【我がままな晩酌】その時間もいいつまみになるのです
ツレヅレハナコ
オーブンって、とても便利な調理道具だと思う。
と言いつつ、私も20年ほど前までは、その存在を忘れていたくらい自宅のオーブンレンジのオーブン機能とは無縁な生活を送っていました。でも、海外でいろいろな家庭のキッチンをのぞかせていただくうち、「オーブン、ものすごく便利だなあ」と気づいたのです。
フランスでおじゃましたお宅では、オーブンを使わない日はないほど。日本ではオーブン=ごちそうのイメージが強いかもしれませんが、フランスではちょっとした前菜やおやつにもガンガン使います。冷凍食品のパッケージを見ても、断然、電子レンジよりオーブン調理推し。
その家のマダムにオーブンを使う理由を聞くと、「コンロもひと口空くし、つきっきりじゃなくてもOK。野菜にオイルと塩をかけてオーブンに入れるだけで、一品できあがるのよ。簡単でしょ」とのこと。確かに、皮付きの細いにんじんをじっくり焼いただけの前菜、甘くて味が濃くておいしかったなあ。洋梨をとろりとするまでアツアツに焼いて、アイスクリームを添えただけのデザートも絶品だった。
また、トルコで遊びに行った家庭では、なんとリビングにオーブンが置いてありました。巨大なブリキ製の可動式丸型電気オーブン。超シンプルな機能になっており、スイッチはオンかオフだけ。温度設定もありません。それでも、アンネ(お母さん)は、すばらしいお菓子を焼いてしまうのです。
お菓子を焼き始めると、リビング中に甘い香りが漂います。でも、ふと「温度設定もなしで、焦げたりしたらどうするの?」と聞くと、アンネは怪訝な顔。「焼き加減? そんなの、そろそろかなと思ったら、ふたを開けて様子を見てみたらいいじゃないの」。これぞオーブンマスター。というか、そのくらい気楽に使っていいものなんだと肩の力が抜けたのを覚えています。
かくいう私とオーブンの付き合いは、もっぱら晩酌用のおつまみづくりの相棒。ジッパー付きの保存用袋にマリネ液の材料を混ぜ、食材を加えて軽くもめば準備完了。少し置いて味をなじませる間に予熱したら、バットに食材を並べてオーブンへ入れるだけです。
お風呂にでも入っていれば、その間におつまみのできあがり。でも私が最近ハマっているのは、あえてどこにも行かず、何の作業もせず、オーブンの前でぼんやりお酒を飲むこと。たまに扉の窓から中を覗くと、オレンジ色の光の下でおいしいものがじわじわできていく……、その時間さえもいいつまみになるのです。
ちなみにマリネ液は、シンプルにオリーブオイルと塩だけでも良いけれど、あればローズマリーなどのドライハーブを入れたり、にんにくを加えるとぐっと風味がよくなります。和風なら酒、しょうゆ、みりん。中華風ならオイスターソースや豆板醤、エスニックならナンプラーとはちみつなんて組み合わせもオススメ。その日に飲みたいお酒や気分で、いろいろ試してみてください。
ひと口にオーブンと言っても、実は一台一台クセがあるのが面白いところ。同じ「200℃で15分」でも、焼け方にムラがあったり、加熱具合が弱かったり強かったり……。あなたのオーブンのクセも、使えば使うほどわかってくるはずです。長らくそばにいたのに、いまいち仲良くなれていなかったオーブンがあったら、ぜひお試しを。きっと、百人力な頼もしい相棒になってくれますよ。
晩酌レシピ
手羽先と野菜のエスニックオーブン焼き
手羽先…6本
〔マリネ液〕
ナンプラー、しょうゆ、はちみつ…各大さじ1
にんにくのすりおろし…少々
新じゃがいも(小粒)…3個
パプリカ(赤)…1/2個
オリーブオイル…大さじ1
塩、こしょう…各少々
パン…適宜
(1)手羽先は関節に包丁の根元をあて、先端を切り落とす(先端は水、長ねぎの青いところ、しょうがなどと20分ほど煮るとおいしい鶏のスープになる)。
(2)ジッパー付きの密閉袋にマリネ液の材料を入れて、手でもんで混ぜ合わせる。手羽先を入れて軽くもみ、15分以上置く。パプリカは2cm角、じゃがいもは皮付きのまま半分に切り、オリーブオイルをまぶしてから塩こしょうをふる。オーブンを200℃に予熱する。
(3)バットにオーブンシートを敷いて、鶏肉を並べ入れる。じゃがいもを鶏肉に重ならないように加えて、オーブンの上段で15分焼く。パプリカを加えてさらに5分焼き、鶏肉に好みの焼き目がついていなければ、温度を220℃に上げて様子を見ながら焼く(パンは焼きあがる3分ほど前に器の脇に置いて温める)。
食と酒と旅を愛する文筆家。東京都中野区生まれ。お酒とつまみと台所道具がある場所なら、日本各地から世界各国まで旅をし続ける。著書に『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『食いしん坊な台所』(河出文庫)。最新刊は『ツレヅレハナコの旨いもの閻魔帳』(扶桑社)。食や日常を綴るSNSも人気。
Instagram:@turehana1
大阪生まれ。東京を拠点に書籍、雑誌、WEBなどで、人、食、旅など幅広いジャンルの写真を手がけている。食いしん坊がゆえに、旅先では必ず市場に行き、働く人や、美味しいごはんの写真を撮り続けている。
Instagram:@etokiyoko HP:http://www.etokiyoko.com/
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