりだということで、購入してみることにした。


7月4日(土)
このオレンジがなんとも絶妙


 

数日後、楽しみにしていた小包が到着。さっそく開けてみよう。……うん、ずいぶん生地がしっかりしているね。さすがリネン100%。適度にハリがあっていかにも頼れそうだ。

それにしても、このオレンジの差し方はなんとも絶妙だ。グラフチェック柄はすっきりとした印象になるけど、ややもすれば冷たい印象に仕上がってしまう。それを避けるため、明るめの色でバランスを調整したのだろうか。

サラッと説明したけど、この組み合わせを見つけるまでに、相当の試行錯誤があったことは想像に難くない。思わず「いい仕事です」と言いたくなる。……すぐに使いたかったけど、今日はもう晩御飯を食べてしまったので明日まで我慢することにした。


7月9日(木)
うん、これはなかなかに便利だ


 

使っていくうちに、大きさにもこだわりを感じるようになった。サイズは47✕47cm。数字だけみると中途半端だけど、実際に使ってみると、これがよくできていて。

広げれば2人でピザやお菓子をシェアするのに、一度畳んで長方形にすると1人分の食事にぴったりの大きさに。さらにもう一度畳むと、おやつを食べるのにちょうどの大きさに。

うん、これはなかなかに便利だ。しばらくは無理だけど、家に友人を呼んでワイワイするときにも活躍してくれそうだね。


7月14日(火)
思わずホクホク顔に


 

「このサイズ感、なにかに活かせそうなんだよな」

そう思いながらあれこれと試しているうちに、ちょっとおもしろい使い方を編み出した。ややニッチな活用方法ではあるけど、せっかくなので紹介するとしよう。

自宅やホテルで仕事をするとき、僕は本や資料などをバッと机に並べるようにしている(こうするとすぐに手に取れて便利なのだ)。しかし、楽しげな雑誌の表紙がチラチラと視界に入って、どうにも気が散ってしまうことがある。かといって、バスケットなどに入れると、今度は取り出すのがめんどうになる。というわけで「妙案」をずっと模索していた。

この日、ためしにこのキッチンクロスで隠したところ、これが素晴らしくよかった。使うものを隠しつつ、必要なときにすぐに取り出せる。正方形だから場所を取りすぎないし、グラフチェック柄のおかげでより整然と見えるオマケ付き。「そうか、こうすればよかったのか……!」と思わずホクホク顔になってしまった。


7月21日(火)
けっこう長い付き合いになると思うけど……


 

▲何度か洗濯した結果、いい感じにシワシワに。そうそう、これがキッチンクロスを育てていく醍醐味なんだよな。

「そういう癖っていくつあるの?」と言われそうだけど……。僕は「旅行先に愛用のキッチン用品をひとつ連れていく」という習性を持っている。旅先では予期しないトラブルが起こりやすく、ピリピリすることもままある。そんなときに、いつも使っているマグカップでコーヒーを飲むと、心がだんだんと落ち着いてきていい感じなのだ。

とはいえ、食器はわりに荷物になるし、割ってしまうことがあるから、今度からキッチンクロスを持っていこうかな。外へ食べに行く余裕がなくて、部屋で手短に食事をとるときも、ちょっと心に余裕が生まれそうだ。

……いまは難しいけど、また旅ができるようになったら、新しい相棒にいろいろな景色を見せてあげたいと思っている。けっこう長い付き合いになると思うけど、お互いがシワシワになるまでよろしく。

 

本日登場したアイテム

【イラスト】イチハラ マコ
【写真】渡辺平日

 


渡辺平日

日用品愛好家。海の見える小さな町で生まれ育ちました。毎日が平日のつもりで、日夜せっせと文章を書いています。趣味は町歩きと物件探しと民話収集。そういう話題が耳に入ると、反応して振り返ります。主な寄稿先は『LaLa Begin』『和樂web』『goodroom journal』など。Twitterアカウントは@wtnbhijt

 


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