【スタッフコラム】わたしが会社を辞めた時。宙ぶらりんの期間に見えたもの。
編集スタッフ 齋藤
ありのままでいたら、居場所がなくなるような気がしていました。
何もしなくて良い時間がある、そんなの贅沢だ。
そう言われてしまうかもしれませんが、大人になったわたしは自分でも気付かないうちに、空白の時間が恐ろしくてたまらないようになっていました。幼い頃はいくらでもぼうっとできていたのに、それができない。
予定がないなんて本当に無理、常に何かをしていたい、目標を追っていたい。
そんな強迫観念のようなものに追い立てられていた理由は、役に立たなければ居場所がなくなってしまうのではないか、そうした不安がいつの間にか胸の奥に巣食ってしまったからのようでした。
でも思いもよらず、約2ヶ月間もの休みができてしまったのです。
わたしがクラシコムに入ったのは昨年の5月後半のこと。けれど3月までで、以前の職場を辞めてしまっていました。
▲唯一旅行した新潟県十日町市。
居場所が見つかるまで、どう過ごす?
辞めた理由はいろいろですが、一番の芯の部分を取り出すならば、そうすることが何よりも自然なことだと感じたからです。「これしかない!」という気持ちで飛び出したため、不思議とこの時はなんの不安もありませんでした。
ただクラシコムの選考も最終面接がおわり結果待ちに。そうなった途端に時間を持て余すようになり、なんとも居心地の悪い気分になってきました。
そんな時期に唯一旅行した先が、母の故郷であり小学生の頃から毎年のように訪れている新潟の十日町。
幼い頃は親や親戚の車にただ乗っていただけだったため気付かなかったのですが、これが車がないととんでもなく不便だったんです。
何もない場所だからこそ見つけられたもの。
結局、徒歩しか交通手段がないため観光らしい観光もせず、3日間ほど駅周辺をぶらぶら歩いて過ごしました。
さて、この観光施設もほとんどない場所で、穏やかな自然とは裏腹に心中はちょっとした乱れを見せていたのです。冒頭にも書いたように暇がとにかく苦手なため、何かをしたくなってしまう。
ここでのんびりしていて大丈夫なのだろうか。みんな転職は苦労するというし、もしかしたら自分の居場所なんてこのまま見つからないかもしれない。
スマホを手にしては何かやれることがあるのではと考え、でもすぐに画面から目を離すことを繰り返しました。「焦らなくては」という気持ちと「いや、大丈夫だよ」という気持ちの狭間で、いつしか身動きが取れなくなっていたように思います。
けれどそんなわたしの居心地の悪さを、とあるものが救ってくれたのです。それは旅行中に合間合間で読んでいた「無意識」について書かれた本たちでした。
▲この頃の読書記録を見てみると、心理学者の河合隼雄さんの本をよく読んでいました。
たとえばわたしは毎晩の「夢」を「今日はこれを見よう!」なんて選ぶことなどできません。そして自分が思いも寄らない行動をとっていたことに、後々友人から指摘されて気付くこともある。
つまり自分自身の行動すらも、完全には理解をしていないわけです。
▲丁度ウツギの花がきれいな季節でした。
ジタバタするより、静かに待とう。
だとしたら自分の中にもそして周囲の物事にも、それぞれわたしの理解を超えた固有の意味と動きがあるということをまずは認めようと思いました。
わからないことが多すぎて、恐らくわたしはあらゆるものが怖かったのだろうと思います。そしてそれをどうにか自分のわかるようにしてしまいたかった。わたしにできることは世界に対し作用することだけなのに、操作できると勘違いしていたのかもしれません。
でも一見なんの意味もない時間にも、わたしがわかっていないだけで本当は意味があるのかもしれない。
だったら信じて、静かに待とう。
そう決意したら一気に肩の力が抜けて、ジタバタするのがバカらしくなりました。そして目の前に青々と広がる十日町の自然が、急に色濃く鮮やかに感じられた気がしたのです。
自然は人間を楽しませてくれるけれど、楽しませるために存在しているわけではないんですよね。ただ静かに、生きる上で必要なことだけをしている。
その姿を見ていたら「なんだ、ありのままで良いんだ」と、そう思えたのです。
静かに待って、そして結局どうにかなった今、この経験はわたしにひとつの芯のようなものを作ってくれました。
もし迷ったならば、そして不安にまた飲み込まれそうになったならば、この時の感覚を思い出そう。
つい忙しない日々の中で大切なことを忘れそうになるけれど、それだけは胸に誓い、これからも暮らしていこうと思っています。
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