【大人のひとり時間】後編:疲れた日に帰るところは、癒しの場でありたい。約33平米の部屋づくり
ライター 大野麻里
長野県で美容室「Kanade(かなで)」を営んでいる本山聖子(もとやま せいこ)さんの住まいを、前後編でお届けしています。
約33平米のメゾネットタイプの1LDKの部屋で、ひとり暮らしをしている本山さん。築浅のきれいな賃貸に、アンティークの家具や国内外で集めた数々の雑貨を配置して、 “好きなもの” をぎゅっと詰め込んでいます。
後編では、「ひとりの時間が大好き」と話す本山さんのインテリアの根底にある考え方にクローズアップ。賃貸物件でも自分好みの部屋をつくる工夫についても紹介します。
至高のひとり時間を過ごせる部屋
数年間の海外生活を経て、時間をかけて完成した本山さんの理想の住まい。日本でこれまでどんな部屋に住んでいたのかを尋ねると、意外な答えが返ってきました。
本山さん:
「それがですね、長野でひとり暮らしを始めた20代の頃は、何にもやる気が起きない部屋に住んでいました。どちらかというと汚部屋みたいな(笑)。理想はあったんですけど、0か100かみたいな性格で、やる気を失うとも何もできなかったんですよね。
年齢的に家賃もそんなに出せないから、狭くて天井の低い部屋。仕事も覚え始めで余裕もなくて。部屋はハチャメチャだったけど、ただ帰って寝るだけみたいな感覚でした」
▲現在はダイニングテーブルの花を欠かすことはないそう
本山さん:
「若いころは、外に出かけることが楽しみだったと思います。逆に、年齢を重ねたいまは家でゆっくりコーヒーを飲んだり本を読んだり、自分の時間が大切になりました。
天気のいい日に窓を開けて、洗濯をして、ただ日常が流れる。そういうなかに幸せがいっぱいあるなって。そこに気づいて、だからこそ部屋を整えるようになったのかな。
朝早くから夜遅くまで働いているので、帰ってくるところが癒される場所であるということが改めて大事だなと。家って、そういう役割があるはずだと思います」
▲取材中、お茶を出していただきました。茶器は善光寺近くにある「夏至」で購入したものだそう
本山さん:
「接客業ということもあって、私はおしゃべりでエネルギーを使いすぎてしまうことも(笑)。その分、ひとりの時間が必要です。
自分と向き合って、冷静に考えをまとめる時間。もちろん親しいお客さまや友人と過ごす時間も好きですが、家でひとりでいる時間が幸せなんですよね。
人間ですから、部屋が汚くなるときは心や気持ちが荒れているときです。いまでも部屋を散らかすことはあるけれど、『これはいけない』と思って直すようになりました。汚部屋時代を考えると、人ってずいぶんチェンジできるものですね」
味わいがあるものをなじませたソファスペース
ダイニングスペースの横には、やや奥まった小さめの部屋があり、本山さんはここをソファスペースにしていました。この空間もまた、味わいのあるものを上手に部屋になじませています。
本山さん:
「扉があるので寝室に使う人もいるかもしれませんが、私はここをくつろげるスペースに。小さなソファを置いて、テレビを観たり本を読んだりして過ごしています。
ソファは譲り受けたものの、色が部屋に合わなかったので、何かかぶせれば使えるかなと思って。ラリーキルトの布と、小さなギャッベの絨毯でカバーして、部屋の雰囲気に合うようにしてみました」
本を置いていたのは、脚付きのかごに見えますが……。
本山さん:
「実は複数の家具を重ねているだけ(笑)。古道具屋で買った脚がななめになっている椅子の上に、古いそば打ちのこね鉢と、編みかごを重ねています。脚の下にぶら下げたのは、一部革が切れてしまった蜂の巣のようなバッグです。
安いものや使えなくなったものも、自分で重ねたり組み合わせたりして新しいデザインにするのが好きなんですよね」
▲残念ながら枯れてしまった観葉植物には、モビールやオーナメントを吊るしてディスプレイ
扉で隠れて見えない場所には、“見せる収納” のスペースが。北欧アンティークの木製の洗濯物干しを置き、バッグやベルト、帽子などを保管する収納スペースにしています。
本山さん:
「ここにはよく使っているものを置いて、それ以外の衣類はクローゼットへ。好きだからこそ、いちいち収納の奥から引っ張り出したり片付けたりすることなく、手の届く場所に置いて常に目にしていたいのかもしれません。
ものが増えすぎたら、人にあげています。愛着があったものは知っている人に使ってもらいたくて、知人に譲り渡すことがほとんどです」
▲アクセサリーケースにしているのは、古道具屋で購入した昔の絵の具入れ
買えなくても、「見ること」で本物を知れたら
▲気に入ったデザインの紙ものは箱に入れて保管
アートの展覧会や、作家さんの個展など、気に入った展示は積極的に足を運ぶようにしているという本山さん。
本山さん:
「買えないものもたくさんありますけど、見ることの必要性が、自分が次に買うものの選択肢の幅を広げてくれるんじゃないかなと考えています。だから『買えないから見ない』ではなく、いいものはたくさん見ておきたいんですよね」
▲「ポジティブなイメージがある」と、鳥や馬のモチーフはつい集めてしまうとか
本山さん:
「海外へ行く機会があれば、そのときもたくさん『見る』ことを大切にしています。本物とそうでないものがあったとして、どちらも知らなければその違いもわからないですから。
その目を養っておけば、仕事でももちろん、人生を通していつか役に立つのではないかなと思っています」
▲ポスターは長野市の「flat file」で額装。さりげないピンク色の縁取りがお気に入り
▲子ども用の椅子は須坂市の「GARDEN SOIL」で購入。やわらかくて雑貨を傷つけずにホコリを取れる、イリス・ハントバーク社の山羊毛ブラシも愛用品
話を聞けば聞くほど感じたのは、本山さんが生きてきた厚みのようなもの。
誰かの真似をして「かっこいいから」と飾っているだけではない、本当に好きなものを集めた部屋づくりは、大きな学びがありました。
そして、地元民だからこそ知る、その地域のいい店でものを買うこともまた、本山さんの好きなことのようでした。今回、長野にたくさんの素敵なインテリアショップがあることを教えていただいたので、休日に改めて足を運びたいと思います。
【写真】上原未嗣
もくじ
本山 聖子
長野県長野市にある美容室「Kanade」のオーナー。ロンドンでの留学経験、ミラノでの美容室勤務を経て、2017年に自身の美容室をオープン。店では海外から買い付けた、雑貨や子ども服、アクセサリーなどを販売するコーナーも。https://kanade-salon.com/
Instagram:@tumugi.kanade
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