【エッセイラジオ】第24夜:齋藤 美和さんのエッセイ「記憶の置き場」(読み手 スタッフ小林)
編集スタッフ 鈴木
今日も1日おつかれさまでした。
皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか?
週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。
そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。
思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。
今夜のエッセイの書き手は、「しぜんの国保育園」園長の齋藤美和(さいとう みわ)さん。読み手は、当店スタッフの小林です。
ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。
記憶の置き場
齋藤 美和
自分が存在していることが
物語のように感じることがある。
全て作り物で、夢なのかもしれないと
突然そんな気持ちに襲われる。
私が今、存在していることは
今本当に起きていることなのかな?
と考える。
それは小さな頃からの癖で
大人になっても未だにやってしまう、
心が、しんみりする遊びだ。
でも、園に到着して、
子どもたちの声を聞くと、
あ、私の今生きている現場は
ここにあるのだなと思う。
保育園の中で、私たち保育者は
子どもたちと暮らす中で出会った小さな
出来事やエピソードを写真に撮り、
書き留めていく。
0歳児から5歳児の子どもたち。
家族から離れて暮らしている時間の
彼らの姿は、保育士がすくい取らないと、
泡のように消えて無くなってしまう。
いつか、子どもたちの身体の中に
今この時が溶けて無くなってしまう日が
来るかもしれない。
たくさん笑ったことも、
泣いたことも、
拗ねた背中も、
給食、おいしいねって
言い合ったことも。
だからこそ、書いたり、話をしたり
言葉にして、紡いで、
見えない小さな糸をそっと
子どもたちのポケットに忍ばせたい。
忘れていいよ。
忘れるくらい、いつかこの先
夢中になれることに出会えますように。
先日、園の保護者の方と話す機会があった。
お子さんの姿を見ながら最後に、
「娘が大きくなったら、
しぜんの国でたくさんの人に愛されたこと、
私が伝えたいと思います」
と話してくれた。
そうか、園にいる間の
子どもたちの「今」は、
私たちしかすくえないと
勝手に思ってしまっていたけれど、
お母さんやお父さん、
子どもを取り巻く家族が、
その記憶を一緒に握ってくれているのだ。
思わず涙がこぼれそうだったけど、
飲み込んだ。鼻の奥がつーんと痛くなる。
子どもたちの記憶は、
いや、私たちの記憶は、
やわらかな心の中で
あたためられていく。
カメラロールの中にも
思い出は詰まっているだろう。
でもあたたかな記憶を
置いておくのには、
私たちの心の中がいちばん
居心地がいいんじゃないだろうかと
思っている。
そして、ときどきは
みんなで顔を寄せ合い、
その記憶を引き出して、
思い出をあたためなおしたい。
なつかしいね、という言葉は
人の心をゆるませてくれる。
今起きているうれしいことも、
昔あったままならないことも、
きっといつか、
「なつかしいね」に続く道になる。
いかがでしたか?
ほんの数分ではありますが、心の緊張がほどけたり、すうっと眠りに入るきっかけとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。
次回の配信も、どうぞ楽しみにしていてくださいね。
エッセイラジオを通して、このささやかなエールが届きますように。それでは、おやすみなさい。
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