【40歳の、前とあと】ダンスコ荒井博子さん 後編:30代までは吸収のとき。それを「行動」に変える40代
「ダンスコ・ジャパン」のディレクターを務める荒井博子さんにお話を伺っています。
前編では、夫婦でアメリカで10年間暮らした後、帰国して「ダンスコ・ジャパン」を立ち上げるまでのお話を伺いました。
40歳で病気を発症。それでも前に進むことを決めた
実は、ようやく仕事が動き始めた40歳のころ、荒井さんは病気を発症します。
荒井さん:
「ちょうど、『大人になったら着たい服』の取材が決まったころでした。近所の病院に行って、病気が見つかり、大きな病院を紹介してもらいました。まだみんなに言うわけにもいかないし……。でも、体は元気だったので、いいチャンスだと思って、そのまま取材をお受けしたんです」
さらに、担当医がとてもいい先生だったそう。
荒井さん:
「大きな病気をすると、みんな会社を辞めなくちゃいけないとか、仕事ができなくなるって思うじゃないですか?
でも、幸い私は自分の会社で働いているから、ある程度時間を自由に使うことができます。『それは、すごくラッキーなことなんですよ』と先生に教えていただきました。
『そういう立場にいるんだから、病気になっても仕事を続けて、頑張れるって言うモデルにならなくちゃ』と言ってくださって。確かにそうだよなと、踏ん張る力をもらいましたね」
手術をするために入院した時にも、病室で仕事の電話をしたり、メールをチェックしたり。
▲闘病中、国内旅行にも。これは益子の陶芸教室
ちょうど「ダンスコ」もみんなに知ってもらい、広がり始めたばかりの時期だったので、仕事モード全開だったのだとか。その精神力の強さには、驚かされます。
荒井さん:
「今から思えば、きっと気が張っていたんでしょうね。治療しながらだったので、薬の副作用もあったけれど、そんなこと言っていられないほど、毎日メールが来るし……」
そして退院後は、治療を続けながらも、スタイリストの岡尾美代子さんとシアトルに旅行へ行き、雑誌の取材も勤めたそう。
大変な状況の中でも、悪いことばかりを考えず、顔を上げて楽しいことを見つける……。それが病気を受け入れて生きるという、荒井さんの選んだ道でした。
▲手術後、退院してからアメリカへ旅行へ。
愚痴や弱音は、なるべく避けてきました
それでも、副作用で自分の体に異変が起こると、出かけられなくなるほどショックを受けた日も。
荒井さん:
「自分でも頑張ったと思います。弱音を吐いたら終わりだと思っていましたから、夫にも愚痴や弱音は吐きませんでしたね。気を遣わせるのも申し訳なかったし。
あの担当医の先生が、そう言う弱音を一切受け付けない人だったんです。解決策が必要な時には、相談にのってくださるけれど、前向きな話でないと聞いてくれない。そんな凛とした姉御肌の姿勢は、いいお手本になりました」
今も治療中で定期的に病院に通い、薬を飲む日々ですが、ここ1年ぐらいで随分落ち着いてきたそうです。その間「ダンスコ」の卸先は、日本各地に広がり、イベントに出店も。
「病気はしたけれど、周りの方に本当によくしてもらって、ラッキーなことばかり。ずっと楽しく仕事をさせていただいているんです」と荒井さん。
▲定番の「プロフェッショナル」のアンティークブラウンとホワイト
生きていれば、嬉しいことも起これば、悲しいことも起こります。
困難に向き合った時、押し寄せて来る波の狭間で、大波に飲み込まれ、本当の自分を見失ってしまわないように……。荒井さんは、まるでヒマワリのように、明るい方へ、明るい方へと顔を向け、歩き続けてこられたよう。
そんなお話を聞いていると、自分の心の持ち方一つで、人生はガラリと変わるのだと信じたくなります。
そんな荒井さんに40歳を迎え、惑ったり、悩んだりしている人へ、何を言ってあげたいですか?と聞いてみました。
30代までは吸収のとき。それを「行動」に変えるのは40代の特権です
▲表参道のダンスコのショップでは、スタンダートな靴からそのシーズンの新しいモデルまでが揃っている。荒井さんが履いているのは「フランキー」のショートブーツ。
荒井さん:
「20代、30代で、みんなきっと色々な経験を通して数多くのことを吸収してきたと思うんです。それを表に出せるのが40歳。だから、『今こそ!』と思うんです。『今がチャンス! 今頑張らずにいつ頑張る!』って」
心と体を尽くして40歳という節目の年にやってきた、大波を乗り越えた荒井さん。ニコニコと笑顔ではあったけれど、押しつぶされそうになる不安と戦い、「それでも」と前を向いた日々があったはず。
だからこそ言える『今がチャンス』という一言に、自分の人生の舵を握るのは自分自身なのだと教えてもらった気がしました。
幸せも、不幸せも、誰かのせいでなく、自分が選んで手にするもの。40歳は、そうやって自分の人生に責任を持つ覚悟を持つ年齢なのかもしれません。
【写真】木村文平
もくじ
荒井博子
「ダンスコ」のブランドディレクター。ファッションセンスにも支持が高い荒井さんが、アメリカ・ペンシルバニア州で生まれた「ダンスコ」を日本で初めて紹介したのが2008年。その履き心地の良さと、独特なデザイン性が、おしゃれ好きの間で話題となり、人気を呼んでいる。全国に取り扱いがある他、表参道、鎌倉、名古屋に店舗を構える。http://www.dansko.jp/index.html
ライター 一田憲子
編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ウェブサイト「外の音、内の香」http://ichidanoriko.com/
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