【フィットするしごと】大人は少女がステージを変えて生きているだけ(漫画家 今日マチ子さん・後編)

編集スタッフ 馬居 編集スタッフ 馬居

デビューから一貫して少女たちを瑞々しく描き続けてきた今日マチ子さんが、なぜ大人の女性たちを描こうと思ったのか。そのきっかけとなった、ご自身が働きすぎて倒れてしまったご経験について前編ではお話いただきました。

つづいて後編では、10年ぶりにフルカラーで再出版されたデビュー作『センネン画報』への想いなどを振り返りながら、真骨頂である「少女を描くこと」についてお聞きしました。

*クラシコムジャーナルで2019年に公開された記事を再編集してお届けします。

 

思春期は終わり、もう描かない

──2004年からブログで公開されていた作品をまとめて2008年に『センネン画報』を出版。その10年後、2018年に再出版された『センネン画報+10years』では、あとがきの中で「もう描かない」と書かれていましたね。

今日さん:
「もうこういう作品は描けないと言った方が近いかもしれません。

『センネン画報』のようなコマ割りとか、サイレントで描いてほしいという依頼は受けていくとは思いますが、『センネン画報』のような作品を、と依頼される時は、「完全には同じになりません」ということはお伝えするようにしています。

もう10年〜15年近く前の作品なので、さすがにちょっと変わってしまう部分もあるし。そもそも、『センネン画報』をやめたのは、描き尽くした感があったからだったので」

──何を描き尽くされたのでしょうか。

今日さん:
「思春期の揺らぎというか、言葉にならないような瞬間のフォーカス単体というようなことですかね。フォーマットの中での思いつく限りのパターンを全部描き尽くしてしまった。描いて描いて、もういいやって思えたんです。

ここから先は、自分で新たにストーリーをつくることができるなって。1ページマンガじゃなくていいんじゃないか、と。もう、自分のやりたいことはここにはないという感覚ですね」

──そして最後に一冊の本にまとめられたんですね。

今日さん:
「10年前に出版された『センネン画報』は、予算の関係でほとんどモノクロだったんですよ。当時は、本当にただの新人だったので。ウェブで公開していたときはカラーだったのになぜ、っていう(笑)。それで、10年を節目に、カラーで出し直して、やっと本来あるべき姿になりました」

 

一歩動けば、次の道が見える

──『センネン画報』は、今日さんにとってどういう存在だったのですか。

今日さん:
「始めた当初は、マンガの仕事もなくて、そもそも漫画家でもなかったので、続けることで何か見えてくるだろう、とにかく不安だったけどこれだけやっていれば何かに繋がるだろうっていう希望だけで描いていました」

──それは何を信じて描き続けられたんですか

今日さん:
「なんでしょうね。でも最初は、1週間も続けばいいだろうくらいの感じだったんです。でも、描いていると次はこうしたいとか、これをやってみたいとか、チャレンジが見えてくる。そうすると面白くなって、描き続けてしまったっていう感じなんですよね」

──とにかく動けば、次が見えてくる。

今日さん:
「そうですね。たとえ上手く描けなくても、それを受けてまた別のことをすればいい。とにかく、ひたすら掘り続けました。そのおかげで、『センネン画報』というスタイルで、色々なことを見つけましたよ」

──失敗と成功を繰り返して…発明家のようですね。

今日さん:
「そうですね、改良に改良を重ねて」

──もともと漫画家になりたいわけじゃなかったとお聞きしました。

今日さん:
「ずっとライターとイラストレーターの仕事が大好きで、学生時代からミニコミ、今でいうZINEのようなものを作ったりしていて。つまり、話を作りながら絵を描けるっていうのがずっと求めてたところで。でも、結局それってマンガじゃない?まとめればよかったんだ!と気づいて今に至ります」

──たどり着いたのが漫画家だったんですね。

今日さん:
「そうですね。もちろん子供の頃からマンガはふつうに好きだったんですけど、友達のお父さんが漫画家で大変さはよくわかってたので、職業の選択には入れてなかったんです。お絵描きが大好きなだけでなれるもんじゃないって」

──今はご自分は漫画家だという意識ですか?

今日
「そうですね、完全に」

 

描きたかったのは、戦争に消された少女たち


戦争三部作の『アノネ、』

 

──漫画家である、という意識の変化が関わっているのか、どんどんストーリー性の強い作品が増えていったように思います。いつもイラストの愛らしさや世界観にうっとりしていたのに、『COCOON』『アノネ、』『ぱらいそ』という戦争三部作は驚きました。こんなにがっつり物語を作られるんだ!と。

今日さん:
「そうですよねぇ。わたしもびっくりしたんですよ。ちゃんと物語が作れるんだって。しかも、物語作りがどんどん面白くなっていったんです。ですから、『COCOON』以降はストーリー性の強い作品がメインになってきましたね」

──「少女」を描き続けてきた今日さんが「戦争」というテーマに取り組まれるのは大変だったのではないかと思います。

今日さん:
「ただ、そもそもに『“少女の目線”で戦争を描くことができないか』という依頼だったので引き受けることにしたんです。戦争を描くことでむしろ日常の大切さが描けるんじゃないかと。

戦争ものって、たとえ少女を主人公にしていても『戦争もの』になって、一人の少女の物語ではなくなってしまうじゃないですか。だったら私は逆に、少女が生きていてそこに戦争があったんだよ、という話の描き方をしたいなと思ったのです。

『アンネの日記』元に作られた物語。

全ての作品は史実をもとにしています。歴史の中に『戦争で死んでしまった少女』という風に閉じ込められてしまった女の子たちを、救い出したくなったんです。

三作品とも共通して、ひとりの女の子なんだよってことを掘り起こしていくんだ、という意志が一番根底にはありましたね」

可愛らしいイラストで凄惨なシーンも描かれる。

 

大人になったら、少女はいなくなる?

