第9回 おにぎりカフェの可愛い常連さん

デザイナー 村田

■◇◇■ 第9回 「おにぎりカフェの可愛い常連さん」 ■◇◇■

今週はおにぎりカフェの思い出に残る、ある可愛い女の子のお話をしたいと
思います。

その子の年は13才くらい。
シャイで大人しそうで引っ込み思案な思春期の女の子。
ぽっちゃりした肌は透き通るほど白く髪はブロンドで、スウェーデンの
童話から出て来た、スウェーデン森の小さな妖精みたい。

いつも夕方過ぎ、学校帰りと思わせる姿で一人でやって来る。
鞄には日本のアニメのキャラクターがぶら下がっていて、キティちゃんの
プリント柄のTシャツがお気に入りだそう。
代表的10代のストックホルムっ子といった感じ。

スウェーデンでは日本のアニメやキャラクターがとっても流行っていて、
図書館にもしっかりと漫画コーナーが設けてある。
スウェーデン語に翻訳された漫画や月刊漫画雑誌が豊富に置いてあり、
どちらかというとクラスの人気者やおませな子がよく読んでいる。
さらさらと風になびくシルクのような、とてもさわやかなアニメオタク
なのである。

彼女が初めてやって来たのは、おにぎりカフェを始めてから4ヶ月くらいが
経った頃。
一人で恐る恐る入って来たんだろうな。
ドアをそーっと開けすぎて、キッチンにいた私は彼女が入って来た事にも
気づかなかった。

どのくらい待っていたのか分からないが、私が出て来た時は「不安」という
文字が顔中張り付いて真っ黒になるくらい不安そうな顔をしていた。

声を掛けると照れくさそうに笑い、白いツルツルのほっぺたがフワッと
ピンク色に染まった。キュンッ。
私がもし彼女と同じ年頃の男の子だったら間違いなく好きになっていただろう
と思う。

まさかそんな時間に(多分夕方5時〜6時頃)13才くらいの女の子が一人で
食事をするとは思わなかったので、まずは座って話し相手でもしてあげようと
お茶とちょっとしたスウィーツを勧めてあげると、すかさずお寿司の注文。

「お寿司好きなの?」と聞くと大好物だと言う。
さすが日本好き。

「でもうちのお寿司は他とはちょっと違うよ。」と言うと
「うん、大丈夫。私何度もお寿司食べた事あるから。」と、自慢げに答える。
まったくおませさんだ。

彼女を一人残し、キッチンへ。
薄焼き卵のロール寿司を作って彼女の前に運ぶまでの約10分間、
彼女はほとんどよそ見する事なく一点だけに集中して穴が開くほどじーっと
どこかを見ていた。
何を見て何を考えてたんだろう。

お寿司が運ばれて来るととても嬉しそうな顔をして、
「タック!(ありがとう)」と一言。
そしてしばらく今度は今運ばれて来た黄色のお寿司をじーっと見つめる。
もう少しでお寿司にボッと火が着いちゃうんじゃないかってくらい真剣な
眼差しで。

「ね、違うでしょ。」
横から声を掛けると、我に返ったのか私に振り向く事もなくナイフとフォークで
上品にとても慣れた手つきで食べ始めた。
お箸の使い方を教えてあげようとしたが彼女のナイフとフォークの使い方が
あまりに美しく、ずうっと見ていたくて今回はそのまま食べてもらった。

スウェーデン人は割と食べ方が汚い人が多い。
大人も子供も食べ残し方に品がない。
お皿の上もテーブルの上もまるで鳩が来たんじゃないかと思うほど食べ残しで
散乱している。
そんな光景を嫌というほど見て来たから、彼女の食べ方には思わず目を見張って
しまった。

お醤油も付けすぎる事なく、上から雫を落とすように1滴1滴丁寧に
垂らしていた。
食後のお皿は、私の知らないうちにどこかで洗って来たんではないかと思うくらい
きれいで、ご飯粒はもちろんお醤油の後さえ残っていなかった。

食後にお茶を出してあげようと思ったが「お茶はいらない」と断られた。
しかし、もう私は彼女の虜。
色々聞きたくて、彼女が可愛くって、質問を沢山してしまった。
ここは10代前半の女の子。
非常に無口で「うん」とか「すん」くらいの答えしか返って来なかったが、
お寿司は満足して食べてくれたようなので私は良い気分。

再び「タック!」と言って、教科書やら宿題やらが沢山入ってそうな鞄を
肩から掛けて帰って行った。

その日は「こんな時間に食べちゃあ夕飯食べられないだろうな」と思いつつ
見送ったが、その後、彼女は1週間に多い時で3回、同じような時間に来て
オムレツのロール寿司を食べるほど顧客上級者になった。

「こんな美味しいお寿司は食べた事がない」って恥ずかしそうに言ってくれた時は
とても嬉しかったけど、それよりも私は彼女の食生活や家庭事情の方がちょっと
心配で、何とも言えない複雑な心境のあまり彼女をぎゅっと抱きしめてしまった。

驚いた様子だったけど、それからは何となく彼女がもっと打ち解けて話して
くれるようになった気がする。

スウェーデンでカフェを辞めた後も、日本に帰って来た今もたまに彼女の事を
思い出す。

もう高校生くらいかな。
名前も住所も連絡先も知らない彼女。
友達沢山出来たかな。
彼氏はいるのかな。

「親心」といった心境である。

来週は、新しい言葉にもなった「カフェラテパパ」についてお話したいと
思います。

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