【スタッフコラム】3番目に並んだら
編集スタッフ 松田
ある火曜日のお昼休みのこと、翌日の朝食用のパンを切らしていることに気づき、近所のパン屋に小走りで向かっていました。
この頃「忙しい」がすっかり口ぐせになっていて、頭の中は、仕事や家の、できていないこと、次にやるべきことで常に頭がいっぱい。
しかもその日は、朝から寝坊したり、家電の使いすぎでブレーカーが落ちたりと、小さな失敗が続いていました。
まるで大根おろし器のようにトゲトゲした気持ちで(じつはその前日、大根をおろしている時に手を滑らせて指に擦り傷もつくっていました)、そのパン屋に向かっていたのです。
住宅街の中にあるパン屋は、お客さん一組で、店内がいっぱいになるくらいの小さなお店。次のお客さんは外で待っていなくてはいけません。
小走りで向かうと、おそらく近所のおばあちゃんと、私より少し年上の女性、そして私の3人がほぼ同時にお店の前に。
タッチの差で、最初に着いたのはおばあちゃん、その次がもうひとりの女性だったので、一番最後に並びました。
内心、「あぁ、あと30秒早く着いていれば、待たずに済んだのに。今日はやっぱりツイていない」なんて思ってしまった自分がいました。
それから5分もたたない頃でしょうか。最初にお店に入ったおばあちゃんが、目的のパンを買い、ドアを開けて出てきました。
すると丁寧なお辞儀とともに、とってもやわらかい声でひと言。
「どうも、お先でした」
マスク姿で表情こそわからなかったけれど、「(ありがとう)」と同じトーンで、ごく自然に、外で待つ女性と私に声をかけたのです。
これまでにも何度かこのパン屋にきたことはありましたが、次のお客さんが外で並んでいても、正直私はそそくさと無言で出てきてしまったり、なんとなくお辞儀をするくらい。なんだか、ものすごくハッとしました。
次に待っていた、もう一人の女性も、その声かけに少しびっくりした様子ながら「あ、いえいえ」と答えて、お店の中へはいっていきました。
そして、その女性がパンを買い終え、ドアを開けて出てきた時、最初のおばあちゃんと同じ優しいトーンで、「お先でした」と私に声をかけてくれたのです。
「あ、なんか、いいな」と思いながら自分のパンを買って、お店のドアを開けると、今度は一人のおじさんが待っていました。
少しためらいつつも、真似をして言ってみました。できるだけやわらかいトーンで、先にパンを買わせてくれてありがとうという気持ちを込めて、「お先でした」。
おじさんは、一瞬びっくりした様子で、でもすぐ目尻を下げて「いいえ、おいしいよね、ここのパン」とひと言。「はい、おいしいですよね!」
そんな、なんでもないやりとりをできたことが、妙にうれしく、気分よく帰路につきました。
もしあの時、私が一番先にお店に着いていたら。また、おばあちゃんの次に並んでいたとしても、ふたりのような温かい「お先でした」は言えただろうか。
パン屋で3番目に並べて、実はツイていた日だったのかも。そんなふうに思えた火曜日の出来事でした。
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