【最終回|連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第二十四回:さあ、ようこそお帰り
山本 ふみこ
寒くなってくると、読み返したくなる本があります。
『雪のひとひら』(新潮文庫)です。
ひとりの女性の誕生から死までをファンタジーの形式で描いたこの作品の主人公・雪のひとひらは、1滴の水。
ある寒い冬の日、地上を何マイルも離れたはるかな空の高みで、雪のひとひらは、生まれました。
水の属性といえば、まず「流れる」です。流れる、すなわち活動です。かたちを変えながら、活動をつづけます。雪のひとひらは、恋もすれば、伴侶とともに湖や河に……。
おお、つい書き過ぎてしまったようです。
どうしても皆さんには、この本を手にとって、ゆっくり読んでいただきたいのに。
物語をつくったポール・ギャリコをはじめ、わたしは女性だと思いこんでいました。ところが、男性なのでした! 1952年、ギャリコ55歳のときの作品です。
「ハリスおばさんシリーズ」や『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年映画化)など、『雪のひとひら』とは趣を異(こと)にする作品にも驚かされます。
驚かされると云えば、翻訳者の矢川澄子にも、です。
原題の『SNOWFLAKE』を「雪のひとひら」と訳すセンスは、いったいどんなところから生まれるのでしょうね。
そんなこともお伝えしたかったのです。
さて、皆さん、そろそろお別れが近づいてきました。
今回が「たゆたゆ」の最終回です。
終わるはさびしい一面を持っていますが、一方で、それはあなたさまにとってもわたしにとっても、また、あたらしい何かがはじまる合図でもあります。
物語のさいご、臨終のときをむかえた「雪のひとひら」の耳に聞こえてきた、なつかしくもやさしい声をここにそっと置くこととしましょう。
……さようならのご挨拶のかわりに。
──「ごくろうさまだった、小さな雪のひとひら。さあ、ようこそお帰り」
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。著書多数。最新刊『むべなるかな』(ふみ虫舎)のお求めは、山本ふみこ公式HPへ。
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/
https://www.fumimushi.com/うんたったラジオ/
写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
https://067.jp
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