【エッセイラジオ最終回】第44夜:中川 正子さんのエッセイ「親子丼」(読み手 スタッフ 小林)

編集スタッフ 鈴木

今日も1日おつかれさまでした。

皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか?

週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。

そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。

思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。

今夜のエッセイの書き手は、写真家・中川正子さん。読み手は、当店スタッフの小林です。

ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。


親子丼

中川 正子


鶏のもも肉買って、と。
玉ねぎあったかな。
一応買っとこ。
三つ葉は今日は省略でいいや。
電動ママチャリを「パワーモード」にして
猛ダッシュで帰宅する。

岡山に住みながら
全国各地に仕事で向かう日々。
一番の気がかりは
不在時の家族のごはん。

忙しい夫は料理をする余裕がないので
彼が帰宅して
簡単に温められるものを準備して
いつも出かける。

今日は親子丼。
こういう時の定番のひとつ。
簡単だし、息子の大好物。

子供が生まれる前はもっと、
凝った料理を作っていたなと思い出す。
凝った、といっても、
スパイスをいろいろ使ってみるとか
その程度だけれど。

帰宅は深夜になることが多かったから
食事は仕事仲間や友人と外食がほとんどで、
たまの料理は日々の営みというよりは
エンターテイメントという位置付けだった。

ポルトガルを旅したときの記憶をメモして
自分流に作ってみたり
フランスの家庭料理をアレンジしたりとか。
キャンドルともして、「おしゃれな食卓」を
激忙の日々の隙間にやって満足していた。

母が作っていた味を
思い出すようになったのは
息子が生まれてからのこと。
ママはどんなものを作ってくれていたかな。
記憶をたぐるとみるみる蘇る。

煮魚、鶏団子と春雨のスープ。
肉じゃがを始めさまざまな煮物。
おひたし、白和え。ハンバーグ。
揚げたいろいろ。
ごくごく、ふつうの和食。

そういえば実家には
クミンとかコリアンダーとか、
ライスペーパーとかタリアテッレとか。
そんなものは一切なかった。
それらはわたしが、
家を出てから知った異国の味。

でも母の料理は
いつもいつも、おいしかった。

息子が生まれ、育ち始めてからわたしは、
ふだんの日のための料理を作り始めた。
凝った盛り付けもなく
エキゾチックなスパイスも入っていない、
シンプルで、すぐできて、やさしい味わいの。

それらは作ってみるとどれも奥が深く、
そして、毎日食べるのにふさわしかった。

うちの少年はよく食べた。
元少年であるところの夫もよく食べた。
ハレの日の料理ばかりだった
我が家のダイニングテーブルに
ケの日のものが並ぶようになった。

わたしにとっての料理は、
センスをどうだ!って見せつけるための
「作品」ではなくなった。

今日もこれから東京へ撮影にでかける。

鶏肉、玉ねぎ、だし汁、
醤油とみりんと砂糖とお酒。
それらを鍋で温める。
卵とフライパンの蓋はわかるように
かたわらに置いておく。

サラダは冷蔵庫だから食べてね、
明後日帰るからね。
そう書いた手紙を食卓に残し
機材をまとめて駅へ向かう。

きっと新幹線からわたしは
しつこくまた
メッセージを送るだろう。
火はいれすぎないでね。
卵は半熟がおいしいよ。

夫からは
息子ががっつく様子を演出した写真が
いつものように送り返されてくるだろう。

専業主婦だった母のように
毎日一緒に
いてあげられないこともあるけれど
彼がいつか大人になったとき、
あの味を思い出してくれたらいいなと思う。

やたら長い置き手紙と共にあった
とくに特徴のない、
ごくふつうのあたりまえの親子丼として。

いかがでしたか?

ほんの数分ではありますが、心の緊張がほどけたり、すうっと眠りに入るきっかけとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。

どうかこの一週間のささやかなエールが届きますように。

 

また、今回はお店よりお知らせがあります。

これまで44夜にわたりお届けしてきたこのエッセイラジオですが、今回をいったん最終回とさせていただくことに致しました。

もともと当店のメールマガジン限定で掲載していた様々な方に寄稿していただいたエッセイを、改めて「声」でお届けしなおそうと約2年前にスタートした取り組みでした。

お便りでは視聴者の皆さまより「心が安らいだ」「背中を押された」と嬉しいお言葉をいただき、私たちも励まされていました。

この2年のあいだ、様々な変化に向き合い対応するなかで、少しでもこのエッセイラジオが皆さまの暮らしや心にも寄り添えるものとなっていたら嬉しく思います。

またどこかで音声で楽しんでいただけるコンテンツを新たにお届けできたらと思っていますので、ぜひその日までお待ちいただければ幸いです。

それでは、また会える日まで。

 

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