【繕うふたり】後編:僕の役割は「良い感じの場を作る仕事」なのだと思っています(竹内 × 村田)
ライター 長谷川賢人
ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。
でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。
今回は、お店で取り扱う商品を決めるバイイングや、先々の計画を立てたりする「MDチーム」の竹内と、クラシコムやお店を裏側から支える「システムプラットフォーム部」の村田が登場。
登場するふたりは、共に「マネージャー」を任されているという共通点があります。現在、それぞれが10名ずつのメンバーをまとめる役割です。この役割ならではの難しさもありますが、どんなことを考えながら、日々の仕事を進めているのでしょう?
話してみると、意外にも「心がけ」が似ていることが見えてきました。マネージャーは「いろんな調整をする仕事」で、それは洋服にたとえるなら、ほころびが出そうなところを直しておくようなところがある、と言うのです。
そんな “繕うふたり” ですが、クラシコムでマネージャーとして働いていくなかで、「変わったこと、変わらないこと」はあるのでしょうか?
後編は竹内が主に聞き役となって、村田に色々と質問してみました。
前編を読む
僕にとっては「良い感じの場を作る仕事」です
竹内:
クラシコムに入社するきっかけって、なんでしたか?
村田:
10年くらい前のことですが、クラシコムの本社がある国立に住んでいたことがあって、馴染みのある土地でした。それと、僕の妻はフリーランスの編集者で、クラシコムと仕事をした縁もあって、「こんな会社があるよ。あなたに向いていそう」と紹介してくれました。当時は、僕もフリーランスでデザイナーを続けていたから、頭の片隅に置いておきつつ。
竹内:
デザイナーはずっと続けてきたんですか?
村田:
そうですね、自分の職歴としては一番長いです。大学生のときに先輩の紹介でウェブ制作の仕事を受けるようになって、いっときは友人たちと集まって学生起業もしました。ただ、その仕事だけだと「飽き」が出てきたのもあって、「みんなで一度は就職してみようよ」と、会社は畳むことにしたんです。ただ、個人事業としてのデザイナーは続けていて。
新卒で会社員になったときはプロデューサーの役回りをしたり、その後もデジタルサービスのディレクターをしたりと、その他の経験もしました。クラシコムには2019年の2月に入社です。一応はデザイナーとして期待されていたと思うんですが、今はデザインは一切やっていないと(笑)。
竹内:
2019年なんですね! 村田さんは、何だかもっと前から、マネージャーをしていると思っていました。
村田:
前職までも含めると「マネージャー歴」はあるから、そのせいかも?
竹内:
特にフリーランスだと、一人で仕事を進めることも多いですよね。でも今は、チームとして多くの人を束ねることもある。内容が大きく違うようにも思いますが、抵抗なくできていますか?
村田:
仕事としては別物ですね。でも、僕の中では、いわゆる「マネジメント」というイメージではなくて、「良い感じの場を作る仕事」みたいな感じです。「他人がやりたいこと」や「できること」を理解して、機会を作っていくのも、おそらくはマネージャー役のスキルの一つだと思っています。それはそれで、楽しいんですよ。
やりたい人を育てるために、僕は良い感じの場を作っているんでしょうね。自分自身にやりたいことは他にもあるけれど、やりたい人を育てると、僕も楽しくて仕事が増えるから。
「いろんな人が使うものを作る仕事」だから
竹内:
「良い感じの場を作る仕事」って、わかる気がします。村田さんは子どもの頃から、そういう「場を作る」ような役割は得意でしたか? それこそ、学級委員をしたりとか。
村田:
いえいえ、リーダー役を進んでやるようなタイプではないです。ただ、その場からあふれてしまっている人がいるような状況には「つらい」とは感じますね。僕自身も、学校で居心地が悪い日々を体験したこともあるし、不良なセンパイにびっくりしていたこともあったし。
たぶん、そういう経験もあって、僕の中では「関わるみんなが気持ちよく楽しめている状態」をずっと求めるようになったのだと思います。
竹内:
聞いていて思ったのは、デザイナーとしての仕事は制作物を通して人に向き合いますよね。マネージャーとしての仕事はもっと直接的に人と向き合いますが、どちらもつながっているのかもしれないなって。デザインでも、細かなところに気づかないといけないから、自然と人間関係でも気がつくことが増えることもある、というか。
村田:
そうそう。まさに最近、そのことを思ったんですよ。デザインは、いろんな人が使うものを作る仕事です。誰もが使えるという観点の「ユニバーサルデザイン」もよく聞くようになりました。そういう考えは自分にとってもベースになっていて、好きなことなんでしょうね。
鎧はすっかり脱いで、今はTシャツ1枚みたいな気持ち
竹内:
これまでもマネージャーの役割を務めた村田さんに聞いてみたいのが、クラシコムは他の会社からしても勝手が違うのか、です。何か違いはありますか?
