【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第十八回:大満足!
山本 ふみこ
「草刈りがなかったら、自分の仕事量のうちの70パーセントが軽減する!」
「近くに映画館がないから、映画を観るとなると、いちにち仕事」
「きょう、たまったメールの返信しかできなかった」
これらは昨日、聞いたり自分の口から飛びだした
ヒトは、自分の持っている時間、自分のキャパシティ(容量)に対して過大な期待をするものなのだな、と思わずにはいられません。もっとできるはず、もっとやらなくちゃ、と追いこむのは……どうかしていやしないでしょうか。
昨日の台詞たちについて云えば、こうです。
経営者として、大学のせんせいとして、ほか、毎日大忙しのわたしの友人に、その上草刈りの仕事があるなんて、なんて豊かなことではありませんか。
遠くの映画館に出かけてゆくのに、どんなに時間がかかったとしても、移動のあいだにも小さな旅が実現しているはずです。
メールの返信をためたのは、わたしです。こういうことはささいなことかもしれないけれど、返信が完了したら相当肩の荷が下りるのですよ。
「大満足!」
と、小さく叫んでみます。
「大満足!」
もう少し、音量を上げて叫んでみます。
そうです。
もっともっと自分の時間の使い方、いちにちにおける仕事としごと ── 職業の仕事を漢字で、家のしごとをひらがなで書くことにしています ── の出来高を讃えたほうがいい!
では、自分の分をやりなおします。
きょう、わたしはずっと気になっていてできないでいたメールの返信を、全部やり遂げました。
よくやりました、ふみこ!
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。著書多数。最新刊『むべなるかな』(ふみ虫舎)のお求めは、山本ふみこ公式HPへ。
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/
https://www.fumimushi.com/うんたったラジオ/
写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
https://067.jp
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