【スタッフコラム】そんなことしている場合じゃない夜に
編集スタッフ 栗村
キッチンの引き出しを整理していたら出てきたドーナツの型。それを見て思い出しました。そういえば、ドーナツを作っていたんだった、それも夜に。
数年前、社会人になりたてだった頃、休日は家で過ごすことが多かったんです。新しい環境に疲れていたし、覚えなきゃいけないこともたくさん、月曜日までにやっておかなきゃいけない宿題もあったから。
けれど、何をするわけでもなく、結局のんびりと過ごしてしまうだけ。そうすると、日曜日の夕方を過ぎたあたりから、何もしなかった休日に、ちょっと後悔し始めて、このまま月曜日を迎えたくないと、気持ちが落ち着かないでいました。
そんなとき雑誌をパラパラとめくっていると、あるレシピが。
「オールドファッションのドーナツ」。僕の一番好きなドーナツです。そして、レシピには、まだドーナツを作ったことがない人を羨ましく思うと、コメントが添えられていました。だってできたてのドーナツを食べた時の感動を、初めて味わう楽しみがあるのだから、とも。
「できたてのドーナツ……食べたい、そして、まだ見ぬ感動を味わいたい!」と、もう居ても立っても居られなくなりました。まるで休日の全てを、ドーナツ作りで取り返すんだとばかりに、スーパーへくり出したのです。
薄力粉、ベーキングパウダー、グラニュー糖を揃えて、いざドーナツを作り始めます。
この時に忘れてはならないのは、すでに時刻が21時を回っているということ。それから、やらなきゃいけないことを放っておいているということ。
でも、そんなことは関係ないと夢中で粉を混ぜ合わせ、生地もしっかり30分寝かせて、丁寧に型を抜いていきます。そして、いつもの料理ならケチる油もたっぷり使って、ドーナツを揚げました。
▲パチパチパチパチと、心地よい音をたてて、ふっくらと膨らんでいく姿は愛おし過ぎます
結果は大成功。できたてのドーナツがこんなにもおいしいなんて! 街中にこのドーナツを配って歩きたくなるくらいの興奮で、休みが終わってしまうというそわそわした気持ちもすっかり忘れて、素晴らしい気晴らしの時間を過ごしました。
時計にちらりと目を向けると、時刻は23時を過ぎています。
もうやるしかない。
気晴らしのお陰か、いよいよやらないとまずいとお尻に火がついたのか、そのあとは今までよりも何倍も集中して勉強しはじめました。
それからしばらく、週末のドーナツ作りにはまり、レモンを入れてみたり、粉の配合を変えてみたり、しまいには本格的な型を買ってみたり……決まって夜、それもやらねばならないことのある夜に、ドーナツを揚げていました。
そんなことしている場合じゃないでしょと突っ込みたくなるけれど、その時には必要だった夜の気晴らし。春になって、ドーナツの型を見つけたら、新しい気晴らしを見つけたくなりました。
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