【ケーキ屋の親子】第3話:ちょっと遠いケーキ屋に、わざわざ行きたくなる理由

編集スタッフ 栗村

鎌倉にある人気のケーキ屋「POMPON CAKES BLBD.(ポンポンケークス・ブールバード)」

店主の立道嶺央(たてみちれお)さんが、母・有為子(ういこ)さんと一緒にはじめた場所なんだそう。

第1話では、店主の嶺央さんがケーキ屋を始めるまでの紆余曲折について、第2話では、今のお店のスタイルができるまでのお話を伺いました。

さて3話目では、わざわざ訪れたくなるお店になった、その秘密を探って行きたいと思います。

 

有為子さんだから作れた、どこにもない味

今のPOMPON CAKESのベースとなっているのは、もともと有為子さんが家族のために作っていたケーキです。

まだケーキ作りを趣味にしていた頃、一番影響を受けたのがあるフランスのマダムなんだそう。話は嶺央さんが生まれる前まで遡ります。

有為子さん
「1970年代、主人の仕事の関係で
1年近くサンフランシスコに住んでいたことがあって、その時にたまたま近所で、フランスのマダムが料理教室を開いていらっしゃったんです」

有為子さん
「アメリカのケーキって甘くて色もポップで、そのまま家族に食べさせるのはちょっと抵抗があるものが多かったんですが、そのマダムはフランス菓子の繊細な要素が入ったレシピを教えてくださって。

アメリカのざっくりとしたカントリーな味と、フランスの伝統的で繊細な味の組み合わせがおいしくて、日本に帰ってきてからもそういうのを作っていました」

有為子さん
当時ケーキや、お菓子作りは計量をしっかり守るのが基本だったんです。だけど家族に食べさせるものだから、ぱくぱく食べても負担にならないようにって、私が作るときには、砂糖を少なめにして、その分たっぷりフルーツを入れようとか、ちょっとずつアレンジして今のスタイルができていきました。

例えばアップルパイは、砂糖はうんと少なくして、その代わりにりんごを1kg以上は使うんですよ」

 

「トラディショナリー・ニュー」と呼ばれるケーキ

ぱくぱくと食べられてしまう優しい味のするケーキを「フレンチアメリカンだね」と言ったのが大人になった嶺央さん。

今のお店には、その味をブラッシュアップして、より素材の味を感じられるものが並びます。

嶺央さん
「お店はゆっくりと歩んできたんですが、ケーキの味はずっと進化しています。

僕らのことをよく知っているアメリカの友人が、ここのケーキのことを『トラディショナリー・ニュー』という風に言ってくれたんです」

嶺央さん
「伝統的なものを新しい形で提供するという意味で。これはアメリカ人にとっても造語なんです。

ベースはトラディショナルというか、家庭のハンドメイドの味。有為子さんが作ってきたケーキを、いかに今らしく、僕ららしく提供するかいつも考えています。

うちのケーキってすごくシンプルなんです。素材の味がダイレクトにくるのもが多くてフレッシュ。だからこそ素材選びにはすごくこだわっています」

 

母は立てつつ、ケーキ作りはお互い対等です

有為子さん
「私たちはパティシエの修行をしたわけではないので、宝石のような美しいケーキを作ることは技術的にも難しいからやらないんです。

新しいレシピを作る時は、嶺央さんがこういう素材を使ったらどうって見つけてきてくれたものを、伝統的なケーキと組み合わせて考えていきます。

私よりフットワークも軽くて、いろんなところで勉強してくることもあるから『あ、こういう感覚のケーキがあるんだ』とか『こういう風に組み合わせてもいいんだ』と私も刺激されることがあって」

嶺央さん
「最初は、母のケーキを見て覚えるところから始まったんですが、ケーキ作りに関しては結構対等なんです。お互い意見は出し合って。

今は母というより、有為子さん。パートナーのような感じです。ただ、長年の経験から生まれるアイデアやセンスには、やっぱりどうしても敵わない部分があって。そこは有為子さんに任せるというか、尊敬している部分です」

