【エッセイラジオ】第26夜:藤原 奈緒さんのエッセイ「愛の交換」(読み手 スタッフ鈴木)
編集スタッフ 鈴木
今日も1日おつかれさまでした。
皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか?
週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。
そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。
思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。
今夜のエッセイの書き手は、「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰の藤原奈緒さん。読み手は、当店スタッフの鈴木です。
ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。
愛の交換
藤原 奈緒
もし料理の仕事についていなかったら
女の人をきれいにしたり、
力づけたりする仕事につきたかった。
それは自分のなかの自尊感情というものが
低かったからだと思う。
料理を作る人に
ごはんをおいしく作れるようになってほしい、
と思って仕事をしているのも
それが自己肯定感の近くにあると思うから。
自分の作った料理に
OKを出せるようになることと
そのままの自分を美しいと思うことは
どこか近いことのような気がする。
美しい、とまでは思えなくても
せめて、悪くないな、と思って
生きていきたいものだ。
わたしは、幼いころから
きれいなものが大好きだったけれど、
料理の仕事をはじめてからは
おしゃれをすることも
きれいになろうとすることも
完全に捨てていた。
捨てたどころか
そんな願望すらなきものとして扱い、
酷使した感がある。
これにはすごく反省をして
仕事がなんとか軌道に乗ってきたころに
その部分を回復させるのに必死になった。
ファッション誌などで
お仕事をさせていただくことも多かったので
きちんとしないとね、なんて言いながら、
自分の内には大きな危機感があって
仕事と同じくらいかそれ以上に
至極真剣に取り組んだ。
今までひどく扱っていた自分のことを
きゅうに大事に思える、
なんてことはないと思うけど
身につけるもの、毎日触れるものが
教えてくれることもある。
あなたは大切に扱われるべき存在だ、と。
ふわふわした素材や、女性らしいかたち。
淡い色に、レースやフリル。
そういうものを避けて生きてきたのに
今は素直に好きと言えるようになった。
うんと若いころのように
そういうものを身につけた自分を
過剰だと思わなくなったのもある。
年齢を重ねるのもいいことだなぁ、と思う。
わたしは洋服が大好きなのだけれど
それは、パターンは平面なのに、
衣服がひとの体に沿って立体になるときに
作る人それぞれの
人間への愛が可視化されるようで、
そのことに毎回感動するから。
それが見たくて、つい試着をしてしまって
クローゼットの中身を増やしてしまう。
いいのだ、その感動を
ずっと覚えておきたいから。
愛のあるもの、
それを作るひとや会社にお金を払いたい。
それを生み出す環境がずっと続いてほしいから、
そこに投資するという意味で
お金を払いたい、と思う。
わたしがわたしを大切にすること、
その上で自分をほんとうに大切にしてくれる
ものやサービスをきびしい目で選んでいく。
その積み重ねで
世界は変わるのではないか、と信じている。
いかがでしたか?
ほんの数分ではありますが、心の緊張がほどけたり、すうっと眠りに入るきっかけとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。
次回の配信も、どうぞ楽しみにしていてくださいね。
エッセイラジオを通して、このささやかなエールが届きますように。それでは、おやすみなさい。
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