【ケーキ屋の親子】第2話:ノープランではじめた路面店。それでも形になったのは
編集スタッフ 栗村
鎌倉にある人気のケーキ屋「POMPON CAKES BLBD.(ポンポンケークス・ブールバード)」
店主の立道嶺央(たてみちれお)さんが、母・有為子(ういこ)さんと一緒にはじめた場所なんだそう。
第1話では、店主の嶺央さんがケーキ屋を始めるまでの紆余曲折についてお話を聞きました。第2話では、今のお店のスタイルができるまでの話を伺います。
1日10時間。ずっとケーキを作り続けた毎日
嶺央さん
「1日10時間って、めちゃくちゃハードワークだったと思いますよ。今から10年くらい前なので母も60歳になる少し前で。
そもそも母が今まで作っていたのは家族やケーキ教室のためのケーキ。たくさんの量を長い時間かけて作る日々が続くのは初めてのことでした」
有為子さん
「確かに体力的にはきつかったかもしれないけど、結構頑張るのは平気なんです。一晩寝れば元気になると言いますか、大変は大変だけど楽しかったですよ」
嶺央さん
「昔からこうで、今でもそうなんですよ。こっちが大変だなと思うことをひょいひょいとやっていくんです。
それができるっていうのはすごいですし、ありがたかった部分でもあります」
先々の計画はなし。人と話すのが楽しくて
初日から完売したケーキは、それからも順調に売れ、SNSを通じてだんだんと話題になっていきました。それでも嶺央さんは、これでいけるぞという感覚がなかったそう。
嶺央さん
「ケーキは売れるんですけど、これでずっとやっていけるって思いは全然なかったです。将来の計画もなくて、ゆくゆくはお店を構えようという考えも浮かんでいませんでした。その時はただ人と話せるのが楽しくて」
嶺央さん
「ある夜に東京から帰ってきたサラリーマンがケーキを買ってくれたんです。
この前、ここのケーキを買っていったら、奥さんが美味しいって喜んで食べてくれて、株が上がるから今日も買って帰るんだとか。飲み会で遅くなっても、ここのケーキを買っていけば大丈夫って言ってくれて。
そういう話をしているだけで、満足していたんです。未来はそんなに見えないけれど、こんな風にずっとやっていければいいかなって」
行列がある。ケーキが売れる。どうしよう。
嶺央さん
「だから逆に行列ができるようになってからがしんどかったです。
今日は何時にどこにいきますって告知すると、到着する前からお客さんが待っててくださって。
少し到着が遅くなると、連絡がきたりして。今、一生懸命向かってますからちょっとだけ待っててくださいという気持ちで向かってましたね。
到着してからは、ケーキがあっという間になくなってしまうから、あまりお客さんと話せなくなってきて。
だからこのケーキでいけるというよりは、ずっとどうしようかなと思ってましたね。ケーキを作れる数には限りがあるし」
嶺央さん
「そしたら、そんなタイミングでいろんな人たちが助けてくれたんです。家族だけじゃなくて、友人や周りの人たちも無償で手伝ってくれて。
その時は商売って言うより、みんなで楽しいことをやっていると言う感じでした」
お店を持つと決めたのも、素人感覚?
有為子さん
「路面店の始まりも、お店をやろうって思ったというより、手伝ってくれる人たちが増えてきて、ケーキができる量が増えて、今までの工房じゃ狭いから、もうちょっと広い場所がいいねって言う感じでここを見つけたんじゃなかった?」
嶺央さん
「そうだそうだ。ここなら家も近いし、広さもあるし。工房を作ってちょっと席を置いても大丈夫かなって思って。完全に素人感覚でやってましたね」
嶺央さん
「そう、もうひとつこの場所がいいなと思ったのは、鎌倉駅から少し外れた場所にあることもありました。
家賃が抑えられるということだけじゃなく、サンフランシスコのミッションや、昔のニューヨークのブルックリンとか。ちょっと外れた場所の何もないところから、若者がカルチャーを発信する姿に憧れていたんです」
ショーケースにケーキがない。ゆっくり始まったケーキ屋
嶺央さん
「今考えるととんでもないくらいゆっくり時間をかけて作っていました。
本来お店を始めるとなったら、賃料が発生するから何ヶ月後には出来上がって、いつオープンさせるって計画を立てるのですが、そんなこと考えていなかったんです。もう個人宅を作るくらいゆっくりで。
だからよく前を通る人に言われたんです。『ここは何になるんですか』って」
嶺央さん
「もう初めてのことだらけで、完成してきてやっと『あぁお店だなぁ、お店をやらないと』って思うようになってきました。
だから最初なんて本当にひどくて、なかなかショーケースにケーキが並ばなくて、売れちゃうと次がないみたいな」
有為子さん
「そう、ケーキ屋なのにケーキがないじゃないって。
もうね、三輪自転車で売りに行っているときと一緒なんです。そう言う時期が1年くらい続いたんじゃない?」
嶺央さん
「お店を絶対成功させるぞって気合はなくて、10年前からなんとなくやってきて。母がひとりでケーキを作っていたところに、僕がジョインしてケーキを販売するようになって。そこから、スタッフが増えて、お客さんがついてくれて、なんとなくケーキ屋になって。
そうやってできたケーキ屋だから、うちのケーキって親しみやすい感じがあるのかなと今になって思います」
「ゆっくり」を許す環境があって
有為子さん
「この話をしながら思い出したんですけど。私自身、急いで何かをするというのが苦手で、子供たちを育てるときも早くしなさいとか、急いでとか言った記憶がないんです。
本当は言ったほうが良かったのかもしれないですね」
嶺央さん
「でもその結果にこの場所ができたから良かったですよ。
ゆっくりでも決まるものって決まってくるなと思ってて。ただ、ゆっくりって許す環境が必要なんです」
嶺央さん
「例えば、ここの場所じゃなきゃこのお店はできなかった。鎌倉の駅近くだったら、すぐに売り上げを立てないとやっていけなくなってしまうし、ケーキを売ることに集中して、お客さんとも話ができなかったかもしれない。
ここは自分たちのやりたいことを、自分たちのペースでゆっくりやっていけるんです」
新しくお店を立ち上げるとなったら、それはそれは気合を入れて、無理をしながら突き進む。そんなイメージがあったのに、おふたりからそんな気配は全然見受けられませんでした。
はじめてこの場所に訪れたときに感じた、いつまでも居たくなる心地いい空気は、こんな風にゆっくりと作っていける環境をあえて選んできたからなのかもしれません。
でも一方で気になるのが、こんなにもマイペースにできたお店にどうして人が集まるようになったのかということ。次回はその秘密を探っていきたいと思います。
(つづく)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
立道嶺央(たてみち れお)
立道有為子(たてみち ういこ)
息子・POMPON CAKES店主。大学で建築を学びながら旅に出る。その後、京都府美山町での茅葺き職人見習いを経て、2011年に地元の鎌倉で母と一緒にPOMPON CAKESをはじめる。
母・サンフランシスコでフレンチクッキングを学び、その後ケーキ教室「La Montagne(ラ・モンターニュ)」を30年以上主宰。現在は息子と一緒にPOMPON CAKESでレシピ開発や、オーダーケーキ作りを手掛ける。
【PONPOM CAKES BLVD.(ポンポンケークス・ブールバード)】
神奈川県鎌倉市梶原4-1-5 助川ビル
定休日:水・木曜日
Instagram:https://www.instagram.com/pomponcakes
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