【本屋の本棚から】後編:雨へのまなざしを変えてくれる本4冊(仙台・曲線)
編集スタッフ 松田
本屋に訪れ、本棚をゆっくり眺める時間そのものをお届けできたなら。そんな思いで企画した特集。
前編に続き、宮城県仙台市にある書店・曲線の菅原 匠子(すがわら しょうこ)さんに、今の気分に寄り添うテーマで本を選書いただき、特別な本棚をつくっていただきました。
今回の本棚のテーマは「雨にまつわる本」です。それでは本屋さんでの時間を、ゆっくりお楽しみください。
今日の本棚
「雨へのまなざしを変えてくれる本」
梅雨時は気分も塞ぎがち。
でも、文学や詩、写真の世界の視点を通すと、
雨は美しさを秘めているものだと
気づかされることがあります。
苦手だった雨が好きになるような、
憂鬱だった情景への
まなざしを変えてくれるような、
そんな本をご紹介いただきました。
【本棚リスト】
『ソール・ライターのすべて』ソール・ライター 青幻舎
『あめがふるときちょうちょはどこへ』M・ゲアリック(作)/ L・ワイスガード(絵)/ 岡部 うたこ(訳) 金の星社
『雨の言葉 ローゼ・アウスレンダー詩集』ローゼ・アウスレンダー/加藤 丈雄(訳) 思潮社
『こっぱとあまつぶ』 杉戸洋 torch press
『雨をよぶ灯台』マーサ・ナカムラ 思潮社
『あめのひのくまちゃん』高橋 和枝 アリス館
『原民喜全詩集』原 民喜 岩波書店
『雨のことば事典』倉嶋 厚、原田 稔 講談社
『小村雪岱挿絵集』小村雪岱、真田幸治(編) 幻戯書房
『かさ』太田大八 文研出版
この本棚の中から、特に菅原さんが今オススメしたい本についてコメントいただきました。
セピア色で描かれた、小さな生き物と雨の景色
菅原さん:
「最初にご紹介するのは、ある雨の日の小さな生き物たちの姿を描いた絵本です。
雨がふってきたら、ちょうちょうはどこへ隠れているんだろう。読んでいると想像が膨らんで、実際に雨の景色の中で探しにいきたくなります。
セピア色のような、落ち着いた青を基調に描かれた雨の景色が美しく、まるで雨音が聴こえてくるよう。梅雨の夜に読むのにぴったりな、静かな一冊です」
『あめがふるときちょうちょはどこへ』M・ゲアリック(作)/ L・ワイスガード(絵)/ 岡部 うたこ(訳) 金の星社
人生のさまざまな場面に寄り添う、雨の詩
菅原さん:
「こちらは、わたし自身も大好きな詩人・原 民喜(はら たみき)の詩集です。彼の人生は苦労も多く、決して愉快なものではありませんでしたが、宮沢賢治に通ずるような、透明感のある詩を残しています。
雨にまつわるものも多く、この中の『庭』という詩が印象的でした。ある雨の日に最愛の奥さんが亡くなって自分が泣いているという夢をみて、そのあと実際に奥さんが亡くなったときも、やっぱり夢と同じように雨が降っていて、でも庭から見える外の風景は夢ではないというもの。
とても悲しいけれど、美しくもある情景が浮かんで、雨が彼に寄り添っているような、不思議とそんなやさしさも感じられる詩です。彼の詩を読んでいると、雨にはさまざまな表情があるものなのだと気づかされます」
『原民喜全詩集』原 民喜 岩波書店
渋くてオシャレ。躍動感あふれる日本画の世界
菅原さん:
「資生堂の商品デザインや書体を手がけるなど、大正から昭和初期にかけて活躍した日本画家・小村 雪岱(こむら せったい)の挿絵集です。
とりわけ雨の描写が面白く、小雨、土砂降り、風の強い日など、さまざまな雨を細やかに線画で表現しています。絵の中から雨音が聞こえてきそうな迫力と躍動感に、心が踊ります。
時代が変わっても色褪せない、渋くてオシャレな作品。日本画には興味がなかったという方にも、一度手に取ってみていただきたい一冊です」
『小村雪岱挿絵集』小村雪岱、真田幸治(編) 幻戯書房
やわらかくて不思議な、パステルカラーのあまつぶ
菅原さん:
「最後にご紹介するのは、小さな家や、空、舟などのシンプルなモチーフを、繊細でリズミカルに配置された色やかたちで表現するアーティスト・杉戸洋さんの展示カタログです。
『雨粒』をテーマに描かれた、パステルカラーの絵画はとても軽やか。やわらかく、あたたかい気持ちになる雨の景色が、まるで平面から浮かびあがってくるように感じられます。
考えごとで頭がいっぱいのときにも、この作品集を眺めていると、どこか別の遠い場所に連れていってくれるようで、気持ちをすっと楽にしてくれる気がします。雨の眠れない日に、ぜひ触れてみていただきたい作品です」
『こっぱとあまつぶ』 杉戸洋 torch press
***
つかの間の本屋さんでの時間、いかがでしたでしょうか?
本との出会いにワクワクしたり、癒やされたり。まるで本当に本屋さんにいるような、居心地のよい時間を少しでもお届けできていたら嬉しいです。
【写真】かんのさゆり
もくじ
曲線
宮城県仙台市にある、築120年を超える建物を店舗とした本屋。おもに新刊書、少しの古書、ZINEやCDなどを販売。本と親和性の高いイベントや展示も行っている。最新刊にこだわることなく、店主みずからが良いと思う本を選び紹介している。「曲線」という店名は、店主が好きな詩人・北園克衛の詩に因んでつけたのだそう。
HP:https://kyoku-sen.com instagram:@kyokusen_8
open|月・木・金・土・日 12:00-19:00
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