 

ケーキだけじゃない、ケーキ屋

優しいだけじゃない、こだわりがたくさん詰まったケーキ。それを提供する店内にも、たくさん想いが込められています。

嶺央さん
「母が暮らしの延長線上にケーキを作ってきたのと一緒で、僕も生活の延長線上での商いをやりたいと思っているんです。

それはカーゴバイクでケーキを売りに行っているときにより感じたことで。ただケーキを売りたいというより、ケーキをきっかけに生まれる会話だったり、食べるときの心地いい空気感だったり、流れている音楽だったり、そういうケーキ以外の部分を提供したいと思って」

▲店内にある花は全て、有為子さんが庭で育てているものを摘んで生けているのだそう

嶺央さん
「だからこのお店は自分の好きなものと母の好きなものが全部合わさった、家みたいな場所にしたかったんです。

内装は母の好きなテイストで、それぞれ好きな絵を置いたり、椅子も一緒に買いに行ったりして。

そしたらできあがるのに時間が掛かってしまったんですが」

▲キッチンの窓にガラスがないのは、料理中に嶺央さんがお客さんと話がしたかったから

 

もうすぐ70歳。まだまだケーキを作りたい

有為子さん
「このお店は60歳を超えてからできましたが、お店をスタートさせるというのも大変というより楽しいと感じる方が多かったです。私は本当にケーキを作っていれば良かったから」

嶺央さん
「母はケーキを作るのが本当に好きなんです。

今はスタッフも増えて、日々のケーキを作るというよりは、新しい季節のケーキのレシピ開発とか、オーダーケーキをメインで作っているんですが、本当はもっとケーキを作りたいんだと思います」

嶺央さん
「これからは、このお店をどんどん大きくしていくというよりは、自分が好きだったサンフランシスコやブルックリンのように、この街全体で、小さな商いがいっぱい生まれて、新しいカルチャーが生まれて行ったらいいなと思っています。

でもそれとは別に、これはもう夢みたいな話なんですが、もっと最小限のお店で、家族に振る舞ってたみたいに、母が自由にケーキを作れる場みたいなことはやりたいなと思っているんです」

この取材中、とても印象的だったのは、嶺央さんが何度も「有為子さんを尊敬しているんです」と、照れずに話していたこと。

そんな姿を見ていたら、最初に嶺央さんが話していた、サンフランシスコで家族を大切にしながらファミリービジネスをやっていた姿に憧れていたという、まさにその夢をかなえているようでした。

ふたりとも「このお店はなんとなく、ゆっくりできあがってきた」と言っていたけれど、話を聞いていると、なんとなくということは全然なくて、自分がかっこいいなと思ったことを素直に取り入れて、時間をかけながら、やりたいことを考え続けて、それでやっとできてきた場所なんだと思います。

だけどそのことを感じさせない、穏やかなふたりの姿がとっても心地よく、何よりもかっこよかったです。

(おわり)

【写真】鍵岡龍門


もくじ

 

立道嶺央(たてみち れお)
立道有為子(たてみち ういこ)

息子・POMPON CAKES店主。大学で建築を学びながら旅に出る。その後、京都府美山町での茅葺き職人見習いを経て、2011年に地元の鎌倉で母と一緒にPOMPON CAKESをはじめる。

母・サンフランシスコでフレンチクッキングを学び、その後ケーキ教室「La Montagne(ラ・モンターニュ)」を30年以上主宰。現在は息子と一緒にPOMPON CAKESでレシピ開発や、オーダーケーキ作りを手掛ける。

 

【PONPOM CAKES BLVD.(ポンポンケークス・ブールバード)】
神奈川県鎌倉市梶原4-1-5 助川ビル
定休日:水・木曜日
Instagram:https://www.instagram.com/pomponcakes/


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