【本屋の本棚から】前編:ストーブのまえで、静かなひとときを味わうように。冬を感じる4冊(広島・READAN DEAT)
編集スタッフ 松田
ふらりと本屋さんに立ち寄って、本棚を眺める時間。
それは、とてもしあわせで、豊かな時間のひとつだと感じます。
心の奥にしまい込んでいた興味や記憶が呼び起こされたり、たまたま目にとまった言葉に思わずドキッとしたり、美しい装丁の本に癒やされたり。ふと気づくと店内には、同じようにじっくり本棚を眺めている人がいて、それがまた居心地よく感じたり。
それでも、仕事や子育てなど、忙しい日々に追われて、なかなか本屋に立ち寄る時間がつくれないという方も多いのではないでしょうか。
本屋に訪れ、本棚をゆっくり眺める時間そのものをお届けできたなら。そんな思いで企画した特集。
第二弾となる今回は、広島市にある書店、READAN DEAT店主・清政(せいまさ)さんに、今の気分に寄り添うテーマで本を選書いただき、特別な本棚をつくっていただきました。
▲READAN DEATがあるのは、路面電車が走る広島の街
▲小さなギャラリーを併設し、本だけでなく器や民芸品も販売しています
▲本棚には、店主の清政さんが独自の目線で選んだ、デザインやアート、食や暮らしまわりにまつわる本が多く並んでいました
本日選んでいただいた本棚のテーマは、「静かなひとときに寄り添う冬の本」です。
それでは本屋さんでの時間を、ゆっくりお楽しみください。
今日の本棚
「静かなひとときに寄り添う、冬の本」
頬にあたる冷たい北風が、
日に日に強くなっていく。
そんな季節は
自分をやさしく労るように
思う存分、家にこもろう。
ストーブの前で毛布に包まり
ひとり静かに
温かい飲み物を手にするように。
こころがあたたかくなる、
そんな “冬の本” を選んでいただきました。
【本棚リスト】
『静寂とは』アーリング・カッゲ/田村 義進 (訳) 辰巳出版
『炉辺の風おと』梨木 香歩 毎日新聞出版
『こたつ』麻生 知子 福音館書店
『はらぺこサンタのクリスマス』はらぺこめがね ほるぷ出版
『もみのき そのみをかざりなさい』五味 太郎 文化出版局
『鹿渡り』白石 ちえこ 蒼穹舎
『中谷宇吉郎の森羅万象帖』福岡 伸一//神田 健三 LIXIL出版
『雪がふっている』レミー・シャーリップ/青木 恵都(訳)タムラ堂
『アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行』三國 万里子 文化出版局
『極北へ』石川 直樹 毎日新聞出版
この本棚の中から、特に清政さんが今オススメしたい本についてコメントいただきました。
静けさを感じられることは、豊かで贅沢なこと
清政さん:
「最初に選んだのは、世界的に有名なノルウェーの冒険家が、静けさについてアイデア・考えをまとめた本です。
それは誰もいない南極大陸で過ごす独りきりの長い時間であったり、もしくは大歓声のサッカースタジアムの中でゴールを決める瞬間であったり。
現代を生きていると、見るもの聞こえるものの、情報量が多すぎて、疲れてしまうこともありますよね。この本では、33章のエッセイを通して、多様な角度で見えてくる静けさについて考えさせられます。そして、それはとても贅沢で豊かなことなんだと教えてくれるんです。いつでもどこでも何かしらの情報に繋がっている今この時代にこそ、必要なものなのだと感じます。
最後の章がとびきり素敵なので、ぜひ。たくさんの情報が行き交う中で、走り抜いてきたこの一年。この冬は、この本とともに静かなひとときが過ごせますように」
『静寂とは』アーリング・カッゲ/田村 義進 (訳) 辰巳出版
小さな山小屋に、薪ストーブと。暖かい情景が思い浮かぶ
清政さん:
「次にご紹介するのは、小説『西の魔女が死んだ』などで知られる作家・梨木香歩さんが、八ヶ岳に購入した山小屋での生活での日常を描いたエッセイ。
これまで前の持ち主に大事に使われてきた山小屋を受け継ぐエピソードから始まるのですが、梨木さんの誠実なお人柄がにじみ出ていて、読んでいてこちらもやさしい気持ちになります。
鳥たちや木など、美しくて厳しい自然がすぐそばにある山小屋での暮らし。薪ストーブが欠かせない冬の生活や、その中での暖かい情景を思い浮かべながら、毛布に包まってのんびり読んでいると、慌ただしい日々から離れて山小屋での暮らしに自分も入り込んだような気持ちになる、そんな一冊です」
『炉辺の風おと』 梨木香歩 毎日新聞出版
懐かしい景色と、おいしい想像と。冬の絵本2冊
清政さん:
「次は冬らしさを感じる絵本を、2冊ご紹介します。『こたつ』は、こたつを中心に過ぎていく、とある家族の大晦日の1日の様子が定点観測で描かれている絵本です。個人的に日本人でよかったな……と思う瞬間のランキング上位に入るのがこたつの存在なので、本当に大好きな一冊です。
表現の細かさにも注目で、新聞の内容までしっかり描かれていたり、年賀状の書きかけが転がっていたり。読み返すたびに、なんだか懐かしい発見がある絵本です。大人にも読んでほしいですね。
『はらぺこサンタのクリスマス』は、うちのお店でも原画展をしてくださった、はらぺこめがねさんというご夫婦が手掛けた絵本です。ストーリーは、子どもたちにプレゼントを届けないといけないのに、お腹がぺこぺこのサンタさんが、お腹が空きすぎて、いろんなものが食べものにみえてきてしまうというもの。
食べものの絵が、本当に美味しそうで。ページをめくるごとに想像が膨らんで、チキンやケーキがあんなところに!と、お子さんとのやりとりもきっと楽しいはずです。クリスマスにぜひ」
『こたつ』麻生 知子 福音館書店
『はらぺこサンタのクリスマス』はらぺこめがね ほるぷ出版
モノクロの世界で、旅を味わう
清政さん:
「最後にご紹介するのは写真集です。冬の北海道で遭遇したエゾシカの群れが、一列になって凍った湖を渡る。その姿に惹かれた著者が、2014年から2020年にかけて撮影した作品集です。
雪に覆われた大地を進む鹿の姿を捉えた写真は、神秘的な美しさがあり、眺めていて凛とした気持ちになります。モノクロの写真は日常生活で触れることはほぼなくなりましたが、コントラストの深いモノクロ写真だからこそ、エゾシカが湖を渡っていく、厳かなその一瞬を切り取ることができるのだなぁと感じます。
装丁も美しく、静かな世界観の写真集。作品を通して、冬の北海道を旅した気分になれる一冊です」
『鹿渡り』白石 ちえこ 蒼穹舎
***
つづく後編は、「食の本」がテーマの本棚をお届けします。どうぞお楽しみに。
【写真】篠原 ゆき
もくじ
清政 光博
広島市にある個人書店「READAN DEAT(リーダン ディート)」店主。東京・下北沢の本屋 B&Bと品川のエキナカ書店で働いたのち、2014年に地元の広島でREADAN DEATをオープン。リトルプレスや写真集、暮らしやデザインにまつわる本のほか、作家のうつわや民藝の品を扱う。店内では企画展のほか、トークイベントやワークショップなども精力的に開催している。http://readan-deat.com
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