──戦争作品でも、女の子同士が助け合う姿が印象的でした。女子校出身でいらっしゃったってことも理由かと思うのですが、どの作品も女の子たちの関係がすごくリアルです。男の人って、女性同士の関係ってドロドロしてるの?なんて思ってたりするんですけど、実際はそんなことなくて。

今日さん:
「そうですよね。世の中、なんでこんなに『女だけの場所』に偏見があるのかって思います。女性だけになっても、結局そこに社会が出現するから、働く人は働くし、のんびりさんはのんびりだし、ちゃんとまわるようになっているんですけどね。

でも、女子だけの世界というと、百合とか、ドロドロとか、すごく極端な妄想をされます。でも男女がいる場所と変わらないと思います。仲良くしてることもあるし、喧嘩することもあるし、恋が生まれることもある」

──そういう関係は大人になっても変わらないのでしょうか。

今日さん:
「長いこと会っていない友人でも、久しぶりに会うと一気にその時と同じように戻ってしまいますしね。

結局大人の中にも、少女の部分って生き続けていて。最近は、むしろ少女がただステージをかえて大人の世界にいるのではと思っているんです。

大人な部分を持っている少女もいる。その反面、ほとんどの女性は、30才、40才になっても少女の部分は必ずあって、それはその人の核となるようなものなのではと。単に、その時期に合わせて、30才なりの振る舞いをしていたり、40才らしい格好をしているんじゃないかって。

というのも、祖母が90代半ばで亡くなったんですが、お葬式で思い出の写真を集めたビデオが流れていて、女学校時代の写真が出てきたんです。面白いポーズをとった少女時代の祖母の写真が映って、「おちゃめな性格でした」とコメントがついていました。思い起こせば確かに祖母はそういう一面もあって。おばあさんになっても、少女の時と同じ部分が生き続けてたんだな、と衝撃を受けたんです

それ以来、大人の女性であっても少女の部分は絶対あると思うようになりました。

高校生のときからの友達を見ても、みんな社会人として振舞ってはいるけれど、ふとした瞬間に全然変わっていない姿が見えたり。高校生の時から、細かいことが好きな子はアクセサリー作家になったり、マンガやアニメに詳しかった人は映像制作をしていたり、作る内容が高校生の頃に彼女が好んでいたものと同じだったり。

結局、全く違う人間になんてならない。

そういう風に思ってからは、ふとした時に、この人はどういう高校生だったかなって逆再生しちゃうんです。よく行く病院の女性医師が、たぶん30代だと思うんですが、ちょっとおっちょこちょいで。きっと、おっちょこちょいな女子高生だったんだろうな、って」

──なんか、好きになっちゃいますね。

今日さん:
「好きになっちゃいますよね。よく間違えるので、お医者さんとしては不安ですけど、でも、すごく好きなんです」

──誰でも脳内で高校生に巻き戻したら、可愛く見えてしまう気がする…。

今日
「そうそう。すごく面白いんです。この人は真面目な子だったんだろうなぁとかね」

 

これからも少女たちを描き続けるために

──今後もきっと少女たちを描き続けていかれると思うのですが、具体的にこういう風にお仕事をされたいというものはありますか。

今日さん:
「ただただ良い作品が描きたいです。でもやっぱり心身のバランスが大事かなとは思っています。

ずっと誰よりも働かなくちゃいけないという思い込んでいましたが、倒れたことや、10年以上漫画家を続けてきたことで、『私が良い作品を描く』ことと『他の人が良い作品を出す』の二つは全く関係ないことなんだなって気づくことができました。私の中でできることのベストをやればいい。

同じ頃にデビューした人がヒットを出したりすると焦ってしまったり、あんなものは作れない!とすごく落ち込んでしまったり。逆に、マンガを辞めてしまう人もいて、『もっと私は頑張らないと!』と思ったり。でも、そうじゃないんだって。大切なことは、自分の人生の中で、どれだけ良いマンガをみなさんにお届けできるかってことで、他人は関係ないんですよね。

じゃあ、どうするかというと、結局は毎日の積み重ね。一つ一つの仕事に手を抜かないとか、引き受けすぎないとか。常に100%ちゃんと出し切りたい。いや、100だと現状止まりになっちゃうので、101%から120%くらいを常に出せる環境をちゃんと自分で調節してくのが大事なのかなって思うんです」

(おわり)

【写真】岩田貴樹


もくじ

前編
人生の一回休みが教えてくれたこと

後編
大人は少女がステージを変えて生きているだけ

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今日マチ子

漫画家
きょう・まちこ/東京都出身。東京藝術大学美術学部卒。セツ・モードセミナー卒。2004年よりブログに『センネン画報』を発表。文化庁メディア芸術祭において審査委員特別推薦作品に入選。05年「ほぼ日マンガ大賞」、14年に手塚治虫文化賞新生賞、15年『いちご戦争』で日本漫画家協会賞・カーツーン部門大賞。グランドジャンプめちゃにて「かみまち」を連載中。

▼連載:フィットするしごと


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