【ケの日のこと】ポンコツなところも愛おしい。はじめてのクルマ生活

「家族と一年誌『家族』」編集長 中村暁野


第9話:愛しきジムニー


 

およそ1年前、東京から里山に移り住んで、大きく変わったこと。それは車を持ったことです。

東京ではとくに必要性を感じなかった車ですが、こちらでは電車もバスも1時間に2本ほど。タクシーも2台しかない。なのでちょっと買い物にいったり、娘を学校に送って行ったり、車は日々のあらゆる場面でとっても頼れる存在なのです。

そんなわけで、引っ越してきてすぐ我が家はじめての車を買うことになりました。ちなみにわたしは免許をまだ持っていないので、車選びの主導権は夫。今まで全く車に興味がなかった夫が、知識も情報もないまま見た目と値段を重要視して選んだのは、年式の古いジムニーでした。夫以上に知識も情報もゼロのわたしは、かわいい見た目に「いいじゃん、いいじゃん」と試乗も比較もせずに購入を決め、かくして我が家に車がやってきたのです。

車のある生活を始めてみて気づいたこと。まず、絶えず揺れているのでゴーカートに乗っているみたい。だけどスピードは全然出ない。燃費は悪い。2ドアの上、車高が高くて子供を乗せるのが大変。4人で乗ったらぎゅうぎゅうなのに、トランクもないからベビーカーすら乗せられない……。

周囲の人にジムニーを買ったと言った時、「子供が2人いるのにチャレンジャーだね……」と言われた理由をやっと理解したわたしたちでした。真夏に冷房をかけると負荷がかかると聞けば手動のハンドルで窓を全開にして走り、真冬に暖房をかけると負荷がかかると聞けば手袋をして車に乗り込む。絶えず気を使いながら、ジムニーに乗り始めてもうすぐ1年が経ちます。

時々よその車に乗るとその快適さにびっくりしてしまうのですが、そんな思わず不便さを感じるような時、夫は決まって「馬に乗っていた時代と比べてごらんよ」といいます。確かに馬に比べたら荷物も乗るし、揺れも少ないし、屋根だってある。目もくらむような便利さにちがいありません。そして多少の不便さはあれども「うちのジムが1番!」と娘がいうように、日に日に家族全員のジムニーへの愛情は深まるばかりなのです。

エンジンがかかりにくければ「ジム!がんばれ!!」とみんなで声を掛け合い、揺れが普段より少なければ「ジム!すごい!!」と褒めあう。スムーズにいかないひとつひとつが、なんてことないケの日のひとときにも家族の一体感をうんでくれたような気がします。

ものだって人とおなじで、完璧じゃないからこその愛しさってあるんだなぁ。そんなことをしみじみ感じてしまう、なんというかジムはすっかり、欠かすことのできない家族の一員なのです。

 

【写真】馬場わかな(1枚目)、中村暁野(2枚目)

中村暁野(なかむら あきの)

家族と一年誌『家族』編集長。Popoyansのnon名義で音楽活動も行う。7歳の長女、1歳の長男を育てる二児の母。現在は『家族』2号の取材を進めている。2017年3月に一家で神奈川県と山梨県の山間の町へ移住した。http://kazoku-magazine.com

 


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