【上手に伝えたくて】第3話:「キャラ変」より「キャラ増」の方がいい。重層性が気持ちをラクにする。

ライター 嶌陽子

「伝える」ことやコミュニケーションについて、劇作家・演出家の平田オリザさんにお話を伺う特集も今回で最終回。

これまでのお話を通じて、「伝える」とは「伝えたい側」だけに正解があるのではなく、相手の存在があって初めてゴールが見えてくるものだということがわかってきました。

では、「伝える」力をつけるために、私たちが日頃からできることはないのでしょうか。今回は、そのことについて平田さんに伺います。

 

「わかりあう」世界から踏み出すことも、必要だ。

多様化が進む社会の中でのコミュニケーション力をつけるには、子ども時代からの教育が大事だと話す平田さん。では、大人になってからできることは、ないのでしょうか。

平田さん:
「唯一の道は重層性を持つことですね。

何かを伝えようとする際の魔法の杖はない、相手との接点を探りながら色々提示してみるしかないと言いましたが、自分の中にたくさん引き出しを持っていたほうが、接点もより多く見つけられるはず。

具体的には、なるべく色々な体験をすること、新しい人に会うこと、時々は普段属している組織や共同体とは全く違う場に身を置いてみるといったことです」

平田さん:
「固定した組織の中にずっといると、『わかりあう』世界でしかコミュニケーションをとらないことになる。それだと伝える力は身につきません。

もしも自分のいる組織や共同体に新しい人がたくさん入ってきたら、それをチャンスとしてとらえた方がいいです。それは、組織内のコミュニケーションに重層性が生まれるということだから。

たとえば年下の上司とか、新人だけど自分よりスキルがあるとか、色々な逆転も起きるかもしれない。それも様々な形のコミュニケーションを体験するよい機会になるはずです。

もちろん、子育てや介護を経験することだって、自分の中に重層性を生むことになると思います」

 

「キャラ変」ではなく「キャラ増」が気持ちをラクにする。

重層性を持つことは、自分自身の気持ちを楽にする場合もあると平田さんはいいます。

平田さん:
「たとえば周囲に『○○ちゃんのママ』としか呼ばれないというのは辛いですよね。それ以外のアイデンティティも必要です。人間は社会において様々な役割を演じ分けているんですが、ひとつの役割だけが重たすぎると辛くなってしまう。

だから、ママ友グループ以外の世界を持つとか、いま属しているのとは別に、もうひとつママ友グループに入るとか、重層性を持ったほうがいい。『ここしかない』となると、それは辛いと思うから」

平田さん:
「先日、『キャラ変』という言葉を若い子に教えてもらって初めて知ったんです。でも、『キャラ変』 はひとつのキャラしかないということ。それだと辛いから、『キャラ増』のほうがいい。一人の中に色んなキャラが共存したほうがいいんです。

ママ友同士でも、たとえばフットサルをするとか、子育てと全く関係ないことをする。その中で『自分にはこういう側面もあるよ』って別のキャラを見せられるといいですよね」

 

「伝える」とは、自分の世界が豊かになる行為。

「伝える」ことについて、全3回にわたって平田オリザさんにお話を伺った今回の特集。

「伝える」とは、自分の思いを相手にわからせるといった一方的なことではなく、自分とは異なる価値観を持つ相手との接点を探り当て、それを広げていくこと。そんな豊かな行為であることがわかりました。

時間がかかるかもしれないし、決して簡単なことではなさそうですが、それだけに「伝わった」と感じた時の喜びはきっと大きいはずです。

さらに、「伝える力を少しでも鍛えるためには重層性を持つことが大事」という平田さんの言葉が、深く胸に残りました。

世界は自分が思っている以上に多様で、様々な価値観やライフスタイルを持つ人々がいる。人によってコミュニケーションの形やプロセスも変わってくる。そんなことを肌で感じるために、なるべく多くの人と出会い、さまざまな体験をしたいと思うのです。

大人になればなるほど、新しい出会いや、今までとは違う形のコミュニケーションに臆病になっているのも事実。それでも、時には勇気を出して、慣れ親しんだ世界から踏み出してみたいです。その経験は自分の世界を広げ、「伝える」際の力になってくれるはずだから。

いくつになっても新しい体験や出会いを怖れず、異なる考えの人との対話によって自分が変わることを厭わず。オープンな心を持ちながら、たくさんの引き出しを蓄えていけたらと思います。

(おわり)

【写真】安川結子


もくじ

第1話(3月13日)
コミュニケーションは、能力じゃなくてモチベーション。

第2話(3月14日)
失恋の悲しさは人それぞれ。でもプリンを落とした悲しさなら……?

第3話(3月15日)
「キャラ変」より「キャラ増」の方がいい。重層性が気持ちをラクにする。

平田オリザ

劇作家・演出家・青年団主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。1962年、東京生まれ。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞。1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞。

▼平田オリザさんの著書はこちら。

 


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