【眠るまえのショートストーリー】vol.6_トナカイのセーター
あわただしい一週間をかけ抜けている皆さまへ。眠るまえの、ちょっとした時間でも読める、童話のようなショートストーリーをお届けします。本を手にとる元気がない日、心に余裕がない日でも、ひととき現実を忘れて、物語の世界へもぐり込んで。今日という日が心地よく幕をとじ、よい眠りにつけますように……
ヒツジ雲
小包をあけたユキノさんは、驚いてしまいました。
「ちょっと早いけど、メリークリスマス」のメッセージと一緒に入っていたのは、ニカッと笑ったトナカイがスパンコールとともに編み込まれた、たいへん派手なセーターでした。差出人は、英国にいる孫娘。
ユキノさんがシックなものを好むことは、彼女も知っているはずです。なのにどうして。
「贈り先を間違えてしまったのかしら」
ユキノさんは真っ赤なセーターを広げたまま、首をかしげました。
孫娘に連絡をすると、「あのセーター、面白いでしょ」と、元気な返事が返ってきました。
「ええ、そうねえ…なんというか…」とユキノさんが口ごもると、
「まったくおばあちゃんらしくない」と、孫娘はズバリと言いました。
そして、「こちらイギリスでは、クリスマスにあわせて、いかにも手作りのやぼったいセーターを着るのがはやっているの。おばあちゃんの趣味ではないと思うけど、まあ、ちょっと着てみてよ。楽しい気分になるから」と言うと、「メリークリスマス!」と画面の向こうから朗らかに手を振りました。
ユキノさんは、ちょっと袖を通してみました。見た目は派手ですが、着心地がよくてあったかい。
ユキノさんは鏡に映った自分を見てちょっと笑いました。こんなおばあさんが、こんなファンキーなセーターを着ているなんて。
「まあ、家の中で着るぐらいなら、いいかしらね。さすがに私には派手すぎるけれど。せめて、いつもより濃いめの紅をさしましょうか」
引き出しにしまいこんでいた紅をひくと、表情が明るくなった気がします。
そのとき、呼び鈴が鳴りました。慌てて出ていくと、宅配便の人が立っていました。
「わ!そのセーター!」と、いつもは無口なその人が声を上げました。
「孫がくれたんですよ」とちょっと頬を赤らめて、ユキノさんは答えました。
「とっても素敵です! クリスマスの色だ。楽しい気分になりますね。わたしも母に、そんなセーターを贈りたいです」と、その人はにこにこしました。
ユキノさんは「こういうのも、なかなか、悪くないかもね。わたしもひとつ編んで、妹に贈ってあげようかしら」と考えて、「さあ、大急ぎでさっそく計画を立てなくては!」と、いそいそと図案を考え始めました。
文/ヒツジ雲
おやすみ前の皆さまに、いい夢をお届けできるようなショートストーリーをつくっているユニット
イラスト/杉本さなえ
鳥取出身。2018年から福岡を拠点に活動。少女や花、動物などをモチーフにした物語性のあるイラストレーションを制作。近年は墨汁の黒と朱の2色のみで描く作品に力を入れている。イラストレーターとしても活動中。2018年に作品集「Close Your Ears」発行。
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