【甘美な夜ふかし】第3夜:不意にくる寂しさに、そっと寄り添う夜のパフェ

編集スタッフ 小林

次の日のことを考えるとなかなかできない。けれどいつだって、夜ふかしが大好きです。

しんとした夜に広がる開放感に、心地よい孤独。オトナの夜ふかしの魅力は、ワクワクと切なさの混じった奥深いもの。

そこでこの特集では、全3夜にわたって夜ふかしの奥深い魅力をお届け。私たちの理想を詰め込んだ、あるひとりの女性の「夜ふかしの楽しみ方」を考えました。

さて本日は最終話。彼女は一体、どんな夜を過ごすのでしょうか。読みながら、ちょっとした夜ふかし気分を味わっていただけたら、嬉しいです。

 


第3夜
不意にくる寂しさと「夢のパフェ」


みんなが浮かれる週末の夜。しんとした部屋の中にひとりでいると、たまらなく孤独な気持ちになるときがある。

携帯の中を眺めても、テレビを見ても。友達がいても、家族がいても。ひとりぽつん、と取り残されてしまったような気分。

今日はもう、この寂しさと一緒に一晩を過ごさなきゃいけなくなりそうだ。観念して、むしろ徹底的に、センチメンタルな気分に浸ろうかな。

そういえば小さな頃、こうして感情がぶわぶわになったときは必ずといっていいほど、お母さんと一緒に「夢のパフェ」をつくった。

フルーツと、アイスと、ジャムと、コーンフレークと……。スーパーで買える食材をテーブルいっぱいに広げて、自分の好きなように。

よし、今夜は久しぶりに、大人のわたし版「夢のパフェ」をつくってみてもいいかもね。

 


23:00
夢のパフェに入れるのは、たっぷりの思い出


まずはいちごをスライス。いちごって、昔から大好き。ちょっと高くても、見かけたらつい買っちゃう。なんだか春がきたような気分になるから。

次はコーンフレークを用意。ちいさな頃は朝ごはんのコーンフレークが楽しみで。ふやけたフレークと最後に残る甘い味の牛乳が好きだった。(今はパリパリのうちに食べちゃう派だけど)

お母さんが送ってくれた自家製ジャムも使おう。「わたし一人じゃ食べきれないよ」って言っても作るたび送ってくれるから、気づけば我が家はジャムだらけ。ありがたや〜。

朝ごはん用のヨーグルトもあけよう。きっと毎日のようにヨーグルトを食べるのは、実家での習慣だったからだな。

最後にバニラアイスも、忘れず仲間に入れて。

それではいざ、パフェづくりをはじめます。

 


23:10
夢のパフェは欲望のままにつくるのが正解である


夢のパフェは罪悪感に負けちゃダメ。深夜だろうと、体重増加が気になるお年頃でも、欲望のままにつくるのが正解なのだ。

もう大人なので、まずは我が家で一番上等なワイングラスを使っちゃう。

一番下にいちごジャムを。ここをケチってはいけない。こんなに?って思うくらい、たっぷり入れる。

次は、コーンフレーク。ここも、ケチらない。

ヨーグルトはなるべくカタマリのまま入れるのが、わたしのこだわりポイント。これもたっぷりと。

スライスしたいちごは好きなだけ、そっと、優しく重ねて。

次が一番の難関。アイスの登場です。

きれいな丸にならなくていいけど、カタマリを重ねて、山のようなかたちにしたいんだな〜。

仕上げはてっぺんに、いちごを丸ごとひとつ……。

完成〜!

我ながら、かわいくできたなぁ。

 


23:30
ひとくちで、全部の味をほおばりたいんです


見た目のかわいさに負けずに、食べるときはザクっと思い切りよく、スプーンを底まで入れて。全部の味がスプーンの上に乗るように、頑張ってみる。

ざくざくのフレークにとびきり甘いジャム、さっぱりなヨーグルトとジューシーないちご、冷んやり口で溶けていくバニラアイス。

……にやにやしちゃう。ひとくちの中に、こんなに「楽しい」が詰まってるなんて。このワクワクがいつも、わたしの中にある不安を消しちゃうんだな。

 


23:40
手紙ボックスはタイムカプセルのようだ


ふと顔をあげると、リビングに置いてある手紙ボックスと目があった。

お気に入りの缶には、今までもらった手紙をしまっている。手に取ったら、そりゃつい見ちゃうよね。

この人は今でも全然変わってないな。あの人は最近連絡とってないな、元気かな。

あ、この手紙。もらったとき、すごく嬉しかった。

なんだかちょっとした、タイムカプセルみたい。見はじめたら止まらない。

どの記憶も、今この瞬間のものではない、古いもの。でも「多分いつも、誰かが私のことを気にかけてくれていた」ということの証拠でもあって。

こうやって年とともに積み重なった思い出や記憶が、孤独なときにひっそりと心を温めてくれるんだろう。(と、なんかの本で読んだ気がする)

わたしも、誰かの記憶の一部になっているのかな。

仲良しのあの子も、お母さんもお父さんも、こうやって孤独を感じる夜があるはずで。

そんなときにわたしは誰かの思い出の中で、温めてあげられているのだろうか?

パフェのグラスを洗ったら、久しぶりに手紙を書いてみよう。

深夜に手紙を書くのはやめたほうがいい、なんていうけど。

突然、何かをやろうと思いついちゃうのが「夜ふかしのよさ」だったりするもんね。

第3夜 おわり

【写真】安川結子

 


もくじ

 


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