【雑貨のはなしをしよう】これはきっと、僕の終着点。〈iittala〉のカップ&ソーサー
渡辺平日
いまから6年くらい前になるでしょうか。洗い物中に手を滑らせ、骨董市で見つけたコーヒーカップを割ってしまったことがあります。
お気に入りの、しかも、二度と手に入らない食器を割ってしまうなんて。それもちょっとした不注意で!
……けっこう長いあいだ引きずりました。でも、時間が少しずつ傷を癒してくれ、気づけば雑貨屋の食器売り場を熱心にチェックするように。
それを聞いた友人は「なんだか恋愛みたいだね。心変わりというか」と笑っていました。たしかに、言われてみればちょっと似ているかもしれません。
出会いはある日突然に
そんなある日。思いがけない場所で、素敵な出会いがありました。
巡り合ったのは働いていたインテリアショップのバックヤード。検品をしようとダンボールを開けたら、中から美しい食器が出てきて、一瞬で心を奪われてしまいました。
それはテーブルウェアブランド〈iittala〉のカップ&ソーサーでした。北欧デザイン界の巨匠〈カイ・フランク〉が手掛けた食器で、「究極のベーシック」と称される名作中の名作です。
当時、僕はロゴやイラストの入った食器を好んで使っていました。だから、このシンプルな作品に心惹かれるのは自分でも意外で、同時に心が躍るような気持ちになったことをよく覚えています。
「とっても素敵な食器だなあ。お値段はいくらなんだろう? えっ、高い……」
雑貨に詳しくなかったこともあり、そのときはこんなふうに感じました。なんといっても予算の2倍近い価格です(いまではむしろ安いとすら思いますが)。でも、これもなにかの縁だと考え直し、次の給料日に思いきって購入しました。
いいものだけど、気軽に使える
それ以来、iittalaのカップ&ソーサーは生活に欠かせない愛用品のひとつになりました。「よくあのときに勇気を出したもんだ」と、使うたびに数年前の自分を褒めたくなります。
なにを入れても絵になりますが、コーヒーを注いだときの美しさはまさに別格。その白と黒のコントラストは、ずっと眺めていても見飽きることはありません。コーヒーは味覚と嗅覚だけではなく、視覚でも楽しめるということをこの食器は教えてくれました。
「そんなにいいものなら、なんだか使うときに落ちつかなそう……」
もしかしたらこう思うかもしれません。僕も最初はそう感じましたが、実際に使っていくうちに考えが変わってきました。
実際に手に取るとよく分かりますが、カップの高さや持ち手の大きさが実に絶妙なんですよね。安定感があるから仕事机でも気兼ねなく使用できます。
厚手で丈夫というのも重要です。おかげで洗うときや収納するときに必要以上に気をつかう必要がありません。僕はそそっかしいから、安心して洗えるのはとっても嬉しいです。
いい食器はたくさんあるし、気軽に使える食器もたくさんあります。でも、この食器みたいに両方を兼ね備えたものはほとんど存在しません。そんな素晴らしい作品に20歳そこそこで巡り会えたのは幸運というよりほかないです。
最近、少なくともカップ&ソーサーは、これさえあればもう十分と思うようになってきました。なんというか……終着点にたどり着いたという感覚です。
ものを知れば知るほど「一生もの」という言葉は使いづらくなるけど、この作品に関しては自信を持って一生ものだと断言できます。もうたぶん、心変わりはなさそうです。
思いがけないところで出会ったものが、かけがえのないパートナーになる。そんなドラマチックな経験をさせてくれるのも雑貨選びの魅力ではないでしょうか。
「このコーヒーカップを選んでよかったなあ。たしか、『北欧、暮らしの道具店』に載ってたエッセイを読んで買ったんだっけ……」
たとえば10年後に、そんなふうに思い出していただけたら。日用品愛好家としてはこれ以上なく幸せに感じます。
本日登場したアイテム
【イラスト】イチハラ マコ
【写真】クラシコム
渡辺平日
日用品愛好家。海の見える小さな町で生まれ育ちました。毎日が平日のつもりで、日夜せっせと文章を書いています。趣味は町歩きと物件探しと民話収集。そういう話題が耳に入ると、反応して振り返ります。主な寄稿先は『LaLa Begin』『和樂web』『goodroom journal』など。Twitterアカウントは@wtnbhijt。
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