【バイヤーのコラム】おいしいくてちょっと切ない、春の香り

商品プランナー 佐藤

▲春本番、オフィスからは満開の桜が見下ろせました。

「今年も、春が来たなぁ」

まだまだ寒さを感じる2月末頃。私は毎年、この頃になると春の訪れを「嗅覚」から感じとります。

なんというか、うまく言葉で言い表せないのですが、昨日までとは違う「春の香り」がふわっと風に混ざり始める気がするのです。

風の匂いなのか、土の匂いなのか、芽吹きの匂いなのか…正体はわからないのですが、その香りを感じると、切ない気持ちとワクワクが混ざった複雑な感情で胸がいっぱいになります。

春は好きだけど、この「春の香り」がする瞬間は、なんだか胸が締め付けられて少し苦手です。

昔はもっと純粋に、春の訪れを喜べていたのになぁ…。

 

今でも思い出す、おいしい春の知らせ

小・中学生のころ、神戸に住んでいた私。当時の私にも、春の訪れを知らせる「春の香り」がありました。

学校から帰ると家中に広がる、甘辛くていい香り。

「今日はいかなご炊いたよ〜」

と、家で一番大きな鍋を火にかける母を見て、思わず「やった〜」と歓喜したことを思い出します。

この地域では、いかなご漁が解禁される2月末から3月末までの1ヶ月、スーパーの鮮魚コーナーにいかなごが並び、各家庭で「いかなごのくぎ煮」と呼ばれる佃煮を作ります。

醤油やみりん、砂糖にたっぷりの生姜が効いた、ごはんが進む味。この味が大好きだった私は、自宅や近所の家からくぎ煮を作るにおいがすると「今年もこの季節がきたな〜♪」とうきうきしたものでした。

(私の住んでいた地域では、たくさん炊いたいかなごのくぎ煮を交換する風習があり、家庭ごとに少しずつ味の違ういかなごのくぎ煮を食べ比べるのも楽しみの一つでした)

中学1年生の終わりに、父の仕事の都合で神戸を離れることになった時。

親友が、その子の家で作ったいかなごのくぎ煮をタッパーいっぱいに詰めて渡してくれました。

新しい環境に移り、新学期から毎日不安でいっぱいだったけど、そのくぎ煮を食べるたびに、神戸の風景や友人のことを思い出して、明日も頑張ろう!と元気が出たものでした。

その分、日ごとに軽くなっていくタッパーを持つたびに、切ない気持ちになったことを思い出します。

それからしばらく、いかなごのくぎ煮を口にしていない私。あの大好きな味と、あの頃味わったちょっと切なくもしあわせな気持ちが恋しくなりました。

久しぶりに、神戸に遊びに行きたいな。


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