村田:
入社して、しばらくしたら、なんというか……「武装解除」した感じがあって。前職がハードに仕事をこなす業界だったせいもあるんでしょうけど、鎧で身を固めていたんです。「論破されないようにしないと」「クライアントにも交渉で負けないぞ」と張り詰めていて。
竹内:
そう言われてみると、私もこれまでの仕事では、どこかで「もっと自分を強く見せよう」としたりして、頑張っていた感じはありますね。
村田:
それは自分で進んで身につけた鎧かもしれないし、外側から求められて縛り付けられたものかもしれない。実はクラシコムでも一瞬だけ、そういう期間はあったんです。でも、途中からどんどん「必要ないな」と気づかされ、脱いでいきました。今はすっかりTシャツ一枚みたいな感じ。だから、脱いだだけであって、自分の中身そのものは変わっていないんです。
竹内:
そうですね。だから、無理をしている感覚がないのかもしれません。他にも違いはありますか?
村田:
逆に、MDチームって、どうやって進めていますか? たとえば、商品構成の比率を見て、「アパレルは全体の何パーセントにしよう」みたいに考えたりするんでしょうか。
竹内:
そういう数値的な比率はないのですが、全体のバランスはいつも確認していますね。たとえば、売上が高まるからとアパレル商品ばかり並べてしまうのは「北欧、暮らしの道具店」らしさを見失ってしまうかもしれません。その感覚を常に話し合っているというか。
村田:
ビジョンをびしっと決めて、それを説明している感じではないのですね。「今って、こういう状態だよね」と、みんなの認識を共通化しながら進めていく。
竹内:
そうですね。きっと、その進め方にもどかしさを感じる人もいると思います。「なんだか状況がはっきりしないけれど、どちらへ進めばいいんだろう」と。
村田:
あぁ、それはシステムでもよく言われますよ。特にシステムは変えにくいものですから。だから、時にはちゃんと決めないと、スパゲティみたいに絡まり合ってしまう……ただ、考え方としては「この先には、こういう可能性があるよね」という予測はすごくよくします。
僕らの方法は、その都度の可能性を広げていくともいえますし、シンプルな「目標」だけに頼りきらずに進めている、とも言えるのかもしれませんね。
油絵を描くように、バランスを見て
竹内:
今日は「場の作り方」のこと、村田さんも話していた「調整を続ける仕事」という捉え方も含めて、部署は違っても通じるところがあって、とても興味深いです。
やっぱり仕事をしていると。いろんなことが気になっちゃうんですよね。気になったことは見逃したくないし、そのままにしておくのも気持ち悪い。それらを繕うようにしていると、全体が調整された状態になっている、という感じなんだなぁ、って。
村田:
バランス能力がいりますよね。ただ、この能力って自転車に乗るようなもので、一度でも体感しないとわからないんだとも思うんです。これも自転車の練習よろしく、トライアンドエラーを繰り返すしかなくて。誰かに習うよりは、まず自分で気づいて、それを是正するために手足を動かす。結果として数字が変わっていく。それに慣れるしかないんだろうと。
あと、マネージャーの役割としては、僕は絵を描いている感覚にも近いんです。
竹内:
絵って、絵画ですか?油絵とかの?
村田:
そうそう。色を塗りながらも、時にはちょっと引いて、全体のバランスを見たりするじゃないですか。「この色だけ主張が強くて、主題がわからないな」みたいに思い直したり。特に油絵のたとえはぴったりで、ずっと塗り重ねられるから、終わりがないと言えば、ない。
もうこの20年くらいは、いろいろと会社や人間関係は渡りながらも、その時々のスパンで描いている気がしますね。
竹内:
村田さん自身が仕事で「楽しい!」って感じるときって、いつですか?
村田:
関わっているメンバーと1対1で話したときに、その人に何かしらの変化が生まれていることは一つですね。変わり続けていること自体に、小さな喜びを感じるんです。それとは別に、もっと大きな喜びとしては……やっぱり「わかりあえた!」と思えたときですかね。
難しい問題に対して進み方がわからないような時でも、ぐっと耐えて話し続けたり、手を動かし続けたりすると、ふと「わかった!」が生まれる時がある。お互いに「わかった!」という体験を一緒にできた瞬間が、僕はすごく嬉しいです。この数年でも数回あったかな、くらいに、なかなか無い体験ではあるんですけどね。
(おわり)
【写真】川村恵理
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