【連載|お星さんがたべたい】06:なに食べる? なに食べたい?
なにかをたべるときはいつも「元気をだそう」とおもっています。スーパーマリオブラザーズのマリオはお星さんにぶつかると、からだじゅうを光らすほどの元気をだすけれど、あれの、もっとささやかな感じが、わたしにとってのごはんです。つまり、ごはんは、わたしのお星さんです。とどのつまり、元気のでるごはんにまつわるエッセーを書くことになりました。
小原 晩
だれかとごはんへ行ったとき、それが喫茶店なら無難にホットコーヒーを頼めばいい。
けれどたとえば居酒屋のような、ふたりで一緒に食べるものを頼むところでは「なに食べる?」「なに食べたい?」という会話をすることになる。そういうとき、いつも私はこわばっている。自分がなにを食べたいのか、さっぱりわからなくなってしまうのだ。メニューに書かれた手書きの文字がすべる、すべる。
だから相手に「こういうの決めれるひと?」とまず聞いてみる。
「うん、決めれる」と簡単に言ってのけるひとがいる。
それは自分の食べたいものがいつもわかるひと、自分の食べたいものを他人に知られても困らないひと、自分の食べたいものと相手の食べたいものをいい感じに考えられるひと、揚げ物多すぎじゃない? とか思われてもぜんぜん気にしないひと。かっこういい。あこがれる。わたしはいつもそういうひとの影に隠れて、そういうひとの頼んでくれたものを盗むようにこそこそと食べている。かっこうわるい。
けれど、ときどき、決められるひとでも「一品くらいは好きなの頼んでよ」と言うひとがいる。やさしさだとわかっているけれど、困り果ててしまう。ええと、ええっと、と言いながらメニューをめくっているとだらだらいやな汗をかく。
そういうことを大人になってから何度も繰り返してきたので「一品くらいは好きなの頼んでよ」と言われた時には何を頼むかもう決めている。だし巻き玉子である。無難っぽいからである。誰にもなにも思われることのなさそうなものだからである。哀しい話である。
おまえさんがなにを注文しようが誰もなにも思わないよ、というのがどれだけごもっともなご意見だとしても、わたしは誰かを前にしたとき、自分の食べたいものや自分の好きなものが急にわからなくなる。他人と一緒にいるときは、いつもちいさなパニックがある。
でも、だれかとごはんを食べること、それ自体は、好きだ。
自分勝手だとは思うけれど、わたしはあなたがなにを頼むのか知りたい。あなたの食べたいものを今日は食べたい。わたしの頭の中はずっとごちゃごちゃとして、うまく喋ることもできないし、あなたを楽しませることもきっとできないけれど、涼しくなった頃にでもごはんを食べにいきたいです。おいしいだし巻き玉子をだしてくれるお店へ行きましょう。
文/小原晩(おばら ばん)
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。
写真/服部恭平(はっとり きょうへい)
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。
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