【スタッフコラム】「幸せ」という重りを外さなきゃ。

編集スタッフ 二本柳

ある日、人生の先輩にこんなことを教えてもらったことがありました。

「執着って、幸せに丸って書くでしょ。この丸は “重り” の丸じゃないかって思うんだよね。あの黒くて丸くて、重いやつ」

その人いわく、もし何かにこだわって行き詰まることがあったなら、幸せという重りを自ら外してあげなくちゃいけないと。そうじゃなきゃ身動き取れないでしょ、と言うのです。

調べてみると語源は他にあるようでしたが、私はこの解釈がいいなと思いました。

そんな話を、首をぶんぶん振りながら聞いたのが年末のころ。

それ以来、執着という言葉を聞くと、「幸せ」という重りが足に繋げられて海に沈んでいく……そんな絵をイメージするようになりました。

それから数週間後、冬の旅行でメキシコシティからサンフランシスコまでの約5時間、とある航空会社を利用したときのこと。私の前の座席に10代半ばくらいの少年が座っていました。

彼は席についてからずっと落ち着かず、イライラした様子。どうやらWiFiを使いたいようなのですが、何をしても繋がらないらしい。たしかに機内にはWiFi Serviceのシールが貼ってありました。

彼はCAの男性を見つけるとすぐさま手をあげて「使い方がわからない」と訴えます。

CAは同情の気持ちを眉毛で表しながら、「ああ、残念。機内でWiFiを使うためにはアプリをダウンロードしなきゃいけないんだよ」。

そう、ネットの使えない機内に入ってしまった時点で、これはもう手遅れなのです。

少年、これを聞いて思わず「は?」の表情。

ますます落ち着かない彼に、CAの男性はこう続けました。

「でも君さ、顔色があまり良くないし、疲れてるんじゃないか? ちょっと眠った方がいいよ。ね?」

そうしてニコッと笑い、少年の肩をポンとたたいて仕事に戻って行きました。

果たしてその後、少年が素直に寝たのかどうか…… それはさておき、もうWiFiは使えないのだし、そのままイライラするよりも旅先の体力をしばし蓄える方が彼にとってよほど得でしょう。

少年の足から重りがするすると外れるのが見えるようでした。

他人だと、こんなに簡単に重りを外してあげられるのに、それを自分で外すのはいかに難しいことか。少年のWiFiに対する執着は、私も人ごとじゃありませんでした。

手放したくないと思っていること。これがないと絶対ダメだと思い込んでること。幸せという名の重りは、小さいものから中くらいのものまで、私の足にたくさん繋がってる気がします。

それが原因で夫婦喧嘩をすることもあるし、必要以上に仕事で落ち込むこともある。

だからそういうときは、あのときのCAのような斜め上をいくツッコミ役を、自分のなかにつくれたらいいなぁと思うのです。


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