【連載】あの人の暮らしにある「北欧」のこと。no.18:「なんにもない」を楽しみつくす

【連載】あの人の暮らしにある「北欧」のこと。no.18:「なんにもない」を楽しみつくす

ライター 藤沢あかり


箱根のセカンドハウスまでは、愛車を走らせ90分。

着いたら窓を開けて空気を入れ替え、それからお風呂に入ります。蛇口をひねれば温泉が出るのは、この地に住む最高の贅沢です。


お風呂もリビングも、窓の向こうは箱根の山々が連なります。

時間とともに、そして季節ごとに色を変え、ときには雪化粧をまとう四季模様。これを眺めながら温泉に浸かり、風呂上がりにはお酒を楽しむ。ゆっくり夜が更けるなか、音楽を聞いたり、本を読んだり、ときどきは考えごともします。

箱根に来れば、きっと山に登ったり走ってみたり、そんなふうに自然の中へずんずん入っていきたくなるのだと思っていた大島さんでしたが、どうやら違ったようです。

窓からの景色だけで、こんなにも満たされるのだと知りました。


何度も北欧を訪れるたびに、向こうではなんにもない日常そのものを楽しむひとが多いことを知りました。散歩したり、近くの公園でおしゃべりしたり。

休日は近所をぶらぶらと歩きながら、家々の窓辺のデコレーションを眺めます。カーテンをつける習慣がない北欧では、通りからも家ごとの個性的なインテリアが見え、それも楽しみのひとつなのです。

刺激的で飽きる暇のない、東京の日々。

一方、箱根では、特別なことなどない、ただそれだけの時間が流れていきます。

東京が吸収する場所だとすれば、ここは空っぽの気持ちで感じる場所なのかもしれません。


ときどき棚の上のちいさなお気に入りを並べ替えたり、家具の配置を変えてみたり。この壁に新しく絵を飾ってみようか、東京の家にあるあのオブジェはこっちのほうが似合うかもしれない。そんなことをのんびりと考える時間も、ここではなによりの楽しみです。

大好きなものに囲まれて、自然と温泉、それから音楽や読書。すっかり充実し、また新しい気持ちで東京での日常がはじまります。




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Text : Akari Fujisawa
Photo: Ayumi Yamamoto


大島 忠智

インテリアブランド『IDÉE』ディレクター。カフェマネージャーや広報担当を経て、2011年よりバイヤーとして国内外で家具や雑貨の買い付けを行う。インタビューウェブマガジン『LIFECYCLING』主宰。現在はブランドの垣根を越え、総合ディレクションを手がける。著書に、染色家・柚木沙弥郎と共にインテリアから暮らしを豊かにすることを考え抜いた『柚木沙弥郎 Tomorrow』(ブルーシープ)がある。

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