【友だちについて話そう】第3話:友だちは、おいしいものを食べるときに思う人(長尾明子さん)

ライター 片田理恵

大人になった今、「友だち」ってどんな存在でしょうか。地元の幼なじみ、同級生、バイト仲間、同僚、ご近所さん。つきあいかたはそれぞれでも、親しみや感謝を感じる身近な人は皆「友だち」と呼びたくなる気がします。

年齢や趣味、暮らす場所。自分と共通するものがあると距離が縮まりやすいけれど、逆に違いがあるからこそ惹かれる場合もありますよね。そういう、理屈では説明しきれないところも友だちのよさなのかも。

今の私たちが考える「友だち」について話そう。第1話の田中千絵さん、第2話の砂原文さんに続く第3話をお届けします。

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友だち0人で始まった東京暮らし

三人目に登場くださるのは、料理家の長尾明子(ながお・あきこ)さん。

出身地である岐阜県美濃加茂市から名前をとった「minokamo(みのかも)」名義で、全国の家庭料理や地域食から新たなレシピを提案しています。

この日は都内にあるご自宅にお邪魔してのおしゃべりとなりました。玄関の扉を開けると……なんだか甘くていいにおい!

長尾さん:
「岐阜や愛知でよく食べられる『鬼まんじゅう』というおやつです。

さつまいもの角切りが入った蒸し菓子で、私はよくお茶請けに作りますね。蒸し立ての熱々もおいしいし、冷めるとより生地がもっちりしてそれもおいしい。

私にとっての友だちって『おいしいものを食べるときに思う人』なんです。これを一緒に食べたいなとか、あの時に作ってもらったごはんがおいしかったなとか、次に会う時はあれを持っていこうとか、おいしいとセットで自然に顔が浮かぶ人」

長尾さん:
「美術の学校に行くために上京して、最初に阿佐ヶ谷という町に住みました。友だちがひとりもいないっていうあの心細さは今も忘れられない。

その後少しずつ、お互いの話をしたり、一緒にごはんを食べたりする人が増えていったんです。

でも『友だちをつくるぞ!』と思ってがんばったというより、自分のやりたいことをやっていったら、自然に仲よくなっていた感覚なんですよね。

最初は0だったのが、気づいたら2とか3に増えている。すごいな、ありがたいなと思いました」


大切な町で、大切な人が増えていく

同じ学校に通う同級生との交流もあったものの、住まいもバイト先も飲みに行くのも阿佐ヶ谷。つながりがつながりを生み、大切な人や場所がどんどん増えていったといいます。

長尾さん:
「当時、アパートの2階に住んでいて、1階にはご夫婦が入居していました。ある日私が外に置き忘れていたヘルメットをわざわざ届けてくださって。それをきっかけに徐々に親しくなり、minokamoのホームページはwebデザイナーだったご主人につくってもらいました。

家族ぐるみで仲よくさせてもらっていた和食屋さんもあります。ご自宅と店舗がつながっていたんですけど、お店が休みの日に自宅の方でごはんをご馳走になったり、子どもたちと遊んだり、しょっちゅう“帰って”ましたね。

あとはなんといっても、大好きな焼き鳥屋のマスター。味のセンスがいいんですよ。あったかいポテトサラダとか、刻んだくるみが入った餃子とか、どれもひと工夫あって、すごくおいしかった。財布が空っぽでも、いつでも来なよって言ってくれて。

私が初めて写真の個展をすることになった時にも、ひとりで見にきてくれたんです。帰りがけに『みんなでビールでも飲みな』ってそっとおこづかいまで渡してくれて。もう、胸がいっぱいになりましたね」


このままだと成長しないから

いまは別の町で暮らす長尾さん。懐かしそうに、うれしそうに話してくれる阿佐ヶ谷という町が、今も特別な場所だということが伝わってきます。

長尾さん:
「阿佐ヶ谷は、私を甘やかしてくれた町。あんな場所はちょっとほかにないですね。仕事への姿勢も、人生への姿勢も、すてきな先輩の姿をたくさん見せてもらいました。

あそこで一緒に過ごした人たちのことは、『友だち』って呼んでいいのかわからないけど、でも『友だち』としか呼びようがない(笑)。本当に楽しかった。

それである日、決めたんです。このままだと自分が成長しないから、この町を出なくちゃって」

長尾さん:
「引っ越すことは自分で伝えに行きました。湿っぽくならないよう、できるだけサラッと。『私、引っ越すことにしたんですよ』って言葉だったと思います。

その場では泣かなかったですけどね、それを報告した友だちが代わりに泣いてくれたり。

今も阿佐ヶ谷のみんなとはつきあいがあります。本が出たよっていうとまっさきに買ってくれる。テレビに出るよっていうと楽しみに観てくれる。

なくなってしまったお店もあるし、阿佐ヶ谷を離れて故郷に戻った人もいるんだけど、でも、それでも今もつながっている。友だちって不思議ですよね」


大切な人を大切だと語ること

「友だちとしか呼びようがない、大切な人たち」。長尾さんの話を聞きながら、これまで出会ったたくさんの人の顔が思い浮かびました。いま一緒にいるわけではなくても、親子くらい年齢が離れていても、たとえもう会えなくても、友だちは友だち。

だからこそあえて長尾さんは「友だち以外の⼈と話す時間も大切」と言います。友だちと話すのはもちろん楽しい。でも、今日より明日、自分がより成長するために、と。

友だちは、がんばっているのを知っている人。

友だちは、なんにもしない時間を一緒に過ごせる人。

友だちは、おいしいものを食べるときに思う人。

友だちについて話すときのみなさんの表情が少し恥ずかしそうで、でもなんだか楽しそうで、それがとても印象に残りました。大切な人を大切だと語ることは、語る私たち自身にとっても特別な体験だった。そんなふうに思います。


【写真】砂原文



もくじ

長尾 明子

料理家、写真家。岐阜県美濃加茂市出身。東京の自宅兼アトリエと、祖母が暮らした岐阜の古民家の2拠点で活動中。岐阜新聞での連載のほか、近著に『みそ味じゃないみそレシピ』(池田書店)などがある。4/30に新著『つつむ料理~焼売/餃子/肉まん/おやき』(技術評論社)が発売。

Instagram: @minokamo


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